2話 夏休みの思い出①常夏の水着回
八月初旬。俺たちは予定を合わせて海に遊びに来ていた。
夏休み期間ということもあるのか、灼熱の如く暑さにも関わらず、ビーチには親子連れや俺たちと同い年くらいの男女のカップルなどたくさんの人で賑わっていた。
あまりの人の多さに人酔いしそうになっていると、目の端に女子大生の二人組が「早く行こよ―――!」とテンションマックスの状態でこちらに走ってくる。それ違うほんの一舜、ちらりと際どい水着とたわわに実った果実が目に入ってしまい、少しだけ見惚れてしまう。
俺も健全な男子高校生だということ改めて認識させられる。
呑気にそう思っていると背後から物凄い殺意に近い気配を感じて振り返ると怖いくらい笑顔な西園寺が立っていた。
「…………ちょっとユウマくん!?」
その様子をあっちゃ―――と額に手を当てた胡桃が見ている。
暑さに負けないくらいの凍てつく声を出している西園寺に視線を向けると普段とは違った格好していた。
西園寺は前回と同じ純白のビキニに同じ柄のショート・ハーフサイズの布を巻き付けた格好、胡桃は黒色のビキニといった大胆かつアダルティーな恰好をしていた。
普段は見られない二人の水着姿に見惚れてしまうのを必死に堪えて平静を装いながら、透哉とともに左右に挟むようにして歩く。
「何だが、すごく見られているね」
照れくさそうに西園寺が呟く。
「いいじゃんか。どんどん見せつけてやろうよ」と言って、胡桃が見せつけるように胸を張って歩く。
「…………胡桃っ! そんなことするなって」
当然ながらそんな二人には注目の眼差しが集まっていた。同性からは可愛くて、スタイルもいいなんて、羨ましい、絶対モデルか芸能人だよといった羨望の眼差しを向けられ、野蛮な男どもからは、おぉ―――あの子たち滅茶苦茶可愛くね!?―――ナンパしてこようかな、といかにもチャラチャラ声も聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間、普段は温厚な透哉が凄まじい鬼の形相で見てきた男たちを睨み上げていた。まるで、‘’ふざけたこと言っているとぶっ殺すぞ‘’と言わんばかりの覇気を纏いながら。
本当に胡桃のことが大事のようだと感心していると、お前もしっかりと西園寺さんを守ってやれよ、こういう場所はそくでもない連中の巣窟なんだからなと耳打ちされる。
「ちゃんと聞いているのか、ユウマくん」
「ああ。訊いているよ」
いくらなんでも言いすぎだろと思っていると、真横から声をかけられる。
声の方向に顔を向けると、大学生くらいの美人なお姉さんたちが声をかけられる。
―――まさかこれが巷に聞く逆ナンパ? と困惑していると、その一人が透哉にぎゅっと胸を押し当てながらお姉さんといいことしない?と小声で誘ってくる。それを透哉は鬱陶しそうにしながら「すみません。俺、そういうことに興味ないんで―――」とあしらっていた。
透哉の言葉にムッとしたナンパ女が「もしかして隣にいる女が彼女なの!?」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら「そんなお子ちゃまと遊ぶより私ともっといいことしよ!」とさらに妖艶な声色で迫ってくる。
胡桃のことをバカにされた透也は怒りに震えながら、「今、胡桃のことバカにしたのか? お前らみたいな尻軽クソビッチが容易く俺の胡桃のことを口にするな!」と見たことないくらいの剣幕で怒り狂っていた。
その剣幕にたじろいだナンパ女たちは周囲の視線もあってか脱兎のごとく勢いでどこかに走り去ってしまった。
「………透哉!」
衆人環視の中、胡桃が透哉に勢いよく抱き着く。
「おぉ―――どうしたんだよ」
驚いた透哉が目を丸くすると。
はにかむような笑みを浮かべた胡桃が「あんな風に言ってくれたすごく嬉しかった」と言う胡桃に「あんなのたいしたことじゃないぞ」と頬を掻きながら言う。
二人のやりとりを見た周りの野次馬たちが兄ちゃんやるね――――、よかったなお嬢ちゃんなどと言われていた。
俺もそんな二人を温かく見守っていると突如として脇腹に痛みが走った。
痛んだ箇所に視線を向けるとフグのように頬を膨らませた西園寺が俺の脇腹を抓っていた。
「良いな―――胡桃だけあんなに藤堂くんとイチャイチャしてズルいよ」
焼きもちなのか、羨ましいそうに二人を見ている西園寺に「ええっと、西園寺さん?」
「私もユウマくんからあんなこと言われてみたいな――――」
ちらちらとこちらを見ながら言ってくる。
「………」
だんまりを決め込んでいると「ユウマくんのばかっ! 意気地なし」と理不尽に罵られる。
俺は、そんな西園寺を黙って見ていると、唐突に西園寺が肩にかけていたポーチから小さい何かを取り出す。
「はい………ユウマくん」
「西園寺、これってまさか」
「塗ってくれるよね? ユウマくん――――」
にっこりとした笑顔のまま西園寺が迫ってくる。
俺に手渡されたのは、日焼け止めクリームだった。
「ちょ、ちょっと待て。西園寺」
慌てふためく俺ををじーっと見つめながら、「問題ないでしょ―――だって、付き合っているんだから」
「でも―――えっと、その――――」
おろおろとしている俺に「他の女の子にはデレデレするくせに、私にはやってくれないんだ………?」
どこか試すような視線を向けてくる。
「…………」
「どうしたの? ユウマくん。塗ってくれるの、塗ってくれないの?」
一歩、一歩、ゆっくりとした足取りで西園寺がこちらに近づいてくる。
「わかったよ、塗ればいいんだろ、塗れば………!」
半ばやけくそになりながら返事をして、俺は西園寺から渡された日焼け止めクリームの蓋を開ける。
「フッフ、それでこそユウマくんだね」
と煽るようなことを言って、パラソルの中に入っていく。
うつ伏せになってから、後ろ手で水着の紐を解く。
「それじゃあ、塗っていくぞ」
西園寺の陶器のような白い肌に触れ、最初は首から徐々に両肩、肩甲骨、背中、と順番に塗っていく。
「っん………んん――――」
時々、色めかしい声を上げながら身体をくねらせる。
「ユウマくんったら、触り方がエッチだよぉ―――」
と言いながらも、西園寺は何処か嬉しそうにしている。
絹糸のようなサラサラでスベスベな触り心地にドキドキしながらも、優しく慎重に丁寧に塗っていく。
「っダメ、ユウマくん―――――!」
当の本人は何故かエロい声を出していた。
「西園寺頼むから、変な声を出すのは控えてくれ」
懇願するのだが、俺がアタフタする様子が面白いらしくニヤニヤしていた。
「どうして!? もしかして反応しそうになっちゃったの?」と意地の悪い笑みを浮かべて訊いてくる。
「っ! それもあるが、ここは公共の場だ。いくら人混みで聞こえないからと言っても、さすがに限度があるだろ?」
「何よ。他の子に目移りするのが悪いが悪いのに……ユウマくんのバカ」
だが、俺の言葉を訊いた西園寺はどこか不貞腐れように頬を膨らませていた。
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