第4話 コムクドリと、手紙と

「やあ、ヘーゼル、元気そうでよかった!ナスターシャも、学校、順調??」と、ノア。

「ええ、ノア、成績だって、なかなかいいんだから!」と、ナスターシャが笑顔で言う。

「ノアも読まない?女探偵の本!!」

「それ、児童書でしょ。僕、もう11だから、児童書はもう卒業したよ。今は、哲学書を読んでるよ」と、ノアが言った。

「ノアのいじわる」と、ヘーゼル。

「いいわ、ナスターシャ、私たちだけで読みましょ!」と、もうすぐ7歳になるヘーゼル。

「そうね」

「ごめん、ごめん、二人とも!」と、ノアが言って、二人の隣に腰をおろして、バッグから、難しそうな哲学書とやらを取り出した。そして、二人の横でそれを静かに読み始めた。

「女探偵・リンダ・ミランは、木枯らしのごとく颯爽とあらわれ、警察を出し抜いて、事件の被害者を助ける・・・・ちょっと難しいけど、おもしろいね、ナスターシャ!!」と、ヘーゼル。

「そうね、ヘーゼル」と、ナスターシャ。真剣な目つきで、次のページをめくる。

「私、将来は、働ける女性に憧れてるの。誰か、好きな人をみつけて、結婚したいとは思うけれど、女性だって社会進出したっていいべきよ!!私の母も、昔薬剤師として働いていたし!」

「ふうん、ナスターシャってそういうことに興味あるのね」と、ヘーゼル。

 そこで、ナスターシャは、少し黙り込んでしまった。禁句だったかしら、と思った。へーゼルは、長くは生きられないのだ。将来の夢を語るのは、タブーではないか。

「私、将来のことなんて、考えたこと、ないよ」と、ヘーゼルが言った。

 すると、ぽつりと、ノアが、哲学書から目を離さずに言った。

「将来は僕がもらうよ、ヘーゼル」と、ノアが言った。

「ノア、それってどういう意味??」と、ヘーゼルが純粋に言う。

「まだわからないなら、それでいいよ」と言って、ノアがクスッと笑った。


 こうして、時は穏やかに過ぎていった。兄・ラインハルトも、よく3人の輪の中に加わっていた。(もっとも、魔法使いの学校は、普通の学校より宿題が多いので、ラインハルトは、あまり長くは加われなかったが)

 ヘーゼルは9歳、ナスターシャ10歳、ノア13歳になっていた。ノアは中等部に上がっていた。

 ある日、学校で、ノアは、友人から、「手紙を届けてくれる魔法のペット」を親戚からもらった、という話を聞いた。なんでも、魔法で訓練されたコムクドリらしい。伝書鳩のようなものだろうか、とノアは想像した。魔法が珍しい、科学の国・リマノーラでは珍しいものだった。

(それがあれば、昼間家にいるヘーゼルにも、手紙書いて送れるな・・・)と、ノアはふと考えた。

(たまにでいいから、送ってみようか。彼女、喜ぶだろうか・・・)と、ノアは考えた。

「それ、どこで手に入るの」と、ノアは、学校の休み時間中、友人のハンフリーに聞いてみた。

「え??ノア、欲しいの??俺、3羽ももらったから、1羽あげようか?なんなら」と、ハンフリーが言うので、ノアは早速、そのコムクドリを一話、もらったのだった。

「噂じゃ、コマドリの伝書鳩もいるみたいだぜ」と、ハンフリーが言った。

「感謝するよ、ハンフリー。ちょっと、手紙を書きたい人がいてね」と、ノアが言って、学校の窓の外から、外の太陽を見上げた。


「僕の太陽 ヘーゼルへ  ノアより


 やあ、ヘーゼル!今、学校の休憩時間に、取り急ぎ君への手紙を書いています!

 君が、家でひとりぼっちで、淋しがってると思ってね!

 今まであまりいってなかったけど、僕は幼いころから、君しか見えなかった。

 いつか、僕と結婚してほしい。

 このことについては、他の人には、ナイショでね!笑

 君の病状がよくなることを祈ってるよ!

                      君の良き友  ノアより」


「うん、これでいいかな・・・」と、ノアは一人呟き、したためた手紙を丸め、折り、コムクドリの足に括り付けた。

「頼んだよ、コムクドリくん!」と、ノアが言った。

「いいかい、ヘーゼル・ケンジットさんに届けるんだ!ケンジット家にね!」と、ノアが念を押す。

 コムクドリは、頷いたような微妙な表情をして、首をかしげ、そのまま窓から飛び去った。

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