第20話
次の日には調査と自衛の為と称して警察に海上保安庁や、自衛隊が多く集まっていた。それもそのはず、昨日の魚人の姿がSNSにて発信されてしまったからだ。それに伴い野次馬の増加が懸念され、急遽集めれるだけ集めたのが現状だ。世間に期せずして魚人のその存在を明らかにしてしまったのだが、行方不明者の報道も相まってこの地域の規制をするのは容易であった。それでもこの地を訪れ魚人の姿を捉えようとする人は少なからず居るので、現地で規制に当たる人間はそれなりに忙しく過ごしていた。
それから数日が経過したが、
「さて、パタッと現れなくなってしまいましたが、それが警戒されてしまったのか、それとも元々数が少なく、たまたまだったのか判断に悩む所です。そこで今日は巡視艇には海には出ずに待機して貰いました。」
田中がそう言った。魚人が大型船を警戒している可能性がある。それが出航していなければ海岸や港、海沿いの地域に現れるのではないかと考え田中、馬場、朱音の3人とシロで海岸に来ていた。
「犬なんて連れて来て大丈夫か?」
「シロは優秀ですよ。こっちの言う事もちゃんと理解するし、魚人にもいち早く気付いた事もあるんですよ。」
「ワン!」
任せろと言わんばかりに尾を立てキリッとした表情となる。
「ははっ。これは頼もしいな。」
「魚人を見つけたら教えてくれ。」
「ワン。」
馬場に対して頷いて見せた。
「これは本当に賢いな。」
「でしょう。うちのシロは優秀なんですー。」
顔はキリッとした表情を維持しているのに褒められた事で嬉しいのか尻尾を振ってしまう。
「さて、出て来たらいいがな。」
「現れる可能性は高いとは思います。暫くウロウロしていた大型船が居なくなったので、これがチャンスとばかりに出て来るのではないかな、と。」
「まあ確かに奴らの知識がどれ程の物か分からないが、大型船は脅威と見る可能性は高いだろうな。」
「これで数日の間出て来なければ拠点を戻す事を申請しますよ。単身赴任もしなくて済みますしね。」
「なら出ない方が良いな。」
「そうですね。個人としては戻れる方がありがたい。」
「え?その場合、私はどうなるの?」
「それはもちろん今度は君が引っ越し。」
「えー、地元離れるのは考えてなかったなー。」
「引っ越すとは限らないだろ?こっちの拠点用に設備も整えてる所だから、こっちに駐在で検査とか何かある時だけ来るとかもあり得るんじゃないか?」
「確かにその可能性はありますね。」
「え?でもこっちに駐在て何をするんですか?」
「さあ?そこはまだ分からない。これもあくまでも予想でしかないし。上がどう言うかは分からないからね。」
「むう。いきなり窓際社員の可能性有りか。」
「まあそうはならないよ。
「そうそう、それにあくまでも魚人が出ない場合の話しだからな。」
「そう言うと何かフラグっぽいな。」
「ワンワンワン!」
シロが海の方に向かって吠えている。
「これってまさか、」
海面が盛り上がり魚人が飛び出して来た。
『筋力を強化』
馬場が咄嗟に何かを掴んだ。槍だ。魚人が飛び出しながら投げてきてたのだ。
『砂塵よ、集いて我が前に壁となれ』
砂が集まり壁を作る。その壁に次々と槍が突き刺さる。そう、魚人は1体だけではない。次々と魚人の陸に上がる音がする。
「これってヤバイんじゃないの?」
「何体いるか分からんな。」
「自衛隊に応援依頼を!」
とそこに田中の電話が鳴った。
「こんな時に誰だ?」
着信は港を自衛隊と共に見に行った遠藤からだった。
「もしもし!港に魚人が現れた!それも大群だ。応援に来てくれ!」
「何だと⁉️そっちもか⁉️」
「そっちも?って事はお前達もなのか⁉️不味いぞ、この数の多さには対応しきれない。」
「お前達は無事なのか?」
「俺達は近くの建物に避難して隠れている。しかし、このままじゃ近隣の住人に被害が出るのは確実だ。自衛隊の駐屯地に応援を呼んではいるが、間に合わないだろうな。」
「分かった。何とか持ちこたえてくれ。できるだけ被害を出さずに、それでいて絶対に死ぬなよ。」
「注文が多いな。だが頑張る。そっちこそ無理するなよ?」
「ああ。」
電話が切れた。応援は望めない。田中は懐から護身用に持っていた銃を出す。弾の数は19発。果たしてこの壁の向こうには何体の魚人がいるのか。
「こんな事なら俺も銃を持って来るべきだったな。」
馬場が言う。
「この銃を。」
田中が馬場に銃を渡そうとする。
「僕が持っているより馬場さんが使った方が有用です。」
しかし馬場はそれをやんわりと押し返す。
「それはお前が持っていろ。どの道その銃では近づかないと効果が低い。近くでなら俺は銃よりも、」
『顕現せよバスターソード』
馬場の手に巨大な剣が出現した。
「こっちの方が良い。朱音、この壁は後どれくらい持つ?」
「え?いや、ちょっと分からないな。」
「だとするといつ崩れてもおかしくないって事か。」
「あー、うん。そうかも。」
「よし!俺が魚人に突撃する。隙を見てお前達は逃げろ。」
「そんな!できません!」
「誰かが近隣の住人に避難指示を出さないといけない。それはお前の役目だ。そうだろ?田中!」
「しかし!」
そうやり取りしている後ろで朱音は壁からそーっと顔を出し様子を伺った。見た限り現れた魚人は10体。全てがイワシ顔の奴だ。それも1ヵ所に集まっている。
「これなら何とかなるかも。」
検証している暇はない。やってみるだけだ。
『砂塵の壁よ無数の弾となり魚人の群れを穿て』
壁からショットガンのように圧縮された砂の弾が勢いよく放たれた。魚人は成す術もなくその身を抉られる。前の方にいた魚人6体が見るも無惨な姿となり倒れ、後ろにいた4体も無事とは言えない姿となっていた。
「ウー!ワンワンワン!」
倒れた魚人の姿を見てなのか、シロが激しく吠えだした。
「シロ?」
シロが魚人に向かって走り出した。その姿は徐々に、しかし確実に大きくなっていっている。
「シロ!」
今のシロの大きさは魚人よりも大きく、1口でその上半身を噛み千切った。口に入ったそれを吐き出し次々と他の魚人に襲いかかる。朱音の真言の攻撃のダメージもあって、あっと言う間に残りの魚人も食い千切られた。
「シロ?」
朱音がシロに近づこうとする、
「ヴヴゥ!ワン!」
「シロ、どうしたの?」
何故だか今はシロの言葉が分からない。いつもなら何を言っているのか分かるのに。
「グルルルル!」
シロに威嚇される。こんな事は初めてだ。
「シロ、落ち着こう。ね?」
「ヴヴ!ワンワンワンワン!」
朱音を拒絶するかのように激しく吠え、そのまま海岸を走り去って行く。
「シロー!」
朱音は追いかけるがしかし、シロの速度に敵うはずもなく、呆気なく見失ってしまった。
「シロ、何処に行っちゃったの?」
「何だったんだ?あれもお前の
朱音は首を振り
「分からない。何故シロが大きくなったのか、何故私から逃げたのか。分からない……。」
突然の出来事に朱音はどうしていいか分からないでいた。
「すいません。シロ君の事も気になるでしょうが、港に応援に行きましょう。 早く行かないと皆が死んでしまう。」
「……。」
港に向かう?そうするとなるとシロの去った方向とは逆だ。どうしたらいい?私はシロを探しに行きたい。けれど、
「しっかりしろ!お前の力を見て確信した。お前が行かないと遠藤達は助からない!俺だけでは魚人の大群には勝てない!頼む!来てくれ!」
そうだ。助けに行かないとたくさんの人が死んでしまうだろう。それは私も望む所ではない。
「シロ……。」
シロの去った方向に後ろ髪を引かれながらも港に向かう事としたのだった。
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