第12話 従妹共暮。

藍は少し甘えてくる。

だがまあ、丁度いい刺激になる。

まず、学校の時間割が被る日は一緒に通学をする。

自転車置き場に自転車を一緒に停めて、同じ電車で駅まで行く。


そして帰りの時間が合えば、駅で待ち合わせて一緒に帰る。


俺の帰りが早い日は、何故か迎えにきて欲しいと言われたので、俺は駅まで迎えにきて、藍とともに帰り、夕飯の買い出しをして、男飯でもいいと言うので、料理を作って食べさせる。



唯の持たせてくれたおかずがある日はご馳走で、「櫂!唯ちゃんにお礼言いたい!」と言って唯に電話をさせられて、「唯ちゃん!美味しい!ありがとう!」と藍が言う。

唯も「お粗末さま。学校で習った事を復習してるだけだから、気に入ったのがあったら教えてね」なんて言ってくれる。


掃除はトイレと風呂が藍で、それ以外が俺になる。


藍曰く「風呂とトイレはやられたくない」で、それなのに藍の部屋の掃除機かけは嫌がられない。

洗濯はその時の話し合いで決まるので、揉めることも無い。

下着の取り扱いも祖父の教えからか、「別に布だから」とお互いに言ってしまう。


だがまあ困るのは、風呂上がりにパンイチでリビングをうろついて、ソファの上でお茶を飲んで「くぁ〜っ!」なんて言うやつで、目のやり場に困る。


「別に子供の頃は2人で入った事もあるんだからいいじゃん」


それならトイレも昔はあんなに音も臭いも気にしていなかっただろうに。


だが、風呂上りのパンイチには耐えられずに、唯に「唯、唯は風呂上がりに、パンイチでリビングをうろつかないよな?藍の奴がうろついて困る」と電話すると、唯はクスクスと笑った後で、「なんか単身赴任に出たお母さんが、お父さんから娘の教育で悩んでる報告をされるみたい」なんて言ってくる。


唯は「ガン見してあげたらやめるかもよ?」なんて言ったが、見れる訳がない。



だがガン見作戦はアリかもしれない。


翌日、風呂上がりにパンイチで麦茶を飲む藍に、「藍、唯に聞いたら、見せびらかすならガン見してやれと言われたぞ」と言ってやると、慎ましい胸を突き出してきて、「いいよー。どうぞ」と言われた。


「あ…あぁぅ…、見ない」


赤くなって目をそらす俺に、「勝った」と言って、そのままの姿でソファを陣取り、テレビを見る藍。


勝ち負けじゃない!


唯に[ダメだった]と送ったら笑われたので、母さんに愚痴る事にしたら「ふふふ。藍ちゃんから勝ったって来たわよ]と返信が来る。


ん?


[連絡先交換してるの?]

[ええ、エッチな本とか見つかったら、教えてくれるって言うから交換したわ]


藍ぃぃ…。


なんなんだ一体。



丁度いい刺激だが、こうしてこれまで感じていた、平穏な日々は壊れていった。

リビングにいつまでもいるのがなんとなく憚られるようになり、課題もあるせいで部屋に戻る事も増えてしまう。


だが、俺は藍と学校に通い、藍と帰り、買い物をして、食事を作り、掃除をする。

そして週末には藍を置いて唯の所に行き、唯がくれるお土産を持って家に帰る。


藍はキチンと約束を守って、家には人を招かない。

そして唯のご飯を美味しいと喜んで、俺に即座にメッセージを送らせるか通話をしろと迫る。


なんか妙なリズムができている。


平穏な日々が壊れたと言うか、お客様扱いしていた藍が、身内のようになったの方が正しいだろう。



10月になり、藍の制服が冬服になる頃、帰り道で偶然高嶺麗華に会う。

そう言えば、藍が来た頃から山本に会う頻度が減った気がしていた。


藍と「今晩何作る?」、「寒くなってきたからお鍋買おうよ。それでお鍋作って」と話していると、高嶺が「関原くん…だよね?」と声をかけてきた。


藍が小さく「うわ、美人」と呟く中、「うん。久しぶり」と返すと、「久しぶり。春から見かけたけど、帰ってきたの?」と聞いてきた高嶺は、藍を見て「彼女さん?前に一緒にいた子とば違うよね?」と聞いてきた。


やはり見られていたかと思いながら、「うん。この子はいとこだよ」と答えて、藍を促すと「はじめまして藍です」と挨拶をする。


人生でこんなに話したか?というくらい、高嶺麗華と話してしまった。

会話の内容は主に戻ってきた理由と、藍と2人で住んでいる事について。


藍はそれとなく話して、スーパーマーケットで高嶺と別れたが、高嶺は白城のように両親がこの街で完結してしまっているので、街を出るに出られず、一人暮らしも認められていないから苦労すると漏らしていた事が印象的だった。

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