8 運命

 編入試験を受けて、翌年4月のこと。


「本当に2人とも合格するとは思わなかったな」

「ふふ。でもこれであと3年また一緒だね、嬉しい!」

「ああ。これからもよろしく」


猛勉強の末に試験を受けた俺達は、1枠ずつしかなかった編入枠をお互いに勝ち取ることができた。

新しい大学では初日にオリエンテーションが行われるというので、前期最初のこの日、学部で一番広い講義室に全ての文化学部の2年生が顔を揃えることになる。

俺達も同じ学科だと思われる人達の中に混じって席に座ると、まだ真新しい綺麗な講義室を見回して、ワクワクした気持ちが抑えられなくなった。


「やっぱり前の大学より施設も整ってるって感じ。どんなことが勉強できるか今から楽しみだね!」

「そうだな。思い切って来てみて良かった」


心なしか嬉しそうなカズと話しながら待っていると、それぞれの学科の教授達が続々と講義室に入って来て壇上に並んだ。

簡単な講義と時間割の組み方の説明があった後、席の前の方からレジュメが配られてそれを見た学生達がざわつきだした。

レジュメを確認してみると、その反応の意味が何となく分かってくる。


「ねえねえ、カズ見てよこれ」

「何?」

「6月に3泊4日の文化学部合同キャンプがあるんだって。えーっと班は…やった!一緒だよ!」


各学科毎に組み分けられた班は1班4人の構成で、同じ班に俺とカズの名前があった。


「知らない人達の中で1人じゃなくて良かったな」

「俺は結構コミュ力あるけどカズは心配だもんね」

「まあ…否定はできないかな」


ふと漏れてしまった本音に、俺達は顔を見合わせて笑い合う。

残り2人は江咲佑と西原拓馬という人。当然だけど知らない名前だ。

教授たちは学生たちに顔合わせをしておくようにと言い残し、皆講義室を出て行ってしまった。

他の学生たちも同じ学科で班が組まれているようで、顔見知りのような感じで班のメンバーと話し始める。


「どうしよっか、2人とも初対面だからどの人か分かんないや」

「俺らが編入生だって分かってくれたら来てくれるかもしれないけど…」


俺達がきょろきょろと辺りを見回していると、


「藍良くんと蔵田くん、だよね?」


と、後ろから声が掛かった。

振り返ると、立っていたのは金髪でスポーツマンっぽい感じの眼鏡をかけた男の子と、少し緊張気味の大人しそうな黒髪の男の子で、きっと同じ班の2人なんだろうと察する。


「もしかして、江咲くんと西原くん!?俺は藍良歩、歩って呼んで?経済学専攻なの、よろしく!」


俺は金髪の彼の手を取って握手をし、上下にブンブンと振った。

たくさんの学生がいる中でちゃんと出会えたことが嬉しくて、俺は横に居るカズを振り返る。


「2人の方から来てくれて良かったね、カズ!見つけてくれて本当にありがとう!俺達今日編入して来たばかりで、右も左も分かんなくって困ってたの」

「あぁ、助かったよ。あの、歩…彼が困ってるからそろそろ手を離した方が」

「あっ…ごめんね!?」

「歩が煩くて悪いな。蔵田和樹、法学専攻だ。よろしく」

「もう!煩いとか失礼だなカズは!でもごめんね、自己紹介の途中で逸れちゃったね」

「いーや大丈夫だよ?俺は西原拓馬、法学専攻ね。こっちが江咲佑で経済学専攻。よろしく。俺も呼び捨てで構わないよ」

「江咲佑。よろしく」


西原くんは初対面でも人当たりの良さそうな明るい人。

少し大人しそうな感じの江咲くんにも握手を求めようとしたけれど、彼は手を彷徨わせて気まずそうに引っ込めた。


「あの…握手、苦手なんだ。ごめん」

「そ、そうなんだ!ごめんね、気にしないで?」

「いや、こっちこそ」

「あーごめんな、佑はこんな感じだけど、すっげー人見知りなだけだから。慣れるまでだから気にしないでな?」


初対面で馴れ馴れしかったかな…と後悔していると、西原くんがフォローを入れてくれた。


「んで、仲良さそうだけど2人は知り合い?」


西原くんが話を広げてくれたので、そのまま2人で少し話をすることにする。


「そーなの、中学から一緒でね!法文学部に2枠編入枠があるって知って、元々第一志望だったから受けることにしたんだ」

「そっか。んじゃ今回の班も居やすいかもしんないな?俺と佑も保育園からの幼馴染みだからさ、気負わないで話してよ」

「そうなんだ!仲良い人と一緒で良かった!」


ふとカズの方を伺うと、江咲くんと話をしているようで少し安心する。

編入というのも俺にとっての大きなターニングポイントだったけれど、このキャンプを通してもっと大学生活が楽しくなるような、そんな予感がしていた。

この出逢いがきっかけで4人の人生が大きく変わっていくと気付くのは、まだもう少し先の話だ。



-終-

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