第17話 全ての元凶
全ての真相。
いつか今泉に言ってやる予定だったが、それが今らしい。
「月山が遅刻した原因。それは今泉、お前と出会って嫌がらせをされたからだ」
「っ!?」
明らかに今泉が動揺の表情を見せる。
あの時、月山の服は汚れていた。
本人は転んだと言っていたが、違う。
ただ転んだだけであんな変な汚れ方はしない。
今泉に突き飛ばされて、転ばされた。
そっちが正解だ。
あの日、僕たちの話を聞いていたのか、今泉は嫌がらせをするために月山を待ち伏せしていたのだ。
それで月山がいい服を着ていたから、汚すために突き飛ばした。
更に遅刻をさせた。
「財布が無かったのは、今泉に財布を取られたからだ」
更に財布を奪った。
今泉の言った通り、財布を忘れるなんておかしい。
誰かに取られた。この可能性の方が高い。
「ついでにその時、絵も破りやがったな?」
最後は月山の鞄に入っていたビリビリに破られた絵だ。
彼女は気に入らなかったから破ったと言っていたが、それは月山らしくない。
月山が自らの『自由』を破るはずなんてない。
あれは誰かが強制的に破ったものだ。
「後は、月山が学校を休めないよう脅迫もしたか」
月山が学校を休もうとしなかった理由。
確かに彼女の我もあっただろうが、本当の原因は今泉の可能性がある。
恐らく、休んだらもっと酷い目に遭うと脅した……とか。
僕の話を聞いた今泉が忌々しい顔となった。
そして……
「…………ち」
教室全体に広がるような舌打ちをした。
教室は静けさに包まれていたので、余計にその音は目立った。
「んだよ、その女。チクリやがったのかよ。情けねー女だな。あ?」
ガラの悪い態度となる今泉。
今度こそ完全に『本性』を現した。
いつものような都合の良い正義感すらない。
完全なる悪意の塊である。
「言っておくが、月山は何も言ってないぞ。僕がカマをかけたんだよ。あっさり引っかかったな」
「はあ? なんでそんなカマかけたんだよ」
「様々な可能性を考えるのは得意なんだよ。予定としてな」
今泉があまりに詳しすぎたってのが怪しいと思った理由だ。
『遅刻した』とか『財布を忘れた』とかいくらなんでも情報が的確すぎる。
とはいえ、黙っていればバレなかったかもしれないのに、今泉は認めてしまった。
ドジな女である。
まあでも、そんな理屈より、月山が僕を騙せないという絶対の理由があった。
月山はなあ! この僕が予定を作って丸一日かけても、嘘の笑顔を一つも作れなかった子なんだぞ!
そんな月山が人を騙すなんて器用な真似ができるか!
もし仮に月山が僕を騙そうとしたら、全てが片言になるわ!
嘘の笑顔で魅了でもしようものなら、その顔は常に引きつっている地獄絵図になるわ!
あの月山の姿を見ぬまま彼女を語るなど、笑止千万!
浅すぎて、片腹痛いわ!
月山の世界レベルとも言える不器用さを舐めるな!!!
「なんだろ。あたし、下田君に馬鹿にされている気がするけど、気のせい?」
「気のせいだ!」
とにかく、サプライズで混乱させて『それっぽい事』を言って騙そうとしても、僕には通用しない。
月山の噂の正体は、今泉がでっちあげた虚言だったわけだ。
確かに今泉は場を支配する天才だ。
多くの人がそのオーラに飲まれて信じてしまう。
だが、予定だけで生きている僕は、そんな適当なサプライズに惑わされない。
月山と向き合ってもいない人間の言葉など響かない。
どうせやるなら、あいつくらいガチのサプライズを仕掛けて見ろ。
「ああもう! ほんとめんどくせーなぁ、お前!」
更に酷く顔を歪ませて僕を睨み付けてくる今泉。
元の顔はいいはずなのに、悪意と怒りとは、こうも人間を醜く染めてしまうものなのか。
「この女が悪いんだよ! どれだけクラスの空気を悪くしているのか、分かってんのか? でかいため息ついてんじゃねーよ。聞こえてんだよ!!!」
初めて僕と月山が話した日、あの時の事は、やはり聞かれていたか。
「サプライズが嫌い? そんな甘えは許されないんだよ! 皆がサプライズが好きなら、それに合わせなければならない。このクラスはサプライズが絶対のルールだ。ルールを守れない人間には、罰が必要なんだよ!」
そんなルール、勝手に決めるなよ。
押し付けられる方としてはたまったのものじゃない。
「しかも、こんな女がコンテストで受賞した? ふざけんな! 死ねよ!!!!」
「ああ、そういう事か」
つまりは今泉の嫉妬だったけわけだ。
これが全ての原因。
そういえば、今泉は美術部員だったか? なるほど。
でも、それなら上位グループでちやほやされてないで、絵を描くことにもっと時間を使うべきだったんじゃないか? 月山はずっと絵を描いていたぞ?
皆が妙に月山への当たりがきつかった理由もこれか。
今泉がそういう方向へ誘導していたのだ。
「今泉さ、本当はサプライズも絵も好きじゃないだろ」
「ああ!?」
「サプライズとかを使って、なんでも自分の思い通りにするのが好きなだけだ」
これが今泉の戦略。
月山がサプライズが苦手なのを見抜いてサプライズが正義という空気を自ら演出する。
それを利用して月山を攻撃する材料を作り出した。
月山を下げる事で自分の価値を上げる。
他者を上手に蹴落とし、サプライズが好きな日野に媚びる事で、更なる権力を手にする。
サプライズが絶対正義。この狂った価値観の原因は、そんなたった一人の支配欲が引き起こした下らない理由だったのだ。
逆に言えば、この女を何とかしなければ、クラスの価値観は狂ったままだ。
一回のサプライズを潰しただけじゃ終わらない。
その元凶まで絶つ必要がある。
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