第11話 契約
「頼みたい仕事があるんだけど」
美咲の言葉に、私は耳を疑った。
「どんな仕事?」
私はそう問いかけた。私に頼む仕事なんてひとつしかないのに。
美咲は深呼吸してから、静かに話し始めた。
「殺して欲しい男がいるの。そいつ、私を付きまとってて。最初はお店に来てただけなんだけど、最近は家のすぐ近くまで来てて。このままじゃ私がやられる。」
彼女の声は震えていた。その目には恐怖と怒りが混じっているのが分かった。
「とりあえず、そいつの名前と年齢、体格とか、特徴を教えて欲しい。」
「鈴木っていう男で、30代かな。背が高くて、髪は短め。いつもスーツを着てて、仕事は一応してるみたい。」
いまある依頼リストにその名前はない。引き受けるならば新規の依頼となる。
この状況でさらに厄介ごとを抱えるのは少し気が引ける。
「私がいうことじゃないけど、警察とかお店の人の力では無理なんだね?」
「うーん。そもそもがお金のトラブルだから警察行くと私も危ないし、お店に言ったら私が辞めさせれられて終わるだけなんだよね。」
「そっか。」
「殺してほしいの。お願い。玲奈にしか頼めないの。あいつがいる限り、私は自由になれない。夜も眠れないし、いつも怯えてる。もう限界なの。」
美咲の手の震えが、その言葉の切実さを否応なく私に伝えた。
彼女がどれだけ追い詰められているのかがよく分かった。
彼女を救えるのは私だけ。ここで断れば、彼女の命は危ういまま。
美咲を守るのが私の使命だと、昨夜の私は誓ったはずだった。
「わかった。引き受ける。」
少し危ない橋を渡ることにはなるが、引き受けることにした。
「本当に?ありがとう。」
「でも、条件がある。」
「条件?」
「玲奈が私を守るために嘘をついてくれるかどうか、それが条件だ。」
「嘘?」
「昨日の出来事を隠して、私の事務所に行って殺しの依頼をして欲しい。もちろん私が受け付けるように話を持っていく。」
「えっ、なんで?二度手間じゃない?」
「これを黒蓮会を通した正式な仕事にしたいから。直接の依頼はリスクが高いし、変な依頼を受けてるとなれば私も組織から目をつけられやすくなる。黒蓮会を通せば、君も私も守られるし、正式な仕事として動ける。」
少しリスキーな作戦ではあるが、やってみる価値は十分にある。
「なるほど。殺し屋界隈も色々大変なのね。」
「本当にね。ちょっと厄介な話になっちゃったけど、乗ってくれる?」
「任せて。私ウソは得意だから。」
「さすがだね。」
「でも、本当に大丈夫だよね。なんかやばい感じにならないよね。」
「大丈夫。君を守るのが私の仕事だから。」
いざとなったら、組織幹部とも戦う。彼女を拾った時点でその覚悟は決めていた。
「じゃあ、詳細を教えて。そいつの行動パターンとか、住んでる場所とか、美咲との関係性とか。」
「うん。」
美咲は、男の詳細を話し始めた。
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