第2話 学友と過ごす最果ての幻夢


変革を余儀なくされ始めた世界。


以前の世界像を渇望しながらも、



…………………


…………………


…………………


……………ぇ…


…………ねぇ!


……大丈夫!?




幼い頃の、兄弟で目覚ましし合うような、


そんな感覚を懐かしく思うような、呼び掛けだった。




「ん、んぁぁぁぁーー。」




寝ぼけ眼で、大欠伸をして脳を覚醒させていく。




「ふぁぁーー、ぅぅん、………、


どうしたの、何かあった?」




「何かあった?じゃないわよ。


休み時間が終わりそうなのに、


いつまでも寝てるから、起こしてあげたのよ。」




「ふぁぁ、もうそんな時間か。


いつもありがとうな、手間をかけさせる。」




「そんな事はいいんだけど、


次は移動教室だから早く準備して行こう!」




「おう!って、5時限目の教科ってなんだっけ?」




「もう!いつまで寝ぼけているの?


プログラムの授業よ。」






「おーい、2人ともいつまでかかってんだ、置いてくぞー!!」




教室のドア付近から、男子同級生が声を掛けてきた。






「わるい、わるい、今いく!」




「さぁ、いこうぜ!」




「まったく、調子いいんだから。


でも、いつもと違ってうなされてたみたいだけど、


何かあったの?」




「いや?特に何もないけど?うなされてた?


そういえば、なんだかよくわからない夢を見てたような気がするかも?」




「なにそれ、へんなの!


何にもないなら、


ないに越したことはないよね。


でも、何かあったら何でもいってよね!


私たちは友達なんだから!」




「あぁ、心配かけてすまない。」






どうしたんだろう?


うなされてたって?


いつもの学園生活に、


いつもの同級生たち、


いつもの学園風景、


特段、気掛かりなこともない、


順風満帆で、少し退屈な世界。


何か不思議なことが起きて、


この日常を変えてくれる刺激があればと、


考えてしまうのは、


今に満足できていない、


貪欲さからくるものなのか、


好奇心による業なのか、


いずれにしても、持たざる視点からしたら、


贅沢な欲望なのかもしれない。


ひとたび、高みを望めば、


それは際限のない我欲が自身を支配する。


多くを望みすぎず、身の丈に合う生き方をする。


それが、一つの幸せの形なのかもしれない。






思考を遮る予鈴が鳴り、


学園生活という今の日常に引き戻されていく。


否応なく引きずり込まれ、


この安息の日々の尊さを痛感する、


地獄のような非日常は、


静かに、這い寄って来ていた。








その日の放課後、


俺は学園入園当初からの友人2人と帰路についていた。


そんな道すがら、他愛のない会話を交わしていた。






「そういえば、今日の昼休みもそうだけど、


最近良く寝過ごす事が多いよね。」




「そうだな。」




「いやぁ、いつも迷惑かけてすまないな。」




「別に迷惑ってことでもないよ、


寝顔が面白かったりするし?ね?」




「確かに、涎垂らしてるのなんか、


傑作だな、ははは。」




「マジかよ。ってか、


寝ている間に変なことしてないだろうな?」




「しっ、してないよ…ね?」




「おう!誓ってしてない!」




「いやいや、挙動がおかしいから。


はっ!まさか額に何か?!


って、特に何もない?」




スマートフォンのカメラ機能で額を確認してみた。




「ぷっ。ふふ、もうダメ、あははははっ。」




「おいおい、仕方ないな。


わりぃ、ちょっとしたイタズラしちまった。」




「えっ?!何かしたのか?」




「背中だよ、背中。」




「背中?って、手が届かねぇ!」




「ほらよ。」




「おう、ありがとう。


じゃねぇ、何だよこれは!?」




(わたしは、ねぼすけ野郎です)




友人から手渡された紙に書かれた、


幼稚なイタズラにノリ突っ込みをいれる。




そんなささやかな一時を、


凶刃という絶望が突如として降りかかる。






「いつも、いつも、楽しそうな声が


耳障りなんだよ!!!!!


お前らみたいなのが、さいっこうに、


ムカつくんだよ!!!!」






何が起こったのか、


余りにも支離滅裂な狂人の物言いに理解が追い付かない。




自身の下腹部に鮮血が滴り落ちる。


途方もない激痛に息ができない。




「いやぁぁぁぁぁ!!!」


    「うわぁぁぁぁぁ!!!」


  「逃げろぉぉ!!!」


      「警察に連絡だ!!!!」


 「何だ、あいつ!キチガイか?」


     「救急車を呼べ!!」


「大丈夫か!!」


…………













心配する同級生二人にも、


絶望が襲いかかる。


その刹那、光が二人を包む。






「「間に合わなかったか…」」






先刻の凶刃によって、


下腹部が致命傷に近い状態のそれが、


何事も無かったかのように呟き、


絶望を抑え込む。






「がぁぁあぁぁあぁ、


くそ!くそ!いつもこうだ、


何をしても、何度繰り返しても、


同じ事の連続だ!!!」




「「何故、理解を拒む?


そこから這い上がらなければ、


望む景色を掴めようもなかろう。」」




「何いってるかわかんねぇよ!!


全部全部、


何もかもお前らみたいなのが悪いんじゃねえか!!」




「「自身を省みることもせず、


一方通行であるならば、


それは、破綻し続けるが道理」」






同級生の2人は


何が起きているのか


解らずに唖然と伏している


それもそのはずで


先程までの友人が


光に包まれながら


別人のような口調で


襲いかかって来た人間を


説き伏せようとしているようにしか


見えなかったからだ






「「何故だろうな?


よくよく考え続けていれば、


自ずと見えてくるはずの事を、


しばしば拒絶反応を示し続ける」」




「何をしやがる!


どうなっているんだ?


全く動けない!!


おれは、やらなきゃいけないことがあるんだ!!


ジャマするな!!」




「「ふぅ、今は何も成せないし、


何もさせはしないよ。」」




「がっ!」






それは、本当に現実に起きているのか、


二人には何も分からなかった。














刹那にも永久にも思えるような、


数分の出来事は、


周囲の大人たちが介入して、


少しずつ時間が動き出しているように思う。


何が起きたのか?


自分も周りの皆も把握している者など居よう筈もなかった、


意識の中に突然変異のように、


沸いた別の存在以外は。






―あんたは何者なんだ?―




―その問いは汝と我を識別し得るための問いか?―






突然降って沸いたそれは、


言い回しが難解で意図が読めない。






―そもそもここは何処なんだ?―




―その問いは彼我の存在定義づけたる問いか?






質疑応答すら儘ならないそれは、


のらりくらりと揺蕩い望洋としていて、


窺い知れない何かがあるように思う。






―まあ、いいや。何にしても、


俺たちを助けてくれたみたいだしな。


感謝してる。―




―否、我は何かを成す意思は持ち合わせていない―




―???―




―定まりし事象をなぞるにすぎない―




―まあ、それでも俺達にとっては、


ありがたい事だったからさ、サンキュ!な―








得体の知れない何かは


自分の意識のなかに混在していて、


様として知れないものなのかもしれないが


今はただただ感謝の念を禁じ得ない




依然として満身創痍で


下腹部からの出血は溢れて止まらなく


身体から熱が引いて


命の灯火が刻一刻と小さくなっていくのを


意識が世界から切り離されて逝くのを


ただただ受け入れるしか出来なかった












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