3章 決戦! アンチサプライズ!
第11話 正義のサプライズVS悪の予定人間
『なにこれ、きもっ!』
それは僕が初めて予定表を作った時のクラスメイトの感想だった。
分単位で刻まれたその予定表は全部で500項目程あり、人によっては虫が群がっているように見えたかもしれない。
その日、僕は決心した。
まず、もう二度とメモ帳は作らない。絶対に作らない。
それだけじゃない。自分の心は隠す。
僕の特技なんて誰も知らない。他人を不快にさせる才能なんていらない。
それが僕の正しい生き方。
だが、それも今日までだ。
サプライズが行われたら、クラスメイトの多くの自己欲求が満たされるだろう。
本来、僕にそれを邪魔する権利など無い。
たかが、サプライズ。月山一人が我慢をすればいい話。
そもそも、対応できない月山が悪いし、嫌なら休むべきだ。
それが世界の答えだろう。
でも僕は、許せないのだ。
あの日の決意を崩してでも、たとえ悪人だと罵られようとも月山を肯定したいと思ってしまった。
だから、今日から僕は真のアンチサプライズとなる。
今までのように、サプライズに対応するのではない。
サプライズに立ち向かって、叩き潰すのだ。
やはり、僕という人間はどうしようもない悪人だったかもしれない。馬鹿め。
ならば、この馬鹿を貫き通してやる。
もう遠慮も我慢もしない。容赦なく僕の本気を出す。
予定のプラン数は8000なんてものじゃない。その5倍……いや、10倍は作ってある。
無限の予定を得た今の僕に対応できないものは存在しない。
ありとあらゆる全てが予定通りとなる。
そうして、僕はクラスの最上位の存在、通称『日野グループ』を見つめた。
その中心人物は
このクラスの王とも呼ぶべき存在だ。
彼は今日も周りから囲まれており、自慢げな表情で語り始める。
「俺たち日野グループはどこまでも上を目指したい。だからこそ、俺たちはルールを守ろう。『いじめは絶対にしない』。これがルールだ。手にした力は、人をいじめるためのものじゃない。幸せにするために使うべきだ。そうは思わないか?」
日野の言葉を聞いたクラスメイトは、感嘆の声を上げていた。
「さすが日野君、いいこと言うよね!」
「かっこいい!」
なるほど、確かに素晴らしい御高説ですな。
ついでにサプライズという名のいじめも止めてくれたら、ありがたいんですがね。
「大丈夫。私たちは、絶対にいじめなんてしないよ!」
「それどころか、このクラス全員を幸せにして見せるぜ! 俺たちのサプライズでな!」
「おお! サプライズ、最高ぉぉ~!」
クラスメイト達は力強く拳を上げている。
彼らにとってあくまで自分こそが絶対の正義なのだ。
逆に言えば、その気持ちに沿えない人間が悪となる。
この狂った世界で、それを正方向で止めるのは不可能だ。
まして僕ごとき底辺が『違う、本当は月山はサプライズを嫌がっている!』などと口にしたら、その瞬間に空気を読めない悪として潰される。
それで終わり。
ささやかな抵抗は無意味となり、僕も月山も悲しむ結果となるだけ。
だから、それはできない。
悪いけど、真正面から戦うわけにはいかない。
卑怯というなら、そう呼べばいい。実際にそうだ。
搦め手でサプライズを潰すためには、実際に日野グループと接触する必要がある。
「…………ふう」
一息だけ深呼吸。
緊張を恐怖とするのは、これで最後。
後の緊張はただひたすら喜び。
予定を遂行する嬉しさだけを僕の心に残す。
さあ、予定を始めようか!
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