第14話 夏といえば

 夏です。

 茹だるような暑さに執務室の面々もだらけそうになりながら書類にペンを走らせています、が、暑い。

 「やっぱりエアコンを開発したい」

 「えあこん?最近よく言ってるね、室内の温度を調整する道具だっけ?」

 熱風が吹き込む窓際に立ってクリスが私の言葉に乗ってきた、クリスも暑さで集中力が続かないらしい。

 「そう、今アイデアと仮の提案書を魔塔に送ってるから実現したら執務室と寝室には入れたいよね」

 はぁと長い息を吐きながら新しい書類に目を通していた私が勢いよく立ち上がった。

 「え?何?リオ?」

 「こ!れ!は!クリス!クリス!商会に行きましょう!セバス!馬車の用意を!」

 私は燦然と輝く書類の一文を目に焼き付けて執務室を飛び出した。


 商会のある建物に入り会長室に飛び込むと、サミエルとフィンが驚いて私たちを見た。

 「サミエル!サミエル!これ、どこにあるの?倉庫?港の?わかったありがとう!クリス、港に行きましょう!」

 呆気に取られるクリスを引き摺って私は商会を飛び出す、私の後を追ってサミエルとフィンも付いて出てきた。

 

 待たせたまんまの馬車に乗り港にある商会の倉庫に向かう。

 海から吹く風が心地よいが、暑いものは暑い。


 港の倉庫の中は蒸し風呂だった。


 「あった!これね!ふんふん、やっぱりそうよね!ああ、確か中央広場のオリバーの店にあれがあったわね、出来る!出来るわ!待っていてね!」

 私は倉庫で昨日入荷した積荷から目的のものを持ち中央広場にあるオリバーの店に向かった。

 

 「あら、領主さまいらっしゃい」

 オリバーの店主がにこやかに出てくる、私はオリバーに重曹を出してくれるように頼むと、それと手近にあった南国産の果物を購入して邸に戻ると厨房へと向かった。


 厨房の一角は前世の記憶にある料理を再現するための私専用になっているコーナーがある。

 これは交易の幅が広がり始めた頃、たまたま入荷できた米を料理するために作った場所で、試作をした物のうちこの国の人々の味覚にあったものは商会を通して商品化したりしている。

 そんな厨房に私が駆け込んだことでサミエルとフィンは目を輝かせている。

 よくわかっていないクリスだけが戸惑っているが、今は気にしている場合ではない。


 先ずは買ってきたフルーツを絞って果汁ジュースを用意した、その後グラスを幾つか並べて水を二百ミリリットル、そこに倉庫から持ってきたものを一グラム、さらに重曹を一グラム水に入れて溶かすと水泡が小気味良い音を立てて湧き出した。

 並べたグラスに果汁を入れ、今混ぜたそれを加えた。

 クリスに魔法で氷を出させてそれをグラスにいれれば果汁の炭酸水が完成した。


 私はシュワシュワと音を立てるそれを一気に喉へ流し込んだ。

 突然飲んだことに驚いたクリスが止めようと手を伸ばす。

 「んんっ!これこれ!わぁ懐かしい!」

 眉尻を下げてご満悦の私に先ずはサミエルが並んだグラスの一つを手にして一口飲んだ。

 「んっ!」

 目を丸くしながらグラスの中の液体をじっくり眺める。

 その様子にクリスとフィンもグラスを手にした。

 「んんっな、な、何?え、いや美味しいな?」

 クリスが初めての感覚に戸惑いながらも目を輝かせる。

 「義姉さん、これオレンジとかレモンも良さそうだね?レモネードに加えたら、ああ、ちょっとレシピ出してよ、僕も作ってみるから」

 「ああ、なら私も良いかな?これにワインも良さそうだと思うんだが」

 口々に案を出し始めると厨房に熱気が篭り始めた。

 「で、これは何?」

 「昨日届いた中にクエン酸があったのよ、作れるものじゃないと思っていたんだけど、水にクエン酸と重曹を足すと炭酸水が出来るの」

 「たんさんすい」

 「そう、理科の実験が生きたわぁ懐かしいし今日は暑いから尚更美味しい」

 

 結局これはそのまま商会から商品化された。

 街の出店にレモネードが並ぶ時期だったこともあり、レモネードに炭酸水を加えたこの飲料は、新しい名物のひとつになった。

 

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