第12話 ミカエル様の話と、不死鳥プラトン
大天使ミカエルがにこりと微笑む。
「ええ、そうです。ところで、ヘーゼル・ケンジットの兄、ラインハルト殿、あなたの妹・ヘーゼルさんは、天使レファの生まれ変わりで、最期の転生の時を迎えているレファの現世での姿です」と、ミカエルが言う。
「天使は、失礼ですが、滅亡した、と聞いておりますが」
「天界大戦争のことですね。いかにも、我々天使軍は、悪神ハデスに寝返った、堕天使軍団と戦い、ほぼ滅びました・・・。ただし、一部の天使たちは、転生して生き延びたのです。それぞれの使命を負って。冥王ハデスを倒すため、その時を待ち続けている天使たちも、この世界アラシュアにはいるのです」
「では、妹・・・ヘーゼルも、その使命のために・・・??」と、ラインハルト。
「いえ、天使レファは、魂(ツイン)の(フ)片割れ(レーム)・天使ガデルと生き延びて幸せになるため、特別に転生が許されたのです。天使ガデルは、天使レファの双子の兄です」と、大天使ミカエル。
「双子・・・」
「その、魂(ツイン)の(フ)片割れ(レーム)・・・と私たち天使は、レファとガデルのことを呼んでいたのですが、天使ガデルとは、この村にいる、ヘーゼルの恋人・ノア・アディントンのことです」
「ノア君が、天使ガデルの生まれ変わりなのですか?ということは、二人は再び出会い、結ばれるために、現世に生まれたのですね?転生・・・して??」と、ラインハルトが頭を必死に整理する。
「私がそうさせました」と、大天使ミカエル。
「というのも、天界大戦争で、天使レファの魂は実は深く傷ついており、転生する力も、もうほとんど残されていないからです。だから、それを知らせるため、ヘーゼルさんは、心臓に疾患を持ってお生まれになったのです」と、ミカエルが静かに言う。
「なら、今すぐ妹とノア君を、・・・転生をやめさせて、ミカエル様のお力で、救ってあげてください!それなら、できるでしょう??」と、ラインハルト。
「それが、できないのです」と、大天使ミカエルが片方の目から涙を流して言った。
「天使レファは、天界大戦争で、弱き下位天使をかばって、魂に深い傷を負った。いくら体に傷を負って血を流し戦い続けても、死なない天使ですら、です。それほど、天使レファは、勇敢に自らの身をかえりみず、戦いました。今の、魂の一部欠けている状態のレファのままでは、天界にあげて救うことすらできません。また、ここ最近、冥王ハデスが、『天使狩り』と呼ばれる、残虐行為をしている、と聞きます」と、ミカエル。
「『天使狩り』・・・・」ラインハルトは、言葉を失う。
「そこで、あなたにお願いが一つあります」と、大天使ミカエルが涙をぬぐい、優しい表情で言った。
「『星のしずく』というこの世の神秘のものを、あなたは知っていますか」と、ミカエルが言った。
「・・・いえ、聞いたことがありません」と、ラインハルト。
「ヘーゼルの心臓の疾患を治す、心臓の代わりになる道具です。つまり、天使レファの欠けた魂を修復してくれる未知の物質でもあります」と、大天使ミカエル。
「なら、それさえ手に入れれば、妹は、ノア君と結ばれ、天界へと行けると・・・!!」と、ラインハルト。
「ええ、そういうことです。・・・ただ、今まで、転生先で、ヘーゼルの親族の魔法使いに、何度も私はこのことを頼んできました。しかし、みな断りました。星のしずくなんて、自分には集めるのは無理だ、と。または、承諾してくれても、途中で失敗し、命を落としました。だから、私は、せめて最期のときぐらい、魂(ツイン)の(フ)片割れ(レーム)・天使ガデルと一緒に過ごせるよう、天使ガデルと天使レファを、同じ村に転生させたのです」と、ミカエル。
「・・・自分にはできます」と、ラインハルトがきっぱりと言った。
「自分にさせてください。自分は妹を、ヘーゼルを愛しています」と、ラインハルト。
「・・・あなたなら、そう言ってくださると、空から見守っていて、思いました、ラインハルト殿」と、大天使ミカエル。
「そこで、あなたに、一つ、力を授けましょう。これが、天使レファと天使ガデルのとっての、ラストチャンスです。彼も、協力してくれるそうです」そう言って、ミカエルは、右手をすっとラインハルトの方に差し出し、「焼殺香木(しょうさつこうぼく)・生きとし生けるものの諸行無常を見守り、永遠(とわ)に蘇りし者、我の前に顕現せよ」と言った。
まばゆい紅い光がミカエルの右手に宿り、そこから、どこともなく、真っ赤な深紅の体を持つ、不死鳥が姿を現した。
ラインハルトが息をのむ。
「不死鳥・プラトンという名前です」と、ミカエルが微笑みながら言った。
「彼ならば、あなたの旅の力となってくれるでしょう。プラトンは、かつて天使レファとガデルが飼っていたペットでもあるのです」と、大天使ミカエル。
「プラトン・・・」と、ラインハルト。
不死鳥が、軽く鳴き声をあげ、ふわりと舞い、ミカエルの右手から、ラインハルトの左肩に飛び移る。
「おっと・・・」と、ラインハルト。
「星のしずくについてです」と、大天使ミカエルが、話題を変えた。
「リラの国のどこかの高原に、流れ星が落ちてできる物質、ということだけ知っています。流星の命が宿っており、それを持ち帰って、ヘーゼルの心臓の代わりにしてほしいのです。彼女の心臓はもう持ちません。星のしずくの在り処については、リラの人たちの方が詳しいでしょう」と、大天使ミカエル。
「『星のしずく』ですね。分かりました」と、ラインハルト。
「そうです」と言って、ミカエルが頷く。
「では、ヘーゼルを、天使レファを、よろしくお願いします」
「ちょっと待ってください!どうして、妹・・・天使レファと、天使ガデルは、魂(ツイン)の(フ)片割れ(レーム)と呼ばれていたんですか?」
「彼女と彼が、双子として生を受けたからです。天使は普通、双子としては生まれません。また、二人はとても仲がいい兄妹で、それもあり、我々は二人をそう呼んでいました」と、大天使ミカエル。
「・・・そうですか・・・」
「では、失礼します、ラインハルト殿。天使レファのこと、よろしく頼みます」と、大天使ミカエルは言って、くるりと向きをかえ、虚空の中へ帰って行った。
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