第32話 不死鳥の炎
「それがいい」
*
「ヘーゼル・・・ごめん、僕では君を救うことができなかった」と、数日後、一般病棟に移された、へーゼルの枕元で、ノアがそっと言った。
ヘーゼルは機械につながれて、生命をかろうじて維持していたが、危ない状態に変わりはなかった。
「ごめん、ごめんヘーゼル・・・」と、ノア。
『天使ガデルよ、』と、その時、ノアの背後から声がした。この部屋は個室だ。
「だ、誰・・・??」と、ノアが振り向く。そこには、伝承に伝わる、天使の姿をした女性が立っていた。
「て、天使・・・!?!?」と、ノア。
『我は大天使ミカエル、あなたの前世を知る者』と、ミカエル。
『そう落ち込むでない、ガデル。もうじき、いい知らせが来る』と、ミカエルは言って、微笑んだ。
「?!?!?いい知らせって・・・」と、ノア。
その時、窓をコンコンとノックする音がして、ノアがはっとして窓辺に行った。そこには、小鳥が一話いて、手紙を足に結び付けられていた。
ノアが、窓を開け、その手紙を受け取る。
「ラインハルト兄さんからだ!」と、ノア。
「ついに星のかけらを手に入れたって・・・!!プラトンが、虫取り網で持ってくるって・・・!!」と、ノアが読み上げる。
『・・・ね??』と、ミカエルが微笑む。
『天使ガデル、星のかけらが届いたら、それが光を失わないうちに、レファの心臓の上に置くのです。いいですね?』と、ミカエルが言った。
「は、はい、大天使ミカエル様・・・」と、ノア。
『では、いったん私はこれで、失礼することにしましょう』と言って、ミカエルは姿を消した。
*
三日三晩、プラトンは休むことなく、高速スピードで、星のかけらをモーリシャスめがけて飛んだ。ミカエル様との通信から、どの病院の窓かは、知っていた。不死鳥は、早く飛ぼうと思えば、かなりの速度で飛べるのだ。
やがて、「その日」が来た。夜明けが近い中、薄暗い中、早朝、プラトンはモーリシャスの、へーゼルの入院している病院にたどり着いた。窓枠にうまくとまったプラトンは、窓ガラスを割って中に入ろうか、とさえ思ったが、待機していたナスターシャ、ノア、アルヴィンの姿を見て、ほっとした。残念ながら、3人とも、ヘーゼルの看病に疲れて、部屋の椅子で眠っていたが。
プラトンは、くちばしで虫取り網の柄の部分を加えていたため、鳴き声をあげることができなかった。
そこで、頭突きで窓を叩いた。何度か叩いたところで、中のナスターシャが気づいたようだった。目をこすり、起き上がり、窓枠へ寄ってきてくれた。
ナスターシャがノアを起こす。二人で窓を開けると、プラトンが病室内に入った。
ノアが、その虫取り網の中の、光る球体のようなものを取り出し、大天使ミカエル様に言われた通り、ヘーゼルの心臓の上にそっと置いた。すると、その光ごと、星のかけらはヘーゼルの心臓部にすっととけるように入っていった。
「うまくいったようだ・・・!!」と、ノアが冷や汗をかく。
『マイマスター、ガデル様』と、プラトンがノアに近付いて言った。
「ええと、君は、プラトン!!」と、ノア。
『お力になれて何より・・・私はもう死にますが、また会いましょう』と言って、過労のせいか、病室内で倒れ、炎で包まれたプラトンは、その炎がなくなった瞬間、燃えカスとなっていた。しかし、次の瞬間、再び炎が燃えあがり、中から美しい不死鳥が出て来た。だから「不死」なのだ。何度でも蘇る。
プラトンは、自身の命を顧みず、無茶して飛び続けたらしい。ノアが唖然とする。ファニタがこの場にいたのなら、きっと悲しくて泣いていただろう。
「あら、ノア・・・??」と、病室の枕から声がした。ヘーゼルの声だ。酸素マスクを、自分で取っている。そして、少し起き上がる。
「ヘーゼル!!」と、ノアが声を出した。
「ノア!」と、ヘーゼルが微笑む。心なしか、青白かった顔が、ほんのり明るく見える。
「ヘーゼル、気が付いたのね!よかった!!」と、ナスターシャがヘーゼルに抱き着く。
「ナスターシャ、来てくれてたのね、ありがとう・・・私、車に乗ったところまでは覚えてるんだけど・・・」と、ヘーゼル。
一行はオフェリアを呼びに行って、ヘーゼルが目を覚ましたことを、医者に報告した。
役目を終えたプラトンは、アルヴィンの知恵で、アルヴィンの持ってきた大きなボストンバッグの中に隠れた。
「ありえない・・・」と、飛んでやってきた医者がヘーゼルの心臓の音を、聴診器で聞いて言った。
「正常です。呼吸、脈、ともに安定。よかった、しかし一体何が・・・・?」
一同は、星のかけらのことを話した。
「まさかそんなことがねぇ!だが、今のヘーゼルさんの心臓は正常です、それならよかった!これは奇跡だ!」と、医者が言った。
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