第26話 2次選考の結果といつかの光景
「みんな……」
愛知に行ってから、数週間。
音楽準備室で、かずかずがポケットをゴソゴソする。
「どうした?」
「どうしたんだー?」
「何かあったの?」
みんなかずかずの方に近づいていく。
私も遅れてかずかずのもとへ!
「今日、担任の先生が渡してくれたんだ。顧問の先生からだって」
そう言って出したのは、茶色い封筒。
宛先は、花里学園。
差出人は……全国、軽音楽協会。
「これって……2次選考の結果⁉」
陽ちゃんが叫んで、全員で顔を見合わせる。
そういえば、手紙で通知って資料に書いてあった気がする。
「だ……出すよ……」
かずかずが震えた手つきで封筒の口を開ける。
「だだだ大丈夫、受かってるよ!」
そう言って自分を奮い立たせる!
大丈夫、1次選考の時、頑張ったんだもん。
通過できる!!
『この度は、小中高軽音楽コンテストに参加くださり、誠にありがとうございます。
今回の2次選考で、貴校は3位通過をしたことをご報告させて頂きます。』
確かに、手紙にはそう書かれていた。
何度……何度、瞬きしてもっ!
「「「「「やったあああああああ!!!!!」」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ということで……2次選考突破ああああ!!!」
「陽太先輩てんさーい!」
「やっぱり翼先輩いてこそだよねっ」
「百航先輩かっこよかったしなぁ……」
「大和先輩もめっちゃかっこよかった! 盛り上がるところのドラム……」
「あれマジで最高だよね!」
私が教室で次の日に、彩里たちに報告したら。
「えー、軽音楽部すげぇ!」
「俺も入りてぇ!」
「胡桃ちゃんすごい!」
とクラス全員が、イケダリフォートップだけじゃなく私のことまで褒めてくれた。
嬉しい……!
「みんなあああああありがとおおおおおお」
「ホラホラ泣かない。3次選考があるんでしょ?」
「うん……!」
最初はさ、こんな私が歌うなんて恐縮だなって心の隅で思ってたりしたけど。
みんなにこうやって認められて、私も軽音楽部の一員なんだなって、あらためて実感できた。
「なぁなぁ、3次選考ってどんなやつなん?」
クラスメートが男女関わらず詰め寄ってくる。
「国立磯辺公園で野外ライブらしいですっ」
「えぇ、あの公園⁉ だだっ広いあれ?」
「そう、あれ!」
「どんな曲歌うの?」
「それはナイショ……かな!」
「イケダリフォートップの裏話、教えてください!」
女の子がそれを聞いた瞬間、
「……ちょっと待った……」
と気迫のないつばっさーを先頭に、イケダリフォートップが教室に来た。
「きゃぁぁぁぁぁ♡」
「今日もステキ、フォートップ様!」
「かっこいいですー!」
女子たちの歓声が止まない。
最初の頃も、教室に来ただけでこうだったもんな~……。
「あ、そうそう。作曲してる時には、つばっさーが……」
「……黙れ……!」
「つ、翼? つばさー?」
つばっさー、いつもは優しいはずなのに別人になってるんだけど?
っていうか、そんなにつばっさー話されたくなかったのかな?
作曲してる時に徹夜してやってくれて部室で寝てたことを話そうと思っただけなんだけどなぁ……。
つばっさーがこういう風に怒ることも少ないらしく、かずかずでさえも名前を呼ぶだけで慌てている。
「……寝てたことだけは絶対に喋らないで」
つばっさーはホンットーに
※『イカ』じゃなくて『怒り』ね。愛知でイカ食べたんだよね。美味しかった~!
「は、はいぃぃぃ翼様っ!!」
手を伸ばして敬礼っ。
もう一生つばっさーには逆らえない……。
「じゃ、俺ら飯食うわ」
そう言っていつかのように近くの椅子を持ってきて、イケダリフォートップが座る。
一つ違ったのは……その中に、智紀と優弥もいること。
「あ、君が優弥って人ー?」
陽ちゃんにノンキにそう聞かれた優弥。
びっくりなことに、当たってる。陽ちゃんの言うことってほぼ当たらないのに!
「はははいっ。い、いつも智紀がお世話になっておりまする……」
めっちゃ”キョドってる”……!
あ……そういえば優弥、智紀がかずかずとボーダーが繋がっていること驚いてたなぁ。そのくらいイケダリフォートップはクリの上の存在なんだな……実感実感。
※『クリ』じゃなくて『雲』でしょっ。そろそろ夏で秋に近づいてはいるけど、気が早い!
「いえいえ、こちらこそ。演奏会の時に、歌詞暗記を手伝ってくれたんだよね? おかげで大成功だったよ! ありがとう」
「は、はははい……僕は何もしてないですけど、ね……」
かずかずに褒められてどんどん小さくなる優弥。
でも確かに、かずかずがこんなにストレートに人を褒めるなんて聞いたことないからなぁ。優しいくせしてちょっと怖いし。
「おいおい、それ言ったら俺だって教えた!」
いつの間にか敬語が取れたどころか軽口を叩いている智紀が、文句を言った。
※『軽口を叩いている』は、いつも胡桃ちゃんがふざけすぎるから七羽ちゃんが教えてくれたんだよね。優しいっ!
「知らね~」
「あー、ありがとな~」
「気持ちだけ受け取ってやるよ」
「ありがとねーあははー」
優弥に対してはあんなに褒めたのに、智紀のことになると急に態度変わるの何⁉
ちょっと智紀がかわいそうに見えてくるよ……。
「……はぁ。こんな人たちで4次選考行けるのか……?」
すでに一緒に国立磯辺公園に3次選考を見に来てくれることになっている中1軍団5人のうち一人だけ、うんざりとした顔をしてため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます