第24話 清水さんと相合傘①
「用事ができた?」
「そう。さっきの電話で友達とこれから遊ぶことになってさ」
ゲームセンターを出た後、僕たちはショッピングモール内にあるフードコートで休憩をとっていた。僕たち三人の手元には先ほど買ったドリンクがそれぞれ置かれている。
「だったらここでダラダラしてていいのかよ」
「話の流れで、もう少ししたらここに集合することになったから大丈夫」
「ならいいけど、そしたら今日はここで解散か?」
それが自然な流れだろう。清水姉妹に出会い、予定より長くここに滞在することになったから輝乃が待ちくたびれていないか心配だけど、説明すれば多分分かってくれるだろう。
「私はそうだけど君たちは違うよ」
「は?」
「はい?」
「せっかく一緒に遊んだんだから一緒に帰ろうぜ!」
「お前まで一緒に帰らなくても良かっただろ」
「僕も用事終わったらすぐに帰るつもりだったから」
フードコートで話をしてから少し経ち、僕と清水さんは電車の中にいた。
最終的に愛さんは友達と遊び、僕と清水さんは帰宅することになった。愛さんから清水家の大体の場所を聞いて知ったけど、実は僕の家と清水さんの家はわりと近いらしい。
「清水さんは他にしたいことなかったの?」
「ねえよ。そもそもあまり人の多いとこ好きじゃねえし」
「それならショッピングモールに来たのも、もしかして愛さんに誘われたから?」
「ああ、用事あるかって聞かれてないって言ったら、じゃあ一緒に服買いに行こうって言われて連れてこられた」
「そうだったんだ」
愛さんは確かにそういうことをやりそうなエネルギッシュな印象がある。
「いつも強引なんだよアイツは」
清水さんがため息をつく。誰かに振り回されている清水さんというのは珍しい。
「仲がいいんだね」
清水さんは心外そうな顔をしている。
「いや、いつもって言うからよく一緒にいるんだと思って。それは仲がいい証拠じゃない?」
「アイツが私の部屋に勝手に来るんだよ」
「愛さんは清水さんのこと大好きなんだね」
「好きに言ってろ」
清水さんがそっぽを向く。どうやら反論は諦めたみたいだ。
「そういえばお前は妹がいるんじゃなかったか?」
「うん、いるよ」
「お前は妹とどうなんだよ」
「他の兄妹をあまり知らないから断言はできないけど、結構いい方じゃないかな? 一緒にゲームしたりアニメ見たりするし」
「不満はないのか?」
輝乃への不満か。
野菜嫌いとかめんどくさがりとか細かいことは色々あるけど総合すると……。
「少しワガママが多いのは困ってるかな」
「お前でも家族にそんなこと思うことあるんだな」
「そこまで不満というわけでもないけど、後々輝乃自身が困る可能性があるからね」
「どういうことだ?」
「僕に頼りすぎてると、僕が進学や就職とかで家からいなくなった時に輝乃自身が困ることになるから」
今は両親が帰ってくるまで料理もその他の家事も僕がしているからいいけど、僕が家から出ることになっても輝乃が家事をしている姿は想像できない。
「結局、妹の心配かよ。ちょっとシスコンなんじゃねえか?」
「それは……妹がいる人なら基本的にみんな妹のことを多かれ少なかれ心配してるんじゃないかな?」
主語を大きくしすぎた苦しい言い訳な気がするけど主張に偽りはないつもりだ。
「それは言いすぎだろ。少なくとも愛は私のこと絶対心配してねえ」
「そんなことないよ。愛さんもきっと清水さんのことを心配してるはずだよ」
「なんでそんなこと分かんだよ」
それはファミレスで清水さんがいない時に愛さんと話したから……とは言えない。
あの時の会話を愛さんは秘密にしてほしそうだったから言うわけにはいかない。
「同じ妹を持つものとしての勘かな」
「何言ってんだお前」
清水さんが呆れた顔をしてこちらを見ている。
自分でもよく分からない根拠だったのでまあ当然だとは思う。
「とにかく愛さんも清水さんのことをいつも考えてくれてると思うよ」
「……まあお前がそこまで言うならそういうことにしとく」
清水さんも納得はしていないが理解は示してくれたみたいだ。
「それにしても今日初めて会ったけど愛さんっていいお姉さんだよね」
「そうか? 自分のやりたいことしてるだけだろ」
身内だからか清水さんは愛さんに対して評価が厳しい気がする。
「確かに自分の欲望に忠実な気はするけど周りのこともよく見てると思うな。初対面の僕にも気軽に話しかけてくれるしお話も面白くて話してて楽しかったよ」
「……むぅ」
あれ、なぜ清水さんは少し不服そうなのだろうか。
「愛は家だともっと適当だぞ」
「家だと気を遣わなくていいのかもね」
「……試験前はいつも勉強が分かんないって騒いでるぞ」
「試験前に勉強頑張ってるんだね」
いきなり清水さんによる愛さんに関する暴露トークが始まった。愛さんにファミレスで昔の思い出を暴露された仕返しだろうか。
「清水さんなんで愛さんの弱点を僕に話してるの?」
「だってお前が……愛ばっかり褒めるから……」
よく分からないけど、清水さんは愛さんだけが称賛されることがお気に召さないらしい。だったら僕のすることは決まった。
「それなら清水さんは何を褒めてほしい?」
「は? 急になんだよ」
「清水さんは愛さんだけが褒められるのが嫌なんでしょ? だったら清水さんも褒めれば解決かなって」
我ながらいい案だと思う。人を褒めるのはいい気分だし褒められた方も悪い気はしないはずだ。
「な、何言ってるんだ、いらねえ。それに私に褒めるところなんかないだろ」
清水さんの自己評価は思っていたより低かった。これは清水さんに自分のいいところを教えてあげる必要がありそうだ。
「そんなことないよ。じゃあ僕が清水さんのいいと思うところを言っていくね。まず一つ目は優しいところ。清水さんは前回の調理実習で食材を切る係が僕しかいない時に率先して手伝ってくれたよね。僕あの時も言った気がするけど嬉しかった。二つ目は頑張り屋さんなところ。前にお弁当くれた時にばんそうこう指にいっぱい巻くくらい料理の練習してて頑張ってるなと思ったんだよね。そういう努力家なところすごいと思うな。三つ目は……」
「止めろ」
「えっ、なんで? まだ始まったばかりだよ?」
「もういい。もう十分伝わった」
清水さんの口元はクマのぬいぐるみによって隠されてしまっていて表情は読み取ることができない。
「遠慮しなくてもまだまだいっぱいあるよ」
「遠慮なんかしてねえ。いいから駅に着くまで少し静かにしてろ」
そう言った清水さんをよく見ると耳が少し赤くなっていた。どうやら恥ずかしくなってしまったようだ。
「うん、分かった」
僕と清水さんはそれから最寄りの駅に着くまで何も話さず座席に座っていた。
「雨だね」
「ああ」
僕たちが駅から出ようとすると雨が降り始めるところだった。
はじめはぽつりぽつりと降っていた雨はやがて少しずつ勢いを増し、すぐにザーザー降りに変わった。
「清水さん、傘は?」
「持ってきてねえ。お前は持ってきたのか?」
「うん。折り畳み傘だけど」
ショルダーバッグから折り畳み傘を取り出して清水さんに見せる。
「あるならいい。今日はここで解散だな」
「僕はそれでいいけど清水さんはどうするの?」
「親を呼ぶ」
そう言って清水さんはバッグからスマホを取り出し僕に見せた。
「それなら大丈夫かな」
「ああ、だからさっさと行け」
「分かった。それじゃまた学校で」
「じゃあな」
僕は清水さんに背を向けて駅を後にした。
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