第7話 フォートップと幼馴染

 中学音楽室に着くと、すでにイケダリフォートップはスタンバイしていた。


「おー、やっほ」

「演奏会の前に体育祭は、練習時間的にキツいよな……」


 大和くんとつばっさーが話しかけてくる。

 わー、女子がいっぱいいるのに気楽に話さないで!


 ※「気楽」じゃなくて「気さく」だよ!


「あれ、そいつ誰だ?」


 陽ちゃんが智紀を指さして言ったから、私は紹介した。


「クラスメートで私の幼馴染の、佐倉智紀だよ! 学級委員長もやってるんだ」

「あー、なんか聞いたことある気がするよ。一年に何でもできてイケメンな男子がいるって」


 かずかずが顎に手を当てて必死に思い出してる。

 高校生の耳にも入るくらい、智紀は有名なんだ……。


 誇らしいけど、少し不満。

 智紀ってそんなにすごいのかね?


「俺は町田大和。中二で、軽音楽部でドラムやってる。よろしく」

「俺ぁ秋津陽太だ! 軽音楽部でギターやってるぜ。二個上だけどよろしくな!」

「僕は月城翼。高一です。軽音楽部でベースやってます。よろしく」

「俺は芦田百航だよ。翼と同じく高一で、下手だけどギターやってるよ。よろしくね」


 改めて聞くと、やっぱり自己紹介にもそれぞれの個性が出るんだな。

 一人一人、全然違うから。


「佐倉智紀です。これからよろしくお願いします」

「ちゃんと仲良くしてよ〜! ヒャッホーイ!!」


 智紀とイケダリフォートップが知り合いになった達成感と、これから始まる体育祭の話し合いに思いを馳せて、私は叫びながら飛び上がっていた。

 だから知らなかったんだ。


「そんなに胡桃に近づきすぎないでくださいよ。あいつ、やり始めたらホントに止まらないんで」

「えっ何、胡桃のこと好きなの?」

「はぁっ⁉︎ 何言ってるんすか⁉︎」


 智紀とイケダリフォートップが、そんな会話をしていたことなんか……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「まずは、この組の中から六名、体育祭実行委員を決めたいと思います」


 高校三年生の代表の人がそう言う。

 体育祭楽しみにしてたんだから、もちろん!


「やりたいで〜す!」


 好奇心旺盛な私は、なんでもやりたくなってしまう。


「胡桃がやるなら、俺も」


 智紀も手を挙げて、「桜庭です」「佐倉です」と、めっちゃ似ている名前を口にして、名前を黒板に書かれた。

 あー、ひらがなで書かれたらもっと見分けつかなくなっちゃうよ!


「え〜、二人がやるなら俺もやるか! はい!」

「陽ちゃんが行くなら俺も」

「大和がやるなら僕もっ」

「俺もやろうかな」


 陽ちゃんが先頭を切って、イケダリフォートップ全員が手を挙げる。


「え、あの四人が揃って代表的なのやるって初めてじゃない?」

「そうだよね! なら私もやりたいですっ!」

「あたしも〜!」


 周りの女子たちが次々と手を挙げる。

 やっぱりみんな、イケダリフォートップと一緒にやりたいんだね。


 でも、これだけ人気なんだから、何でも率先してやる人たちだと思ってた。

 私がイケダリフォートップについて知らないこと、いっぱいあるんだなぁとしじみ思う。


 ※「しじみ」じゃなくて「しみじみ」だよ!


「えー、立候補者が三十人と多数になってしまったので、くじによる抽選を行います。立候補者は集まってください」


 さ、三十人⁉︎

 ってことは、私がなれる確率は……えっと……六分の一だ!

 何言ってんだって大和くんに小突かれるのは、もう少し後の話……。


 とりあえず真っ先に三年生のところに行って、くじをひく。

 ドキドキ……ドキドキ……!


 中には、「合」の文字。

 やったあああ!!!


「智紀はっ⁉︎」


 コーフン気味というかコーフンして智紀に聞くと、ニッと笑ってくじを見せてくれた。


「やった! 一緒にできる〜! ムカつくけどしっかり者の智紀がいると心強いよ!」


 本心で私がそう言うと、


「お、おう……」


 と智紀は腕をかいた。


 ※珍しい癖なだねぇ。


「僕もだ」


 つばっさーが私と智紀の間に入り込んで、くじを見せる。


「つばっさーも⁉︎ 知り合いいっぱい!」

「俺もだぞ〜! やっぱ俺、運いいわ!」


 陽ちゃんが飛び上がって喜んでいる。

 陽ちゃんは運動好きだし、嬉しいよね。


「俺もだったよー」


 かずかずも満面の笑みで、


「このメンバーかよ……」


 大和くんはげんなりした表情で、「合」のくじを見せる。


「結局あの六人?」

「おもんな〜。こんなことなら他の組で実行委員勝ち取りたかった」


 高校生の女の先輩たちが、私たちを見てひそひそと話している。

 やっぱりこうなっちゃうんだよね……。


「しかもあの中一の子もかっこよくない?」

「なんでもできてフレンドリーなんだって!」

「狙っちゃう? 年下だから可愛いし!」


 智紀のことを指さして、黄色い声をあげている人たちも見える。


「ガチか……」


 なぜか一番げんなりしているのは、智紀だった。


「大丈夫? 他の人に譲ってもいいんだよ? あの四人がいるなら智紀いなくてもやっていけるし、私に心配は無用っ!」


 本当に重いため息をついていたから、本気で心配になる。


「やるっつーの! 大丈夫だから。のびのびやろうぜ……」

「え……ホントに大丈夫?」

「大丈夫だって!」


 智紀はイケダリフォートップをチラッと見てそう言った。


 まさか智紀が、イケダリフォートップにシットしていただなんて、私はこれっぽっちも想像してなかったんだ——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る