第21話 婚約者候補たち
カタリナ=パレタイン男爵令嬢。
私たちの二つ歳下の彼女は現在王立学園の二年生。
栗色の髪は緩いウェーブがかかり、蜂蜜色の瞳が印象的な彼女は今年の学園で行われた剣技大会総合部門に於いて優勝、小柄な体躯で競技場を駆け回る姿が印象的だったとか。
ただ、その強さが仇となり婚約者であった伯爵家四男から破棄を申し渡され、現在婚活中。
しかし武勇伝が先行して上手く行っていないのに加えて元婚約者が彼女を乱暴者と噂を流したためさらに状況が悪化。
そんな折、エルスト公爵家主催のお茶会で謂れなき中傷に晒されているカタリナ嬢に手を差し伸べたのがオッフィさま。
男爵家の一人娘であるカタリナ嬢にサミエルを紹介、カタリナ嬢はサミエルを知っていたらしく二つ返事で今回の話となったらしい。
私とクリス、当事者のサミエルの前にはそのカタリナ嬢がちょこんと借りてきた猫のように緊張しながら座っている。
「男爵家は君が継ぐんだよね?そうなると僕はカルバーノから離れる気がないから別居ということになってしまうけど?」
「あ、いえ、私ではなくサミエルさまに継いで貰えたら、住む場所は王都でなくて良いのです」
事情を聞けば、サミエルは父方からの遠縁になるらしく、さらに男爵家には領地がなく現在のパレタイン男爵は王宮勤めらしい。
サミエルがカタリナ嬢と婚姻すれば男爵位を継いで本宅をカルバーノ領に置いて良いと、サミエルに対しては良過ぎる話。
それにパレタイン男爵家はファステン侯爵家の派閥にいる。
申し分ない相手である。
私はチラッとサミエルの様子を伺う。
サミエルも満更ではないように見える。
「あ、あの!私きっと魔獣討伐でもお役に立てると思うんです!」
そう言うカタリナ嬢の言葉は決して驕りではない、がサミエルは首を横に振った。
「僕は僕が大事に想うひとを危険な場所に連れていく気はないよ、君の強さの問題じゃない」
それは私に討伐隊へ加わらせないことでもわかる、けれど途端にカタリナ嬢が肩を落とした。
「わ、私、他にお役に立てそうなこと出来なくて」
今にも泣き出しそうに震えるカタリナ嬢にサミエルが立ち上がり膝を付いた。
「僕はこの話を受けようと思う、けれどそのためには君がカルバーノを気に入ってくれなければならないんだ、だからゆっくり考えて欲しい」
青い瞳が蕩けるように弧を描く、我が弟ながら恐ろしい。
カタリナ嬢が頬を真っ赤に染めてサミエルに見惚れている。
「暫くカルバーノに滞在するのでしょう?案内は僕に任せてくれるかな?」
にっこりと微笑むサミエルに私とクリスは苦い笑いを浮かべた。
カタリナ嬢とサミエルの付き合いは順調なようで、時間を見繕っては領内をサミエルが案内している。
早朝には二人で剣の鍛錬もしているようで、たまに寝室にまで二人の模擬戦の声が聞こえてくる。
そうこうしているうちに、フィンの妹であるリアンナ嬢がやってきた。
「リアンナ=ドルフです、いつもフィンお兄さまがお世話になっています」
勝ち気なアーモンドアイをした明るいオレンジの髪をふわりと揺らしてリアンナ嬢がカテーシーをする。
「グロリオサ=カルバーノよ、よろしくね」
微笑むリアンナ嬢の背後にいるフィンは眉間に皺を寄せている。
「あなたがサミエルさまですね!兄からお話を伺っております!」
「私はお前にサミエルの話をした記憶はないよ」
「そう、ドルフ伯爵令嬢よろしくね」
わざと線引きをする物言いは学園時代に何度も見た光景だ。
「リアンナとお呼びください」
「いえ、伯爵家のご令嬢を名前で呼ぶことは出来ません」
フィンが困っていたのが頷ける、グイグイ来る令嬢はサミエルが倦厭するタイプだ。
平然とサミエルの手を取るリアンナ嬢の手を器用に外してサミエルは軽く会釈をする。
「僕はこの後カタリナ嬢と出かける約束があるのでここで失礼しますね」
「は?」
サミエルの言葉にリアンナ嬢のアーモンドアイが見開かれてフィンをキッと睨みつけた。
「か、カタリナ嬢とは?」
「ああ、カタリナ嬢は僕の婚約者候補です」
にっこりと微笑んでサミエルが答えるとサッサと応接室を後にする。
「カタリナ嬢!お待たせしてしまい申し訳ありません」
わざわざ聞こえるように声を上げたサミエルの足音が応接室から遠ざかる。
「カタリナ嬢は正式に婚約者としてサミエルに申し込みをしている方なんだよ」
暗にお前とは立場が違うとフィンが口にするが、リアンナ嬢は震えながらこめかみに青筋を浮かべていた。
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