王宮で…

 

 王宮から呼び出しがかかりすぐ私たちは家を出ました。


 ローズお姉さまは家を王宮に出向くことを最後まで抵抗していましたが、さすがに今回は夜会のように仮病を使うわけにもいかず、半ば引きずられるように馬車に乗せられ、私と一緒に王宮へ向かいました。


 王宮の前にある門につき、門番へ要件を伝えると案内役が迎えに来るので少し待つように指示されました。


 案内役の方が到着し、馬車が王宮の敷地の中をゆっくり進みます。

 そして馬車から降りお父様に連れられて、王宮の中を進みます。お父様の前には私たちを案内役の文官の方が先行していますが、その表情はどこか緊張した面持ちです。


 どうして案内するだけでそうして緊張しているのかわかりませんね。王宮に努めている文官の大半は貴族家出身の者が大半で、伯爵家当主を案内する程度で表情に出るほどの緊張をするとは思えませんし。


 呼び出しを受けているためなのか、本来出ればそう簡単に中に入れない場所であるにもかかわらず、止められることなく王宮の奥へ進めています。


 そして、そのまま王宮の奥まで来ると来客用と思われる応接室に通され、私たちが席に着いたところで案内してくれた方から少し待つように進言され、私たちは応接室の中でしばしの間待つことになりました。


 今回の呼び出しは、フロイデン殿下に仕えている執事長からの呼び出しと、ここに来る途中にお父様から伝えられました。

 フロイデン殿下の親にあたる陛下もこのことは把握しているとのこと。


 そうして王宮の応接間に通され少し待ったところで、応接室のドアが開き今回私たちを呼び出した方とは別の王宮付きの執事が先に中へ入ってきました。

 そして、その後に続いて想定していない人物が入ってきました。


「陛下!?」


 入ってきた人物を見て驚きからお父様が声を上げました。

 私も同じように驚いていたのですが、それ以上に陛下に続いて部屋の中に入ってきた人物の状態を見て絶句してしまいました。

 隣に座っているローズお姉さまからも息をのむような反応をしているのが分かります。


「フロイデン殿下!? そのお顔は…」


 応接室に入ってきたフロイデン殿下の頬がはれ上がっていたのです。しかし、その様子を知っているはずの陛下はそれが当たり前といった表情で気にしてもいない態度です。


「ああ、息子のことは気にするな」

「え、あ、はい」


 フロイデン殿下の様子に声を上げてしまいましたが、その声を聴いた陛下からそのように返答をされ、それ以上聞くことができなくなってしまいました。

 しかしフロイデン殿下の様子と陛下の返答から、およそ誰がそうしたのかは理解できました。


 陛下の言葉を聞いて、陛下の後からフロイデン殿下が入ってきたことに気づきお父様がその顔の状態を見て、さらに驚きの表情をしていました。


「陛下。申し訳ありませんが、私たちをここへ呼び出しをされたドリタ様はどちらに?」

「ああ、あやつはここには来ない。暇を出したからな」

「え?」


 私たちを呼び出したはずのフロイデン殿下の執事であるドリタ様がここに来ないという状況に、お父様は相当困惑している様子ですね。


 いつもは頼りがいのあるお父様ですが、突発的に起こる事態にはあまり強くないのですよね。いろいろ考えて対策して挑むのはとても得意なのでしが、反面その場で判断しなければならないような状況は不得意なのです。


「私に報告もなしにこのような場を設けて、自分の都合の良いように事態を動かそうとしていたからな。さすがに私の名を出して呼び出しを行うような奴を近い場所に置いておくわけにはいかん」

「そうでしたか」


 どうやらここへ呼び出してきたドリタ様は知らせていると言いながら陛下に知らせることなく、事態の収束をしようとしていたようですね。

 この話を聞くと陛下に気づいていただけなかった場合、ローズは無理やりフロイデン殿下の婚約者にされていた可能性が高そうですね。私も同時に呼び出されていたことから、ローズがどうにもできなかった場合の替え玉として呼び出された感じでしょうか。

 ドリタ様はフロイデン殿下の執事でありますが、我が家よりも家格の高い侯爵家の家長ですから立場を利用されて圧をかけられた場合、私たちが否と唱えることはかなり難しいのです。


「気づくのが遅れ呼び出しという形になってしまい申し訳ないが、あの夜会での件はこちらで処理しておいた」


 今回の呼び出しはあの夜会での後始末について話し合う予定だったのですが、すでに陛下が直接指示を出して済ませてしまっていたようですね。


「こいつの発言については公で宣言した以上撤回はできない。ローズ嬢の反応次第では婚約させるのも良いと考えていたが、無理そうだな」


 陛下は隣に待機しているフロイデン殿下のことを少し呆れたような表情で見ながら、視線をローズお姉さまの方へ移動させました。


「っ。申し訳ありません。私ではフロイデン殿下のお相手は荷が重すぎますわ」


 陛下から自分の名前が出るとは思っていなかったのか、ローズお姉さまが焦った声色でそう返しました。


「だろうな」


 もともとそこまで期待していなかったといった様子で陛下はローズの様子を見て小さく息を吐きました。



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