第13話
「ちょっと流石にこれは……。」
海岸に到着し、証拠になりそうな物を早速探そうと思っていたのだが、海岸には
「1、2、3……」
証拠になりそうな物どころか、予想外にも魚人自身が6体も居た。
「証拠どころか本体だよ。しかも多いし。」
しかもその内の1体は
「顔が明らかにタイの奴がいる。アレも一緒に居る所を見るからに仲間だよね。」
物陰に隠れてコソコソと様子を伺っていると
「∃」
「↑」
何かを話してるようだ。
「嫌な予感しかない……。」
タイが朱音が居る方を持っていた槍で指し示し
「⇒」
何かを言った。
「え?もしかして私たち見つかってる?」
タイを残して魚人達がこっちに歩いて来ている。
「逃げた方が良いかも……。」
しかし、変に逃げれば追いかけて来るだろう。それに様子を見る限りでは
「私を警戒しているというより、何かを探している?」
魚人達は周りを伺うようにキョロキョロしながら歩いていた。そこに
ピーヒョロロロ
上空をトンビが飛んでいた。それを見たタイが槍を構えた。
「え?あのトンビを狙うの?だいぶ上空だよ?」
タイが槍を投げた。槍の勢いは想像よりも遥かに早く、トンビも槍に気付き回避しようとしたが間に合わず羽に槍を掠めて落ちていった。
「⇒」
落ちたトンビをタイが拾いあげると、ガブッと1口でトンビを噛った。その口の端からは羽や血が滴り落ち、他の魚人はそれを羨ましそうにそれを見ている。
「ウワッ……。アイツらは狩りをしに陸に上がって来ているんだ。このまま町へ行ったりしたら……。」
次々と魚人に襲われる人々。無慈悲に突き立てられる槍に人々は逃げ惑う。助けを乞う人に無慈悲にもその尖った歯で噛みつくだろう。誰かが犠牲になるだろう事は間違いない。このまま放っておく事は訳にはいかない。しかし、私だけでどうにかなるだろうか?
「どうにかなるじゃない。どうにかしないと。」
また敵視されたらあの声がして体が勝手に動いて倒してくれるかも知れない。しかし、それに期待してしまうのはあまりに危険だ。誰かを呼びに戻るか?いや、誰かを連れて来てもその人が犠牲になるだけだろう。それにそうすると真言は使えない。ましてや飛んでいるトンビを打ち落とす位だ。それこそ銃みたいな物で遠くからで倒せる何かが無いと無駄に犠牲者が出てしまう。
「どうすればいい?」
考えろ。考えるんだ。
槍よ翔び行き敵を貫け、それから槍よ砂塵よ激しく飛び散れで魚人を倒している。同じでいけるだろうか?いけたとして残りの魚人はどうする?あの真言で作れる槍は1本だ。
「いや、待てよ……。」
どうにか1度で複数の槍を作るようにアレンジできないだろうか?幸いにもそれが可能となるだろう真言が私には分かっている。後は実践でそれが上手くいくかどうか。試している余裕は無い。
「やってみないと分からないよね。やるしかない!」
『砂塵よ集まり6本の槍と化せ』
目の前の砂が集まり槍が6本でき上がった。
「やった!できた!」
朱音は小さく歓声を上げ続きを唱える。
『槍よ翔び行き敵を貫け』
槍は一斉に魚人に向かって飛んだ。それぞれの魚人に1本ずつ。しかし命中精度はバラバラだった。魚人には腹に命中した者や、肩に刺さった者、外しこそしなかったものの、致命傷とは言えない場所の者が複数。そして、肝心のタイには意識が集中していたのできちんと胸に命中した。だが、槍はタイの魚人を貫く事はできなかった。
「駄目だ。硬い!ええい!ままよ!」
『槍よ砂塵よ激しく飛び散れ』
槍を構成していた砂が激しく飛び散り血飛沫をあげる。タイはその衝撃で吹き飛び後ろに倒れた。他の魚人は片手を失う者や、腹部に大穴が空いて満身創痍の者とでまともに動けそうなのはタイを含め3体となっていた。
「これで逃げだしてくれたら……。」
しかしそうはならなかった。タイはまるで何事もなかったかのように起き上がり、倒れた魚人を見るとそれに噛みつきその肉を貪り始めた。
「そんな?共食い⁉️」
このまま黙って見ていたらせっかくの証拠を全て食べられてしまうのでは?それに肩から片手を失った魚人と腹部が抉れている魚人の2体こちらに向かって来ている。槍の飛んできた方向を調べるつもりなのかも知れない。
「こうなったらもう1度!」
『砂塵よ集まり3本の槍と化せ』
砂が集まり槍を作る。しかしその声に反応したのか魚人がはっきりとこちらを見た。
「完全に気付かれた。これで何とかしないと。」
近くに来られたら私には対処のしようが無い。腹部の抉れている魚人が槍を構え投げてきた。しかしそれは痛みの為か大きく横に外れた。それに反応したのかタイも食べるのを止めてこちらに向かって来る。
「ワン!」
シロが朱音に近寄らせないようにする為に魚人に向かって走りだした。
「シロ!駄目!」
このまま槍を放てばシロに当たる可能性がある。
「ワオン!」
シロが腹部が抉れている魚人に襲いかかる。それを防ごうとした手に噛みついた。
「∃!」
振りほどこうと魚人が暴れるがシロの歯が深く食い込んでいて、シロの体が持ち上がるが外れはしない。
「Θ」
もう1体の方が何かを言ったと思うと、魚人が噛みつかれた方の手を高く上げた。宙吊りのようになったシロ。その体をもう1体の魚人が槍で突き刺した。
「キャイン!」
「シロ!」
魚人がそのまま槍を高く掲げた。槍に突き刺さったシロの体は高く持ち上がる事により穂先が更に深く食い込んだ。
「キャン!」
シロが悲痛な叫びをあげる。
「シロ!」
けれど今がチャンスだ。シロの体は高く持ち上げられ当たる危険は少ない。
『槍よ飛び行き敵を貫け』
今度こそ槍はシロを持ち上げている魚人の胸に突き刺さる。
『槍よ砂塵よ激しく飛び散れ』
それと同時に朱音は走り出した。魚人が血飛沫をあげて倒れていく。槍によって高く持ち上げられていたシロは魚人が倒れる事によって落ちてくる。朱音はシロを抱き止めようと走る。が、間に合わない。シロは地面に叩き落とされ、その勢いで槍の穂先から抜け転がる。
「シロ!」
シロはお腹から血を流しながらも懸命に起きあがる。何故なら
「§∋」
タイが迫って来ていたからだ。シロに意識を取られていた為に3本の槍は全てタイ以外の魚人に向かって飛んでいたのだ。
「ワンワン!」
タイを威嚇するように懸命に吠える。それを見たタイはニタリと笑った。傷の具合から逃げられないだろうと判断したのだろう。そのままシロに向かって走り蹴りあげた。シロはなす術もなく吹き飛ぶ。
「キャイン」
シロが力なく横たわる。それを見て動かない事を確認すると次は朱音の方を見た。その顔は酷く獰猛で恐ろしい。
「あ……。」
今すぐシロを助けに行きたい。しかし目の前のタイがそれを許してはくれないだろう。それにタイに見られた朱音は蛇に睨まれた蛙のように恐怖で動けない。タイがまるで値踏みするかのように朱音を舐めまわすように見てきていた。
「∋‰」
ゆっくり確実にタイが迫ってくる。とそこに
「ワオン」
シロがタイに飛びかかった。タイは油断していた為、シロにその喉元を噛みつかれた。
「∋」
タイは叫びシロを引き剥がして投げ捨てた。
「ワウン!」
シロに逃げろと言われている。このままシロを置いて逃げるなんて駄目だ!
『砂塵よ集まり槍と化せ』
狙うは前の攻撃で傷ついた所
『槍よ飛び行き敵を貫け』
槍は正確に前の攻撃の傷跡を貫いた。
「これで終わりよ!」
『槍よ砂塵よ激しく飛び散れ』
タイの胸で槍が弾けた。タイの胸には大きく穴が開き倒れていく。朱音はそれを確認もせずにシロの元へと走り行く。
「シロ!」
そう叫んだ時
〔世界詩編より連絡。始まりの書の位階が上昇しました。それにより
「何よ?こんな時に!」
朱音は聞こえる言葉を無視してシロを抱き上げた。シロのお腹には血が溢れ、白い毛色を赤く染めていた。
「クゥン。」
シロが弱々しく鳴いた。
「シロ、ごめんね。私を守ろうとしてくれたんだよね。ありがとう。」
「クン。」
シロが弱く浅い呼吸を繰り返す。
「シロ!しっかり。病院に。急いで病院に行こう!」
「キューゥン。」
「諦めちゃ駄目!嫌だよ。死んだりしたら!」
シロを抱き立ち上がる。すると視界の隅に倒れた魚人が映った。
「そうだ。真言なら何とかなる方法があるんじゃ?」
考えろ、考えろ、考えろ。傷を癒してシロを助けるんだ。
「お願い!シロを助けて!」
〔世界詩編より願いを受託。始まり書の位階上昇の特典として新たな
朱音が激しい頭痛に襲われる。
「くっ、」
朱音は顔をしかめるが今はそれどころではない。
「これを使えば良いのね」
『溢れ出る血よ止まりて傷を癒せ。彼の者に生きる力を』
朱音が祈りを込めて真言を言った。
シロの傷口が淡い緑に輝きだした。シロの傷では細胞分裂が活発に行われ、みるみる内に傷口が塞がり、弱く浅かったシロの呼吸が元に戻っていく。
「ワン!」
「シロ!良かった。痛くない?」
「ワオン!」
「大丈夫なのね。良かった。」
シロが力強く尻尾を振り、ありがとうと言うかのように、朱音に頭を擦りつける。朱音はその頭を撫でてやった。
「それにしても、世界詩編。前にも聞こえた単語だ。それに位階の上昇に新たな
分からない事だらけだ。あの本と関係しているのは間違いないだろう。あの本はいったい何なのか?何処から来たのか?海に落ちてたのだから流されて来たのかもしれない。しかし、本には濡れた跡もなかった。
「誰かがあそこに本を置いた?」
だとすれば何の為に?
「ワン!」
シロが町の方を向いて軽く吠えた。
「あ、そうだね。アレの事を皆に知らせないとね。」
「ワウン。」
「え?お腹空いた?」
さっきの怪我が嘘のような発言に朱音は驚く。しかしそれは当然の事だった。朱音が使った
「ワン!」
「先に行くって、あんな大怪我してたんだよ。無理しちゃ駄目だって!それにそんな血まみれで町の中を歩けないよ!」
そうシロの白い毛色は血でだいぶ赤く染まっていた。シロは自分の体を確認するとそのまま海に飛び込んだ。
「シロ⁉️何してるの⁉️」
あれだけ大怪我をしていたのに海に飛び込んだりしたらきっと痛みで溺れるに違いない。朱音が慌ててシロを助けようと海に飛び込もうとするが、シロが何か食わぬ顔で海から出てきた。そした体をブルブルと震わし水気を飛ばす。
「ちょ⁉️ちょっとシロ!やめてよ!」
朱音が叫ぶがお構い無しだ。あらかたの水気を飛ばして自分の体を確認する。
「ワン!」
「これでどうって?」
シロを見てみると毛に付いていた血はあらかた流れ落ちたようだ。
「確かに落ちたみたいだけど……。後でお風呂ね。」
その言葉にシロがビクッと震える。しかしシロを襲う空腹には勝てない。
「ワン!」
「早く帰ろうって、あんたがお風呂って言われたのに帰ろうとするなんて珍しい。」
「ワン!」
「お腹空いて我慢できない。ってよっぽどなのね。もしかしてさっきの
朱音がまた考えだしそうだがシロは空腹を我慢出来そうにない。帰って空腹を満たす為にシロが先に歩きだした。朱音はその足取りを確認するように慌ててシロの後ろを歩くのだった。
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