第20話 魔獣討伐

 感謝祭も終わり、夏が過ぎれば収穫期となる。

 当然カルバーノ領の農耕地でもそれは変わらない。

 実りが豊かであればあるほど困るのが魔獣の被害。

 執務室に運ばれてくる嘆願書も討伐依頼が増えてくる。

 大掛かりな魔獣討伐となると夏前にファステン侯爵領に派兵を依頼した一軍を迎えて行うことになるけれど、それ以外の小規模討伐になると領地で抱える傭兵隊や冒険者ギルドへの領主からの依頼として申請することになる。

 

 防衛の面では今年導入した電気柵に加えて、魔塔の担当者がノリノリで改造したカタパルトやバリスタがメインとなる。

 威力を魔術で底上げしたそれらの兵器は前世知識で作られた外国製。

 それに魔塔が独自に改造したものなので威力はある、威力はあるけど攻撃自体は大雑把で結局撃ち漏らした魔獣は人が対処するしかない。

 魔獣の目撃情報を収集しながら今年の対処に割く兵力を振り分けていく。

 

 「ファステンからの討伐隊が来るまでひと月だっけ?」

 「そうね、それまでなんとか凌がないとね」

 サミエルと例年の状況と比較しながら細々と決めていく。

 「今年は私も討伐に出ようかしら」

 「何言ってるの?義姉さん、ダメにきまっているでしょう」

 私の言葉を耳聡く聞いたサミエルがピシャリと言って退ける。

 「そうだね、リオがいく必要はないよ、今年からは私も討伐に出るから」

 「え?」

 「もうサミエルやフィンとも話をしてあるからね、小規模の討伐隊に加わるよ」

 驚く私にクリスがニコニコと笑顔でサミエルの隣に立つ。

 「義兄さんは王立騎士団で訓練を受けているから、今年からは僕とフィンに加えて義兄さんも小規模討伐隊に加わるんだ、義姉さんは後方をお願いしたいんだ」

 むっと顔を顰めるけれどサミエルに上手く丸め込まれてしまう。

 「近辺はそう危険な魔獣も居ないからね」

 なら私も加わっていいんじゃないのかしら、とも思うけれどサミエルだけではなくクリスにまでにっこり笑って止めらてしまえば何も言えなくなってしまった。

 

 魔術を使用出来るのは平民にも広く存在するけれど魔獣との戦闘に使えるほど強力な魔術は貴族や王族に多い。

 遺伝的なものらしいのでこの辺も貴族や王族が血の繋がりを大事にしている理由でもある。

 ファステンの血を引く私もいざという時に多少は戦闘に参加出来る程度の魔力はある。

 とは言っても私の魔力はそう強いものではないのでサミエルが私を討伐に出したがらないのも仕方がない。

 サミエルも魔力はそう高くないけれど、私の足りない部分を補うんだと学園では剣士としての能力を開花させている。

 王族であるクリスは魔力も高く王立騎士団での訓練で剣の腕も確か。

 フィンは実家のドルフ伯爵家が国内有数の騎士家系でもあり、幼少期より剣技を磨かれていたけれど、家系では異端な程魔術の素養が高い。

 それも彼が実家とうまくいかなかった理由らしいけれど、魔術師としての能力はかなり高い。

 当人が魔術より商売が好きではなければ魔塔にでも行っていたのではないかしら。

 まあ、結論からすれば私は討伐に出るには力不足なのでしょうね。

 少し拗ねているとフィンが邸を訪ねてきた。

 

 フィンから手渡されたドルフ伯爵家の封蝋がある書簡に目を通して私が苦い笑いを漏らした。

 「どうしましょう」

 普段はハッキリし過ぎるほどのフィンが戸惑いを隠せず落ち着きない。

 「どうしようって言ってももう向かってるんじゃあ止めようもないしね」

 私から書簡を受け取りクリスとサミエルも目を通して苦い笑いを漏らす。

 「末の妹さんって僕たちのひとつ下だっけ?」

 「はぁ、もうね、父の魂胆も見え見えなんですよね」

 一周回って書簡を手にしたフィンが便箋を指で弾いた。

 「未だ婚約の整わない妹ですからね、サミエルと合わせたいんですよ」

 「僕?うーん、正直ドルフ家とじゃああんまり……」

 「そう、メリットがないんです、向こうにはあるでしょうが」

 あからさまに嫌な顔をしているフィンにクリスが言いづらそうに声をかけた。

 「あー、オフィリアからサミエルに実は縁談があってね?」

 クリスの言葉に私たちが目を丸くする。

 「少し事情があるらしいんだが、弟もオフィリアも目をかけている男爵家の娘らしいんだ」

 そう言いながら今度はエルスト公爵家の封蝋が付いた書簡を取り出した。

 「これは、確かにオッフィさまが気にかけるわね」

 「釣書に絵姿も同封されているし、サミエル少し考えてみてくれないか?近々コチラにも来るらしいし」

 ええ?と戸惑いながら釣書を手に絵姿を見たサミエルが目を輝かせた。

 「え?本当に僕に?」

 「ええ、オッフィさまからもサミエルにと、ただ条件だけ見ればフィンも……」

 「やめてください、私はまだ失恋の傷が癒ていないんですから」

 「え?フィン失恋したの?」

 その私の言葉を聞いた瞬間三人の残念なものを見るような視線が私に突き刺さった。

 どうしてよ。

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