第2話 森の中で

「ヘーゼル、いつも無茶しちゃうのよね」と、ナスターシャ。

「そうだね、ナスターシャ」と、ノアがふふっと笑って言う。

「雨・・・小雨だけど、どうせすぐやむだろうけど・・・ヘーゼルを家に帰すいい口実にはなったかな・・・」と、ノアが呟く。

「ナスターシャ、ヘーゼルのために、森で野イチゴをつんで帰らない?ヘーゼル、きっと喜ぶと思うんだ」と、ノアが言った。

「・・・そうね、ノア、それはいい考えだわ!!」と、ナスターシャが同意して、二人は、持ってきていたバスケットを手に、森の中に入って行った。

 森の中は、森の外より薄暗かった。樹々が生い茂り、曇り空を隠しているからだ。

 しげみを踏みしめつつ、足場の悪いところでは、ノアがナスターシャの手を取る。

「ありがと、ノア」と、ナスターシャ。

「うん」と、ノア。

「ナスターシャも、もうすぐ学校に入学する歳だね」と、ノアがぽつりと言った。

「そうね、ノア!でも、ヘーゼルは・・・」と、ナスターシャが言葉を切った。ヘーゼルは、心臓が弱いため、学校には行かず、家で療養するよう、医者から言われていた。家で、家庭教師をつけろ、との指示だった。

「ヘーゼルも、学校に来れればいいのに・・・」と、ナスターシャが呟く。

「先が短い、ってお医者さんに言われたらしい」と、ノアが淡々と言った。

「え??」ナスターシャは、思いやり深いのと同時に、年の割に落ち着いているところがあった。

「それ、どういう意味??」と、ナスターシャ。

「なんでもない」と、ノアが言って、かたい顔をした。

(ノアは、いつでもヘーゼルのことが、気になるみたい)と、後々になって、ナスターシャは、そう回想した。

 二人は、野イチゴがよく群生しているスポットを知っていたので、そこに歩いて行った。

 森に入って15分ほどして、その場所にたどり着いた。

「よし、取ろう」と、ノアが言った。

「うん、ノア」と、ナスターシャ。

 二人して、バスケットに、つんだ野イチゴを入れていく。

 10分ほどして、かなりの量がとれたので、二人は帰ることにした。

「ナスターシャ、これ、食べてみて」と、ノアが、つんだ野イチゴの一つをナスターシャの口に入れた。

「むごむご・・・ん!!やっぱ、おいしいわね、野生の野イチゴは!!」と、ナスターシャが笑顔になる。

「そうだね!僕も少しもらおう」と、ノア。

 そうして、二人は森を抜け、雨上がりの空を見上げた。虹がうっすらとかかっていた。

「あらあら、二人とも、ヘーゼルにイチゴを!!」と、ヘーゼルの母・オフェリアが顔を輝かせて言った。

「ありがとうね!」と、オフェリア。

「気にしないでください、おばさん」と、ノア。

「ヘーゼルね、今ちょっとベッドで寝てるの。ラインハルトがみてるんだけどね、ちょっと気絶しちゃって・・・」と、母・オフェリア。

「・・・そうですか」と、ナスターシャが言った。ヘーゼルが、走り回りすぎたあと、失神してしまうことは、以前にもたびたびあった。

「激しい運動はダメ、禁止、って、あれほど言ってあるのに」と、オフェリア。

「困った子ねぇ」

「おばさん」と、ノアが言った。

「僕はこれで。失礼します・・・ヘーゼルには、『お大事に』って、言って下さい」そう言って、ノアはその場を立ち去った。

「あれまあ」と、オフェリア。

「ノア君は、とても優しい子ね!ヘーゼルのボーイフレンド。ヘーゼルより4つ年上だったかしらねぇ」と、オフェリア。

「おばさん、私も、失礼します!」と、ナスターシャが言って、ぺこりとおじぎをして、家に帰っていった。

「ラインハルト、ヘーゼルの様子はどう??」と、オフェリアが、二人が帰ったのを確認し、ヘーゼルの寝室のドアをノックした。ラインハルトは、その当時10歳だった。物心もついて、落ち着いていた。魔法学校の成績もいい。その気になれば、首都の優秀な魔法学校にやれるのに・・・と、両親はもどかしがっていた。

 思えば、いとこのハルモニアは、ヘーゼルより歳が一つ上だが、来年から、首都の魔法学校に行くらしい。

「お母さま・・・」と、ラインハルト。

「ヘーゼルは、眠っています」と、ラインハルトが言った。

「そう・・・お医者さんの注射がきいたのかしらねぇ・・・」

「次期に目を覚ますそうです」と、ラインハルトが言った。

「僕が、お医者さんに、お礼を言っておいたよ」と、父が言った。

「ラインハルト、僕が看ておくから、君は自分の部屋で、学校の勉強をしてなさい」と、父が言った。

 

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