第25話 ブローチの真実
「この宝石はジョルダリ国でしか産出されない。
しかも、購入できるのは王族に限られている」
「は?」
……え?王族しか購入できない?それって……
ライオネル様の言葉を信じなかったのか、誤魔化したかったのか、
アマンダ様がライオネル様に可愛らしく笑いかける。
「何の話をしているのですか?ライオネル様。
これはそんな高貴なものではないですよ?
たしかに綺麗な宝石ですけど、
王族しか購入できないようなものではありません」
自信があるのか、アマンダ様は言い切った。
このブローチは王族のものではないと。
多分、それは私がずっと持っていたのを知っているからだ。
十歳のお茶会の時から私が持っているのに、そんなわけないと。
……私は、一つの可能性に気がついて、息をのんだ。
「王族のものだと証明すればいいのか?」
「ええ、できるのであれば」
「じゃあ、そのブローチを俺に渡してくれ」
「え?何をするのですか?」
「証明してほしいのだろう?」
「……わかりました」
ライオネル様が何をするのか予想できないからか、
アマンダ様は少し渋った。
だが、ライオネル様の指示に従わないわけにもいかないのか、
おとなしくブローチを外してライオネル様に渡す。
ライオネル様は受け取ったブローチを手のひらにのせて、
周りにいた学生たちにも見えるようにした。
「これは、この宝石は王族の魔力に反応するようになっている」
魔力に反応?
どういうことだと見ていたら、宝石から光が浮かび上がった。
その模様がジョルダリ国の紋章なのに気がつく。
「おい、光ってるぞ」
「何、あの浮かび上がってる模様」
「あれって、国の紋章じゃない?」
「じゃあ、王族しか購入できないって本当なのか?」
「……それじゃあ、アマンダ様の物じゃないの?」
「盗んだのはアマンダ様だってこと?……嘘ぉ、ひどくない?」
さっきまで味方だった学生たちが、アマンダ様を疑い始める。
それが聞こえているのか、アマンダ様は唇をかみしめる。
「これを見たらわかるだろう?
王族の物だとわかるように、紋章が浮かび上がるようになっているんだ」
「ですが、なぜ、それがジュリア様のものだと?
うちの商会がそれを知らなくて、
たまたま手に入れたものかもしれないじゃないですか」
「ジョルダリ国から不正に流れ着いたものだと?ありえないな。
この石、精霊石を管理しているのは俺の母の生家だ。
原石の一つ一つに当主である侯爵が魔力をこめて管理している。
もし、盗まれたとしても、追跡できるようになっている」
「……それでも、ジュリア様のものだとは」
ブローチが王族の物だとわかっても、
あくまでも自分は知らずに手に入れたと言い張るアマンダ様に、
周りの目も冷たくなっていく。
「どうしてジュリアの物だと認められないんだ?」
「だって、それがジュリア様の物だったとしたら、
ジュリア様は十歳の時から持っていたことになります!
ライオネル様は今年になって留学してきたのに、おかしいじゃないですか!」
「あぁ、そういうことか。
俺がこのブローチをジュリアに渡したのは十年前だ」
「え?十年前だなんて嘘です!
そんな前に会っているわけないもの!」
そうだよね、普通ならそう思う。
隣国の王子と会う機会なんてない。
この国の王族とも会う前だったのだから、なおさら。
「そうか?侯爵家出身なら王子妃になることだってめずらしくない。
俺に年が近い侯爵令嬢はジュリアしかいないし、
隣国だとしても、王子の俺と会う機会があってもおかしくないだろう」
「そ、そんな……本当に?」
「十年前、初めて会ったジュリアに、
大事なものだから預かっていてくれと言って渡した。
このブローチは俺が生まれた時に母から贈られたものだ。
だから、これがジュリアの物だとすぐにわかった」
「……嘘よ……」
やっぱり……あの時の少年はライオネル様だった……。
赤色でも茶色でもない、銀髪のライオネル様があの少年だとは、
想像もしていなかったけれど。
「これは間違いなく、ジュリアの物だ。
俺が渡した守り石なのだから」
「……もういいです、わかりました」
もう何も言えなくなったのか、アマンダ様が悔しそうな顔をする。
そのまま立ち去ろうとしたアマンダ様に、
ライオネル様の鋭い声が飛ぶ。
「おい、逃げるなよ。ジュリアに謝罪は?」
「っ!」
「ブローチを盗んだうえに、謝罪するように強要していたよな?
お前こそ、ジュリアと周りの者たちに謝罪しなきゃいけないだろう」
「……も、もうしわけ…ありませんでした!」
よほど言いたくなかったのか、
最後は早口で言い切ると、アマンダ様は走って逃げた。
これではとても謝罪には思えない。
それを見た学生たちは好き勝手に言い始める。
「最低じゃない?」
「何、あれ。謝ったって言えるの?」
「あのアマンダ様って、わがままで有名らしいよ」
「私、知ってる。昔、他の令嬢から物を無理やり奪ってたって」
「うわぁ、ひでぇな。その性格のまま育ったのかよ」
ざわざわとアマンダ様への悪口が聞こえてくる中、
私はそれどころではなかった。
ライオネル様が、あの時の少年。
まだ信じられず、ぼーっと突っ立ったままの私を、
ライオネル様がのぞきこんでくる。
「大丈夫か?ジュリア、ほら」
「あ、ありがとう」
ライオネル様がブローチを渡してくれる。
大事なブローチ。このブローチに、何度助けられただろう。
両手でぎゅっと包み込むようにすると、
ライオネル様が苦しそうに笑った。
「一人で取り返しに行くなんて無茶するなよ」
「ごめんなさい」
「俺はそんなに頼りないか?」
「……ごめんなさい」
頼りないとは思っていない。
だけど、頼ろうとは思っていなかった。
だって、私とライオネル様はそんな関係じゃない。
ライオネル様はため息をついて、私の手を取る。
「授業は火事のため中止だそうだ。少し話そうか」
「うん……」
そのまま手をひかれて、カフェテリアの個室へと連れていかれる。
私たちの後ろからついてきたジニーは個室へは入らなかった。
いつもなら二人きりにするのはまずいって、一緒に入るのに。
「聞きたいことがあるんだろう?」
「……ライオネル様があの時の少年?」
「あの時の、っていうのが西門の時ならそうだ」
やっぱりそうだった。
あの時、私を助けてくれたのはライオネル様だった。
「私だって、最初から気づいていたの?」
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