第20話 ひとりぼっちでいる君に
演奏会では、吹奏楽部、合唱部、軽音楽部の順番で演奏が行われる。
今は――11時15分。
軽音楽部公演の5分前だ。
「……胡桃ちゃん」
声をかけてきたのは、かずかずだ。
「なに?」
「北原学園はね……強豪校であり、軽音楽界で一番権力を持っている。だから、北原学園に逆らったらどうなるかって恐れられてるんだよ……」
「そうなの?」
北原学園ってそんなに怖いの⁉
嬉しいと思ったんだけどなぁ……。
「えっ、じゃあさ、その小中高うんちゃらコンテストってのでうちが優勝したら、その学園をぶっ倒したことになるよね?」
「「「「え?」」」」
私が言ったことに、控室で最終確認をしていた3人までもが振り向く。
「だったらさ、この演奏会で見せつけて、今年のうんちゃらコンテストに出てさ、優勝すればいいんだよ!」
「あのね、そんな簡単じゃないんだよ……」
「じゃあさ、もしできなかった時ってソンする?」
「……!」
めっちゃ驚いてるの、なんで?
私は、当たり前のこと言っただけなんだけどな……?
「よっしゃあ! そうと決まったら最高の演奏しようぜっ」
一番最初に立ち上がったのは、陽ちゃん。
「そういうことなら、受けて立つ」
腕を組んで立ち上がる大和くん。
「いっちょかましますか」
片手を腰に当てて言うつばっさー。
「……みんなのその意志、受け継ぐよ」
そう言ってかずかずが手を出した。
人差し指、中指、薬指の三本を折って、親指と小指を出している。
他のみんなも同じようにして、かずかずの指にひっかける。
「4人だと四角形だからさ、物足りねぇと思ってたんだよな~」
陽ちゃんがかずかずの指に小指を絡め、大和くんの指との間隔を開けてくれた。
これって……4人でやっていたコレに、私も入っていいってこと?
みんなが、うんと頷いた。
同じ手の形にして――絡める。
「よっしゃ。花里学園軽音楽部、ファイッ、」
「「「「オー!!!」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「初めましての方も、見たことあるよねって方も、こんにちはーっ! 花里学園軽音楽部ですっ!」
この挨拶でさえもアドリブでやらせてくれた。
みんな、私のためにやってくれている。
だって――私がここで歌うことが、みんなの救いになっているから。
「今年から軽音楽部は、初のボーカルという立ち位置に入ってくれた中等部1年の桜庭胡桃さんと共に本格始動ですっ」
「去年までは大和のダミ声でしたが、今年は胡桃の綺麗な歌声です」
「ちょっと、プレッシャーかけないで⁉」
文句をマイクを通して言ってしまい、大丈夫かなと思ったけど……。
観客の皆さんは、どっと笑ってくれた。
観客は、現在40人程度。
吹奏楽部とか合唱部の演奏の時はもっと人がいたのになぁ……。
それだけミルクられてるってことだよね。
※『見くびられてる』ね。
最前列の右側には、彩里、七羽、莉乃、優弥。
その隣には、一つ席を空けて玲奈先輩の姿が。
きっと、智紀は吹奏楽部の控室で聞いてくれているだろう。
反対側の最前列には、異様な空気を放っている人が、7人。
「あれだよ、北原学園」
陽ちゃんが小声で教えてくれる。
大学生なのかっていうくらいおっきい人から小学生まで、様々な7人が並んでいる。
黒いブレザーに緑色のネクタイ、藍色の上履きで統一されている。
「――それでは、最初の曲を演奏したいと思います。1曲目は、皆さんお馴染みの『
とらいあんぐるすとーりーは、小学校の音楽の時間の合奏から始まる曲だ。
いつもクラスでひとりぼっちだった男の子が、人気者の女の子と同じトライアングル担当になって、頑張る意味を見つける話。
最近のCDランキング? みたいなので毎週1位をとってるすごい曲!
最初は、私とつばっさーのキーボードだけだ。
体を揺らして、息を合わせる。
「♪『大丈夫?』その言葉だけで 救われたんだ
虚しさ 悲しさ 悔しさとか全部
まだずっと二人で
もっとずっと二人で
いつまでも笑い合ってこう」
エレクトーンでよくあるエレガントっぽい音色をストリングスって言うんだけど。
その音色で一度の和音、基本となる和音をつばっさーが弾くと、雰囲気は一転。
大和くんの力強いドラムと、支えてくれるかずかずのベース。
ベースは苦手だって言ってたけど、全然上手だよ?
かずかずの苦手、ってなに?
「♪『ねぇ、同じパートだね!』そう声をかけてくれた
これが初めてだった
それからずっと 煌めく音で
僕を照らしてくれました」
いい曲だな~。
もしさ、この中にいつもひとりぼっちの人がいたとしたらさ。
この曲が刺さってくれるといいなぁ。
「♪僕が間違っても 『大丈夫だよ』って声かけてくれた
僕なら大丈夫って そう思えたんだ」
きっと、君にもそういう人が現れるよ。
君の
「♪For you この歌を君に歌うよ
あの日から今日までありがとう
For you この曲を君に届ける
明日からもずっと感謝を伝える
これからもずぅっとよろしくね?
いつまでもついていくから!」
一番が終わると、観客の皆さんが拍手をしてくれる。
かすかに、口笛も聞こえた。
少しずつお客さんが増えていく。
後ろを振り向いて、笑顔を見せる。
陽ちゃんはもちろん、かずかずも、大和くんも、つばっさーも。
みんな、微笑んでいた。
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