第17話 打ち合わせ




私は美咲の待つ相談室に入り、扉を念入りに閉める。


少し不安げな顔をして、ソファに縮こまって座る美咲が居た。


「おまたせ」

なるべく軽快に声をかける。


「あ、玲奈!よかったー。違う人来たらどうしようかと思って」

「私大丈夫だった?ちゃんとできてた?」


緊張が解けたのか、美咲はやけに饒舌になってこちらに駆け寄ってきた。


「大丈夫でしょ。怪しまれてたらここまで通してもらえないし」

「たしかに。てかさ、意外と普通のオフィスでびっくりしちゃった」

「何、漫画に出てくるアジトみたいなの想像してたの?」

「いや、もっと銃とかそこらじゅうにあるのかなーと思って。」

「まあ、無いことはないけど、見えるところには置かないよね。」

「無いことはないんだ」



「三田咲。元会社員。」

「え?」

「あんたの設定。ほら、名前と職業をそのまま出すとまずいから。」

「そうなの?」

「昨日のターゲットの関係者リストにもういるのよ。」

「なるほど」


私はタブレットPCを開き、文章入力ソフトに詳細情報をでっち上げていく。


「会社での不正を暴こうとして、辞めさせられた、と。」

「何その正義設定。私それできるかな。」

「いや、なんかこういう感じの方が後輩の子が共感して頑張ってくれるかなと思って。」

「そんな感じなの?」

「まあ、プロはどんな理由でも金さえもらえれば仕事はするけど、今回は新人の子と組むからね。彼女の気持ちが乗りやすい方が疑われないから。」

「なるほど。さすがプロって感じだね。」


美咲の相槌は少し間違っている。

経験を積んだプロの殺し屋は、仲間を疑うことを知っているのだ。


だからこそ今回のバディは、まだ経験の浅い新人の後輩、高橋にすることにした。彼女は以前、新卒で入社した企業の不正を内部告発しようとして、理不尽に辞めさせられたことを契機にこの業界に足を踏み入れてきたと語っていた。


正義と信頼を重んじる上に、私にも敬う様子を見せてくれている彼女なら、心苦しいが騙し通せるだろう。彼女のモチベーションを上げ、より親密度と信頼度を上げるために、私は美咲に高橋の過去に近い設定を置くことにした。



「よし、できた。これ、覚えられそう?」

完成した資料を印刷し、美咲にも渡す。

「余裕。おじの趣味に合わせて演じるのとかよくやってたし。」

「そっか。それは頼もしいな」


「なんか探偵モノみたいでワクワクしてきたね」

「今からするのはその逆だけど」

「確かに」


やけに目が輝きだした美咲に微笑みかけて、私たちは秘密の結託をして扉を開けた。


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ナイトガール・クラッシュ 〜頂き女子と殺し屋女〜 端野暮 @Schreiben_und_Lesen

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