第8話 ファンタジーとは程遠い
俺は神仙組の屯所で一晩過ごした。
しかし昨日の記憶はない。
そもそもどう寝付いたかも覚えていない。
「うぅ・・・眠たい」
「起きろこの変態!」
「ふごぉお!」
俺は宗方さんの踏み付けで目を覚ました。
美人の足踏み、日本の弱者男性どもは喜ぶに違いない。
しかし現実はそう甘くはない。
内臓が破裂したのか、腹が燃えるように痛い。
そして腹を抑えるのが、まだ布団から出たくないと判断したのか宗方は容赦なく胸を踏みつけた。
「や、やめ・・・」
「まだ起きないか!」
今度は肺が破裂した。
なんでわかるかって?
吐血したからだ。
それに息をするのも辛い。
「ヒューヒュー」
「あ、これは内臓と肺を潰していたか。すまない、少々やり過ぎだな」
これが少々!?
いくら魔法があるとは言え酷過ぎるだろ。
しかしいつまで経っても宗方さんは治してくれない。
「は、はふへへ(た、助けて)」
「すまない。俺は治癒魔法が余り得意ではないんだ」
「ひゃ、ひゃあはふべほぶんばほほひはぁ(じゃ、じゃあなんでこんなことしたぁ)」
「ふっ、すまない。何を言ってるかわからないがひよこみたいで可愛いぞ」
こいつ、一番まともに見えたのに無自覚サイコパスかよ。
ヤバい、本当に死ぬぞこれ・・・
「何してんのヒロトくん」
ソウジュだ。
この際こいつでもいい。
九死に一生を得るためならくだらないプライドは捨てる。
「あー、死にかけてるんだー。あはははは!僕が助けてあげよっかー?」
笑ってんじゃねぇ。
こっちは死にかけてんだぞ。
だけどここは我慢だ。
「は、はほふ(た、頼む)」
「でもごめーん!僕治癒魔法使えなーい!」
こいつぶっ殺してやる。
俺も死ぬが道連れじゃ!
「おいおい、なにやってんのよ。ヒロが瀕死の重体じゃない」
「近藤さん、すまねぇヒロトがあまりにも起きないからつい」
「アハハハ!よかったねヒロト君。近藤さんならその程度ぱーっと治療してくれるよー」
ソウジュの言った通り近藤さんは俺の身体のあらゆる痛みを治療してくれた。
すごいな治癒魔法。
「はぁはぁ・・・死ぬかと思った」
「すまないヒロト。だがお前も起きないのが悪いぞ」
「大げさだなぁヒロトくんはー!」
俺は起きていたからな?
あとソウジュはいつかぶん殴る。
あと時計の時間を見たらまだ朝の四時で暗い。
居候のみで贅沢言うのもあれだが、もうちょっと起きるのは遅くていいんじゃないか?
「ヒロト、今日は神仙組の仕事について説明する」
「待ってくれ。俺はまだ神仙組に入ると決めたわけじゃーーー」
近藤さんが笑顔で睨みつけている。
目が笑ってないんだよ目が。
馬鹿そうに見えて一番怖いなあの人。
「いえ、なんでもありません」
「ん?そうか、なら続けるぞ。神仙組の仕事はこの日本国の京都を守ることだ」
「え?ここって京都なのか?」
神仙組の屯所もギルドも洋風だから横浜あたりを想像していたけど違うんだな。
まぁ三人とも浴衣だけど。
「でも守るって具体的に何から守るんだ?」
「昨日のように犯罪者を追うような仕事をしているが、捜査は基本憲兵の仕事だ。俺達は基本的に魔物から民を守っている。ヒロトはしばらく俺達の仕事を見てもらうことになる。本来ならその時間も鍛錬に充てて実力を向上させたいが、なにも考えずに鍛錬しても意味はないからな」
やっぱり魔物と戦うのか。
やっとファンタジーっぽくなってきたじゃないの!
「先に言っておくがこれは簡単な仕事じゃねぇ!同じように魔物を狩る冒険者達と違って俺達は国から仕事をもらってんだ!甘く見てると死ぬから覚悟しておけ!」
「わかりました!」
「大袈裟だなぁ」
「ソウジュ、テメェは街の見廻りだろうが!とっとと行け!」
「へーい」
俺はこの時忘れていた。
この世界が酷く世知辛い世界だということを。
とりあえず実力を把握するために、冒険者で初心者が活動するエリアに行くことになった。
宗方さんに案内された場所では冒険者達が死屍累々で闘っている。
相手を見るとかなり大きなスライムだった。
知ってるぜ。
よくファンタジーでスライムは最弱だからって調子に乗って挑んだらスライムは最強でしたってパターンだ。
「あれがこの辺で最弱の魔物リトルスライムだ」
「最弱・・・」
え、逃げ出していいかな?
見た感じ魔法も剣も弾いてて、反撃で小隊規模が瓦解するような攻撃を放つ魔物が最弱?
しかもリトルって言ってた。
つまりあれでまだ幼体か小型かなんかってことだよな?
神様、縁を切ってもらって都合がいいですが現代との縁、戻していただけませんか?
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