12話 クラス替えとカップルの喧嘩と新学期

 冬期休暇が終わり高校入試の時期が近付いてきた。俺たちも2年生に進級して新たな生活を迎えようとしている中、我が常盤学園の入試が二日間の日程で開催されていた。

 そのため在校生たちは二日間休みとなっている。せっかくの休みということで俺は家でまったりとしていた。


 俺は自室の本棚にある未開封の一冊取って読み始める。かれこれ時間が過ぎたところで、スマホ学校から1通のメールが届いていた。


「…………なんだ?」

 詳細を確認するために専用のアプリを開いてメールの中身を確認してみる。


 

【今年度クラス替えのお知らせ】


 以下の通りクラスを決定したので発表します。

 と、新しいクラス編成が1組から5組まで記載されていた。

 順を追ってスクロールしていき、自分のクラスを確認していく。


…………2年1組:浅倉一葉、星野宮和樹…………

…………2年2組:有馬桜子、高橋涼介…………

…………2年3組:木下愛理、高倉信之…………

 しばらくスクロールしてくと見慣れた名前があった。

…………2年5組:赤沢胡桃、西園寺九音、藤堂透哉、昼神ユウマ…………


 そこには驚くことに俺たち4人の名前が載っていた。

 それと同時にスマホの画面が光って着信音が部屋に響く。画面を見ると相手は九音だった。

「ユ―ーウーーーマーーく―ーん、メール見た!? 私たち今年は同じで胡桃や藤堂くんも同じだよ」と電話越しでも分かるくらい嬉しそうな口調で話す西園寺の様子に笑みを零す。


「ああ、俺も嬉しいよ。西園寺、初めて同じクラスになれたな」

 素直な気持ちを九音に伝える。

「これからいろいろと楽しくなりそうだね。みんなと同じクラスだから私もますます楽しみだな」と九音が嬉しそうに話す。


「…………そうだな」

西園寺の言葉に同意しながらお互いに嬉しさを噛みしめている。

 グループチャットの通話の画面が表示される。

 噂すればなんとやら―――相手は胡桃たちからだった。

 一旦、通話を切って、グループチャットの通話に切り替える。


 「ユウマ見た? また同じクラスだよ。それに九音も一緒なんて嬉しすぎるでしょ。これから楽しくなりそうだね」と胡桃も嬉し気に話している。

 奇しくも九音と似たようなことを言う胡桃にまたしても口元が緩む。


「ちょっと! 何がおかしいのよ!?」

「別に何でもない」


 自分のことを笑われたと勘違いしたのか胡桃がフグのように頬を膨らませて抗議してくる。


「ついさっきも西園寺が同じこと言ってたなって思ってさ…………」

 そう言って胡桃を宥めるが――――。

「ホントに――――!? 本当は私のこと笑っているんじゃないの?」

 通話越しに胡桃がジト目を向けてくる。


「何でそんなに疑うんだよ、俺が胡桃に嘘を吐くメリットがないだろ?」

 呆れ気味にそう言うと…………。


「そんなの分かんないじゃん。いつも私がユウマのことをからかって面白がるっているからその仕返しってことも――――」


 珍しく胡桃がいきなりネガティブなことを言い出す。

 ウザ絡みしてくる胡桃に辟易しつつ強引に話題を変えるために姿が見えない透哉の名前を出す。


「そうえいば透哉のやつはどうしたんだ?」

 そう訊くと、胡桃はバツが悪そうに視線を逸らして口をもごもごとし始める。

「実は――――」


 胡桃の話を訊き終わったユウマたちは「まさか二人がケンカするなんて―――」とまったく同じことを口にしていた。

「何よ!! 私たちだって人間なんだから喧嘩くらいするわよ」

 と、胡桃に逆切れ気味に反論される。

 「一体、どうして喧嘩なんてしたんだ?」

 ユウマが事情を訊くために尋ねてみる。


「だって…………透哉が――――」

 ちょっぴり悲しそうな声色で話を切り出す胡桃をユウマたちは画面越しから見守る。

 胡桃から事情を訊いた私たちは仲直りできる方法がないかを考えていた。

 「どうすればいいのかな? ユウマくん」

 話をしている途中で胡桃が、「ごめん。用事を出した!」と言って通話を切ってしまったため、どうしようかと考えていた。


 「あのバカップルの二人が喧嘩だなんて珍しいな」

「そうだね。ユウマくん」


 九音の呟きを訊いたユウマが不思議に口にする。


「もしかして、あれじゃない!?」

「あれってなんだよ?」

「だからあれだってば―――」


九音が何を言おうとしているのか、まったく理解できない。

まったく理解していない彼氏を見た九音はどうして分からないのよとフグのように頬を膨らませていた。


「倦怠期ってやつだよ」

 「け、倦怠期―--?」

 「そう、倦怠期」

 得意げに言い放った九音には申し訳ないのだが、つい、初めての彼女ができたばかりで、その『倦怠期』がまったく分からなかった。

 話に水をさすようで申し訳ない気持ちになりながら、九音に尋ねてみる。


「あの、悪い。西園寺、その倦怠期ってやつはどういうものなんだ?」

「ユウマくん、本当に倦怠期知らないのユウマの言葉を訊いた九音は途端に素っ頓狂な声を出す。!?」


 心底、驚いたように九音が声を出す。ユウマの言葉を訊いた九音は途端に素っ頓狂な声を出す。


「そうなんだ。倦怠期について教えてもらっていいか?」

「え、えっとね。倦怠期っていうのは、その――――」


 さっきまでの熱量はどこへ行ったのか、九音は軽くパニックになっていた。

 オロオロとしながらガサゴソと音を立て何かをしだす。


「…………ちょ、ちょっと待っててね」


 画面が保留になる。待つこと数秒後。

 ミュート機能をオンにした九音が戻ってきた。


「良い? ユウマくん。倦怠期って言うのはね」


 急いで戻ってきたらしい九音は軽く肩で息をしながら話を始める。

 それから九音によるについての講座が開かれるのだった。

 九音から『倦怠期』についての説明を受けた後。

 ユウマは親友である透哉に電話をかけていた。

 プルルル、呼び出し音が鳴る。一コール、ニコールと過ぎていく。

 いつもなら、三コール以内に出るのだが、まったく繋がらない。


「どうしたんだ? 透哉のやつ」

 いつもおちゃらけているが、根は真面目でいい奴だ。

 そんな彼が大事な彼女である胡桃と喧嘩をするなんて、何か理由があるんだろう。

 ユウマは直感でそう思っていた。

 何度目かのコールで電話が繋がる。


「どうした? ユウマ」

 電話に出た透哉はいつもより声が低く、覇気がない。

「透哉、悩みがあるなら言えよ。俺でよければ訊くぞ?」

 さりげなく言うが、何かを察した透哉は小さく笑みを零す。


「………胡桃から訊いたのか? 俺と喧嘩したって」

 ユウマの言葉から確信を得たのか、透哉はそう訊いてくる。

「…………ああ」

 隠しても仕方がないので、正直に答える。


「…………」

 ユウマの答えを訊いた透哉は、バツが悪そうに黙り込む。

 数秒、時間が止まったように静寂だけが流れる。

 それから、ゆっくりとユウマが口を開く。


「なぁ、何があったんだよ。透哉」

 心配したユウマが問いただす。熱気に根負けした透哉が重たそうに口を開く。

「実はな――――」

 事の真相を訊いた、ユウマははあぁぁぁ―――――!!と呆れたような大声を出していた。


 時を同じくして、九音も「…………っえ? 私たちに贈るためのプレゼント選びで喧嘩したの?」と胡桃から事情を訊いた九音は呆れたように言う。

「そう、私はお揃いのマグカップが良いって言ったのに…………透哉ったらプレートが良いなんて言い出して」

 胡桃の話を訊いた、九音は安堵したせいか大きなため息をついていた。

 後から訊いた話では、その後すぐに二人は仲直りしたらしく一段とバカップル度が急上昇したようだった。





「暖かな季節になり、春の兆しが見え始めた今日このころ――――」

 体育館に新入生代表のスピーチが響く。彼の挨拶が終わったところで、学園執行部会会長である暁冬華先輩が答辞を述べる。


「新入生諸君。ボクは今期から学園執行部会会長になった暁冬華だ。本年度も我が校の新たな仲間として、キミたちを迎えられたことを嬉しく思う」

 と、いつもの調子で答辞を述べる。それから、順に学園長、教育委員会のお偉方などの話が始まる。


 入学式が終わった後は、新たなクラスに行き席や委員会決めをする。

 2年5組の教室に入っていくとクラスの面々はほどんど前と変わっておらず九音が新たに加わったくらいだった。


 その九音が教室に入ってくる。

…………西園寺さんだ、写真より、断然可愛い!!

 と、男子陣から猛烈な視線を受けていた。


(っていか、なんで写真なんであるんだ?)

 ユウマは不思議に思いながら、話を訊いている。当の九音は、気にしていない様子で、ユウマの隣に座る。

―――どうして、昼神のところに座っているんだ!? 


 周りの男子陣が騒めき始める。すると、当然のように九音が「だって、ユウマくんは私の恋人だから」と宣言するように言い放つ。

 周りの時が止まる。皆がシーンとしていた。男子のみならず、その場にいたクラスメイト全員が固まっていた。


「さ、西園寺! そのことは秘密だって約束だろ?」

 ユウマは咄嗟に九音の口を塞いでいた。

 手の中で、九音がん~んぅぅぅ~~と喚いている。

 そのまま廊下に連れ出す。九音を問い詰める。


「いきなりひどいよ。ユウマくん」

 拗ねたような目を向けてくる。

「それは西園寺が約束を破ろうとしたからだろ?」

 そう言って、ジト目を向けてくるユウマに九音が大きなため息を吐く。


「ねぇ、ユウマくん。私たちが付き合っていることとっくにバレていると思うよ」

 諦観したようにそう言ってくる。

「どうしてそう思うんだ?」


 ユウマが恐る恐ると言った感じで訊くと。「だって、あの中には私と仲が良い子もいるからさ。ユウマくんの名前は出していないけれど、分かる子はすぐ気が付くと思うよ」と凛とした表情で言う。


「ユウマくんそろそろ堂々としな付き合っているって態度で示さない? 私、せっかく大好きなユウマくんと恋人になれたのに、このままずっと隠れているなんで嫌だよ」


 悲しそうな、寂しそうな表情をする九音。そんな九音を見たユウマは意を決したように頷く。

「西園寺の言う通りだな。せっかく恋人になれたんだからもっと堂々とするか」

 ユウマの言葉を訊いた九音は、嬉しそうに頷き返す。


 教室の戻る。堂々と恋人繋ぎをして。

 その光景を見た、一部の男子陣から事情説明を求める声があるが。

「私が、ユウマくんに一目惚れして猛アタックしたの」

 九音が色白の綺麗な柔肌を赤く染めながら言う。


 照れている九音を見た男子陣たちは驚きのあまり言葉を失う。

 「………私は応援したいな」

 いつの間にか後ろにいた胡桃がひょっこりと顔を覗かせて言う。

 親友のエールを訊いた九音は「ありがとう」お礼を言ってと優しく微笑む。これからもっともっと頑張っていきたいと心に誓って。


 

 




 

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【完結】学園一の美少女に脅されて付き合うことになりました。 赤瀬涼馬 @Ryominae

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