第13話 魔獣対策
「いやだ、帰らない」
「ほら!良い加減にしてくださいませ!」
「やだ、私もずっとここに住む」
「何馬鹿な事を言ってるんですか!そろそろ皆様のご迷惑になりますから、柱を離しなさいませ!」
朝から賑やかに柱にしがみつく王太子ことジオさまとジオさまを引き剥がしているオッフィーさまのやりとりを私とクリスとサミエル、そして王都への帰路に引率としてついていくために迎えに来ていたフィンが苦笑いで見ている。
結婚式翌日から一週間、休暇を兼ねてカルバーノ領内を散策したジオさまとオッフィーさま、特にジオさまはカルバーノ領を気に入ったらしく昨日から何とか滞在を伸ばせないかと四苦八苦していたが、努力虚しく朝から帰宅拒否を発動してオッフィーを困らせている、とはいえ私たちもこの後それぞれに仕事の予定があるためそろそろジオさまには諦めて貰わなければならない。
見かねたクリスがジオさまを強引に柱から引き剥がし馬車にぺいっと投げ入れるとオッフィーを馬車に乗せ扉を閉めた。
日常が帰ってきた。
いよいよ夏本番、前世日本ほどではないにしろ山脈に囲まれたこの土地柄、夏はとても暑い。
この暑い季節を越えると秋が来る、魔獣も来る。
この魔獣対策は国内どこにあっても大きな問題なんだけど、今年はこの対策の一つとして前世の害獣対策の一つを応用出来ないかと考えている。
今日はその開発に魔塔のカルバーノ領担当者と会議があるのだけど。
「魔塔の担当者って男なの?」
「今日来るのはルバートですね」
クリスの質問にサミエルが答える。
むっと不機嫌に口を尖らせたクリスが私の赤い髪を掬った。
「私も一緒ではダメだろうか」
「商会の予定は大丈夫なんですか?」
私が聞き返せばサミエルがヒラヒラと手を振り大丈夫と合図をくれた。
「なら一緒に行きましょうか、この辺りの魔獣について話す良い機会ですし」
ぱぁっと花が咲いたような笑みを浮かべたクリスがうんうんと何度も頷いている。
さてこの一見恋愛脳な世界にも魔物や魔獣がいる。
前世で言うところの害獣に近い、その強さもピンキリで人の住む辺りに居るのはそう凶悪な魔獣や大型の魔獣は少ない。
少ないだけで居ないわけではないし、その被害も甚大なわけで魔獣対策は領地を持つ貴族にとってかなり深刻で重大な案件なの。
特に冬になれば魔獣が好む餌がなくなるから秋ごろからは頻繁に魔獣が山や森から現れる。
通常魔獣の討伐は秋に行われるため、夏頃から今年の魔獣の被害予想や規模を調べて王都の騎士団や私兵を持つ領、または冒険者や傭兵のギルドに依頼をして討伐を行う。
カルバーノ領では小規模な傭兵団ぐらいしか持たないので、今まではお祖父さまに申請しファステン家の騎士団を派遣してもらっていた。
「っと、大体こんな感じで派遣自体は今年もファステン騎士団の派遣を依頼するんだけど」
魔道具を開発するために魔塔と契約しているカルバーノ領には魔塔から三名の担当者がついている。
今日目の前に座る彼はその担当者の一人でルバートという一見すると熊かと思うような大きな体を小さくしながらソファにちょこんと座っている。
「で、前に受け取った企画書の試作品がこれだ」
ルバートが持参した革の鞄からぐるぐると鉄線を巻いたものを取り出した。
そう、電気柵。
私が考えたのは前世で害獣除けに使われていた電気柵を魔獣除けとして現在木柵で囲われた山の麓や森の周辺を電気柵も併設する。
魔石を通し鉄線に魔獣が当たると強い雷撃が走る、同時に魔石の発動を知らせる仕掛けを傭兵団詰所に設置し、反応があればすぐに駆けつけれるようにするもの。
ルバートが一緒に出した報告にはこの雷撃で小型程度の魔獣であれば撃破が可能らしい。
魔石はポイントごとに設置をし定期的に魔力を補充することで長く使用が可能になる。
「なるほど、これは効果が期待出来そうだな」
「夏のうちに工事を終わらせてしまえば今年のうちには効果を纏めれるんじゃないかしら」
「魔石の盗難防止はどうするんだ?」
クリスが興味深く質問を被せてくる、それに私とルバートが答えていきながら、設置計画を詰めて行った。
三時間ほどの会議が終わり、ルバートが帰ると私とクリスはふうと息をついて休憩に入った。
「魔塔がかなり積極的に協力しているのは意外だったな」
「そう?」
「彼らはどの国にも肩入れしないだろう?王太子時代に何度か面会を申し入れたんだが、須く断られていたからね」
クリスは肩を少し上げておどけたように笑う。
「興味の問題かもしれませんね、私の持って行った話は前世の記憶に寄るところが大きいので」
「なるほど、彼らから見れば私個人やこの国には興味がなかったのか」
そんな自虐的にならなくてもと思うけれど、実際のところやっぱり興味をひかなかったのだろう。
「そうだ、この辺りは空から来る魔獣はいないのか?」
「いますよ?山脈の人が入らない辺りはワイバーンの巣がありますし」
「山から降りては?」
「滅多にないですね」
滅多にないだけでないわけではない、ただ対処は難しい。
魔獣除けの結界を張っているので余程ではない限り降りてはこないけれど。
精々が魔法を付与したバリスタの設置ぐらい。
ただ、矢は法外に高いからあまり使いたくはない。
問題点や現在の対策をクリスと共有するとクリスも時間を見てアイデアが浮かべば話をしようと力強く頷いてくれた。
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