第23話 防衛戦

 「残ってる移動型カタパルトとバリスタは?」

 「移動型は各三機!設置型が各五機です!」

 「少ないな、このまま私も出るわ」

 「待ってください!私も行きます!」

 慌ただしく指示を飛ばしながら防具を身につけているとカタリナ嬢から申し出があった。

 既に実戦経験もあり学園の闘技大会で優勝している実力者でもあるカタリナ嬢の申し出は正直ありがたかった。

 「こういう時のために残ったんですから」

 防具を手早く身につけて二人で詰所を出る。

 飛び出したリアンナ嬢を追う役目を衛兵の一人に託して十名ほどの衛兵を引き連れて北西に向かい馬を走らせた。


 電気柵が作動したのだろう焦臭さが周囲に漂い、土煙が見える。

 設置してあるカタパルトとバリスタに人員を走らせて移動型を展開。

 片手をあげて合図を送り一斉射出を行う。

 派手な音を立てて群がる中型魔獣の薄い影に向かい矢や石が降り注ぐ。

 「オークキングですね」

 「体力お化けじゃないの」

 晴れた土煙の間から豚の顔を持つ二足歩行の巨体がゆらゆらと姿を見せた。

 「オークキング三体かぁ、アイツら弱点らしい弱点ないからやりにくいわね」

 「斬るにしても厚いですからね」

 電気柵を越えれずに苛ついているところにカタパルトとバリスタの攻撃を浴びたオークキングが興奮しながら威嚇している。

 戦力が明らかに足りていない。

 参ったなと思いながら手の中に炎を作り出す。

 「焼豚にしちゃうぞっと」

 作り出した炎を手前のオークキングに投げつけると引火したオークキングが転がりながら火を消している。

 一応炎は有効らしい、しかし私の魔術ではダメージにはならないだろう。

 「一体なら何とかなりそうですが、これは」

 そう、王国騎士団ですら数十人で対処しなければならないオークキングが三体、雑魚に数えれる魔獣は先のカタパルトとバリスタからの攻撃で散り散りになっているが、正直このままでは電気柵を突破されるのも時間の問題。

 数度の投擲による攻撃もそろそろ足止めにすらならなくなってきていた。

 ドォンと大きな地鳴りの後、巨大な火柱が立ち昇った。

 瞬く間に広がった炎が森に引火し始める、慌てて後ろを振り向くとリアンナ嬢が魔術を放っていた。

 「やめなさい!」

 「何をしているの?あんなのに手こずるなんて!」

 止める私の言葉を聞かずにリアンナ嬢は巨大な炎を連続してぶつけていく。

 慌てたカタリナ嬢がリアンナ嬢の手薄な鳩尾に拳を叩き込んだ。

 「な、何するのよ!」

 「あなたこそ!ご自分が何をしたのかわからないのですか!」

 怒鳴ったカタリナ嬢の言葉を受けたリアンナ嬢が視線を漸く前に向ける。

 錯乱したオークキングの向こう側で森が燃え始めていた。

 「直ぐに消火に回る人員を割いて!」

 私はリアンナ嬢をカタリナ嬢に任せて森を睨んだ。

 不味い。

 このまま森が焼ければ住処を追われた魔獣が雪崩寄せてしまう。

 炎に混乱した魔獣が見境なく集団で領都に押し寄せれば、間違いなく大災害となる。

 「スタンピード、魔獣の集団暴走……なんてことを……」

 「そ、そんなつもりじゃあ……」

 呆然とするリアンナ嬢と唇を噛むカタリナ嬢、更に運の悪いことにそれまで何とか耐えていた電気柵の一箇所が爆炎を何度も受けたためその機能を失いオークキングの体当たりにバキッと音を響かせて破られた。

 押し寄せるオークキングがリアンナ嬢を捉えた。

 「逃げっ……っ」

 振りかぶったオークキングの手がパシュッという音と共に後ろへ倒れた。

 「お?間に合ったみたいだな、カルバーノ子爵!ご注文の品を届けに来たぜ」

 真っ青な顔で地面に座り込んだリアンナ嬢の後ろから魔銃を携えたセダム王子が姿を見せた。

 「丁度良い!試し撃ちだ!」

 そう声をあげてセダム王子が手にした銃身の長い魔銃を構えると残ったオークキング二体の額を撃ち抜いた。

 ズドンと地面を揺らしてオークキングが倒れる、ほぼ同時に森を焼いていた炎が水の魔術で消化された。

 「セダム王子、ありがとうございます」

 「すまない、もう少し早く到着出来ていたら良かったんだが」

 「いえ、助かりました」

 「これで少しはクリストファーに恩を売れたろう」

 ふふんと鼻を鳴らしながらセダム王子が魔銃を私に手渡した。

 凶悪な魔獣が多く棲息する北の国ユーフォリビアの兵器、それは何十年も前にユーフォリビアに現れた『前世持ち』が齎したもの。

 ただし、その人物はこれを人に対して使用することを禁じ、その上で魔塔の術師を迎えて作り上げたらしい。

 今回鎖国に近い状態にあったユーフォリビアが漸く作った交易の要として、このカルバーノ領を重要視し一定の条件のもとで魔獣対策として魔銃の輸出を決めてもらった。

 その経緯を含めて感謝しかないわけだが、当のセダム王子はクリスに恩を売れたとはしゃいでいる。

 私はカタリナ嬢にリアンナ嬢を領都に連れて行くように頼んで、森から抜け出てきた魔獣の残党狩りに向かう。

 同時に電気柵の修繕を支持してセダム王子に礼を言った。

 「雑魚狩りか、よし、付き合おう」

 「いえ、他国の王子を危険に合わせるわけには」

 「この程度が俺に危険となるわけないだろう、精々が良い運動だ」

 気楽に言って腰に刺した剣をセダム王子が抜いた。

 私は受け取った魔銃に魔力を込めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る