クラス転移で強スキルもらったけど、絶対に踏み台フラグなので努力します
笹団子β
第0話 プロローグ
「よくぞ参った、異世界の勇者たちよ」
絢爛豪華な大広間。華美な装飾が施された空間。ひげを蓄え、冠をかぶった老人が話しかけてきた。
ここはどこだ。さっきまで、いつも通り学校の教室にいたはず。休み時間を友人と過ごしていたはず。戸惑う理性とは裏腹に、頭のどこかでこの異様な状況を理解できている自分がいた。
「突然の召喚となってしまい、申し訳ない。しかしこれも、我が世界の危機を思えば仕方のないこと」
唐突に視界を奪ったまばゆい光。足元に広がる幾何学模様。何より、窓の外にちらりと見えた飛行生物。地球ではドラゴンと呼ばれていた、爬虫類のような架空の生物。
夢ではないかという考えを、現実としか思えないような質感が否定する。ここは現実であり、視界に広がる光景は紛れもない事実なのだと。
「このままでは、我ら人類は悪しき賊に滅ぼされてしまう」
大規模なドッキリ、何かの企画、地球上のどこか遠い外国。様々な可能性が、否、希望的観測が脳裏によぎるが、なぜか冷静に働いている理性が全て否定していく。
……いや、まぁね? こーいうのが起こらないかなって、妄想したことはあるよ? そりゃこちとら年頃の学生ですもの。俺TUEEEに憧れたりもしますし、そういう作品も色々と読んできましたよ。えぇ。
でもさ、本当に起こるなんて思わないじゃん? あくまであれは空想で妄想で、創作上のお話じゃん。心の準備ができてないって。
そもそも現実世界のこと、どうすんだよ。こっちの世界にいる間、向こうの時間って進み続けているわけ? 進んでいたら大惨事だし、進んでなくてもそれはそれで問題だろ。
頭の中でひとしきり喚いた後、なんとかこの現実を受け入れる。
「勇者らよ。どうか魔王を打ち倒し、この世界を救ってくれ」
異世界転移だな、これ!!
*****
クラシックなメイドさんに案内されて、割り当てられた部屋に通される。
長い間立ちっぱなしで疲れた膝を折り、ベッドに身体を投げ出した。マットレスのような寝心地は期待していなかったが、中々どうして、ふかふかな感触が俺の体を受け止めてくれた。
「……いやー。まさか、
「えぇ、正直まだ現実感がありませんぞ」
「安心しろ、俺もだ」
「コースケ氏にそう言ってもらえるとありがたいですな」
俺、
ふくよかな体、たっぷりと蓄えられた二重顎。しかし、あまり不潔さは感じられない独特な容姿。糸目を柔和に緩ませながらこちらを呼ぶさまは、まさにゆるキャラのよう。俺と同じオタクなのにもかかわらず、その容姿と温和な性格によって交友関係の広いこいつは、
「俺もヒロミが同室でよかったわ。知らん場所に来て仲良くないやつと同室は、流石に勘弁だ」
「それは拙者のセリフでござる。こんな状況ですし、自室でくらいは気を抜いてゆっくりしたいですぞ」
あの後、突然の事態に、俺やヒロミ含めクラスメイト達は騒然としていたものの、時間が立てばそれも落ち着いた。というか、委員長が一喝して、いや何喝かして落ち着かせた。いつもありがとうございます。いや、ほんと。
「そういえば、ひげのおっさんが……」
「王様ですな。オーラス国第57代目国王のアレクサンドル皇」
「そうそう、その王様がなんか色々と言ってたじゃん。正直俺、放心気味で碌に聞いてなかったんだけど」
「まったく、ああいう話はちゃんと聞いておくべきと古事記にも」
「いやー、俺世界観設定とか読み飛ばしがちな方なんだよな」
「限度がありますぞ、あとこれ創作物じゃなくて現実」
「あと、あの王様の話し方、校長先生みたいで全然聞く気になれん」
「それは禿同」
ヒロミが呆れたような表情をしながら、王様の話を要約して教えてくれた。ほんとありがとう。ベストフレンドフォーエバー。
この世界の危機っていうのを簡潔に述べると、大昔に封印した魔王とかいうバケモンが復活しかけているらしい。
なんでも、昔の英雄様たちが魔王の討伐に向かったんだけど、結局倒せなくて。妥協案として封印を施したらしい。それも、大陸全土を使ったような超大規模な封印を。
で、それから数百年、下手すれば千年もの間、封印がほころぶような事態はなくて、魔王を完璧に封じれていたそうだ。
封印が緩み始めたのが数年前。最初は観測ミスか、少し封印が揺らいだだけだと思われていたそうなんだが、念のため調べると大陸各地の封印が少し欠けていたんだそうな。
僅かに緩んでしまった封印では魔王とか言う化け物は完璧には抑えられないようで、徐々に封印が壊されつつあると。
さらには、魔王の力が漏れているせいで大陸中の
「で、そんな悪化している現状をどうにかしようと、臨時戦力として拙者たちを召喚したようです。現状の回復と封印の再施工ができたら、日本に帰してくれるとのこと。こんなところですかな」
「オッケー、助かった」
「良いってことですぞ」
うーん、なんともコテコテな設定だ。なろう系俺TUEEEものかな? 十回くらい聞いたことあるぞこんな世界観。
「いかにもお約束な設定だな。勇者とか聖女とか、そういうの出てきそう。うちのクラスでなるとしたら、イケメンの桐谷とかか?」
「はぁ、これは現実ですぞ? お約束があるわけねーですぞ」
「分かってる分かってる、言ってみただけだって」
「本当はわかってなさそうですぞ」
シュンに窘められながらも、俺はどうしてもそういった妄想を止められなかった。
(……そもそも、異世界転移なんて事態が非現実的なんだ。現実的に考えすぎると、気が滅入っちまう)
元の世界のことや命の奪い合い、こちらの世界での生活、そもそも元の世界に帰れるのか。考え込むとネガティブなことばかりが頭をめぐる。
ならばいっそ、お気楽な妄想で頭を満たしていた方がマシというものだ。
「そういえばメイドさんいたな、メイドさん!」
「うむ、美人さんばかりでしたな」
「やっぱいいよな~、メイドさんって。男のロマンだぜ」
「しかしコースケ氏、そう言いつつメイド喫茶にはビビって行かなかったではないですか」
「うっせ。こちとら女性に対する免疫ゼロなんだぞ」
「コミュ障乙、ですな」
まぁ、こうやってバカ話ができる友人が近くにいるんだし、何とかなるか。
「にしても、なんでロングスカートなんだ? せっかくならミニスカが良かったぜ」
「分かってないなぁコースケ氏は。メイドさんと言えば、落ち着いたクラシックが至高に決まってますぞ」
「んだとヒロミ。男なら、ムチムチの太ももがチラチラ見えるミニスカこそを望むべきだろ」
「はー!? これだから性欲魔人の下半身脳みそ直結高校生は!」
「てめぇこそ、保健体育満点のムッツリ変態野郎じゃねーか!」
「拙者は博識で勤勉なだけですー!」
「うるせー! 男の清楚系なんざ需要ねぇんだよ!」
「なにをー!!」
前言撤回! こいつとは、ここで決着をつけねえとなぁ!!
ーーーーー
「ヤグラ様、ササヤマ様。【恩恵】識別の儀、準備が整いました。大広間までお越しください」
ヒロミとメイド服論争を繰り広げていると、黒髪ロングのメイドさんが俺たちを呼びにやってきた。服装は、……くっそやっぱりロングスカートかよ!
澄まし顔の美人さんにこそ、コッテコテのミニスカが似合うんじゃねえか。わかってねぇなぁ!
横でこっそりガッツポーズをしていたヒロミと共に、メイドさんの後についていく。
「……なぁ、【恩恵】って何?」
「コースケ氏、本当に話を聞いてなかったんですな。あれですぞ、ただの高校生だった僕らが戦えるようになるために、神様から授けられた力みたいな」
「あー、あれね。異世界転移俺TUEEE用のチートスキルね」
「……まぁ、うん。その認識で良さそうですな。そんな俗な言い方はどうかとも思いますが」
ヒロミに聞きなれない単語、【恩恵】について説明してもらいながら歩くこと、どーだろ、おそらく十分くらい?
メイドさんの案内によって、最初に召喚された場所、絢爛豪華な大広間へとたどり着いた。
既にその、【恩恵】識別の儀は始まっているみたいで、先に着いた他のクラスメイトたちは謎の馬鹿でかい水晶玉に手を置いていた。
「あれに触れれば、チートスキルの詳細がわかる感じね」
「! ちーとすきる、とやらはわかりませんが、その通りでございます。ヤグラ様とシノノメ様も、列にお並びください」
「承知いたしました!」
好みのお姉さん相手に元気に返事をしたヒロミと一緒に、クラスメイトたちの後ろに並ぶ。
クラスメイトたちの様子を見ると。まだあまり現実を受け入れられていないやつ、時間が経って落ち着いたやつ、仲のいい面子で固まっているやつ、などなど様々だ。
ただ何というか、俺たちを含め、皆思ったよりも落ち着いている。高校生がこんな状況に巻き込まれたら、もう少し慌てふためいて、泣き喚いて、騒ぎが起きて。そんな風になるかと思っていた。皆、想像よりもずっと冷静で、大人しい。
「次の方。手を識晶へ」
「む、拙者の番ですな。行ってきますぞ」
「おー、行ってら~」
俺の前にいたヒロミが呼ばれ、馬鹿でかい水晶へと近づいていく。
にしてもあれ、識晶っていうのか。なんだろ、識別水晶の略、とかなのか? そもそも、どうやって【恩恵】なんて高尚なものを測るんだろうな。水晶に手を翳すだけで分かるとか、一体どんな仕組みしてんだろ。
「次の方。手を識晶へ」
「あ、はい」
そんなことを考えていると、すぐに自分の番が来た。目の前にデカデカと鎮座する水晶玉、識晶とやらに手をかざす。
法衣のような、にしてはやや華美な、衣服に身を包んだおっさんたちからの視線が突き刺さる。聖職者、なのだろうか?
まぁ、この【恩恵】は神様が与えた力らしいし、その識別に聖職者が立ち会うってのもわからん話ではないか。
そんなことを思いながら水晶玉に手をかざした瞬間、……
(ぅ、おおっ……!?)
全身を何かが駆け巡る感覚。身体中を隈なく探られているような、言うなれば全身をスキャンされているような、奇妙な感覚を受ける。
微かな感覚だったため、声を出すほどではなかったが……。
(なんだ、今の……?)
突然発生した違和感に戸惑うものの、目の前に現れた文字列に目を取られる。
「え、と、……【剣聖】?」
「おぉ! 戦闘系の恩恵、それも
「ぁー、す、すごいんですか?」
「凄いなどというものではありませんぞ! 脈々と続く王国史でも十人しかいない、剣使いの最高峰たる恩恵なのです!」
「は、はは。ども……」
「流石は別世界からの来訪者! あなたには期待していますぞ!」
何が来訪者じゃ、お前らが勝手に呼び出したんじゃねーか!
内心そんなことを思いつつ、引き攣った愛想笑いを浮かべながらそそくさとその場を去る。あの大人たちの、品定めをするような粘ついた視線に晒され続けるのは、どうにも気分が良くなかった。
……にしても、剣聖、剣聖ねぇ。いかにもなチートスキルだな。
名称と、あのおっさんの話からして、剣を使って戦うのがめちゃくちゃ上手くなる、みたいな感じかな。体育の剣道、というのも烏滸がましい棒振りくらいしか経験のない俺でも、超スピードチャンバラができるのかもしれない。
うん、悪くない。というか、良いな。
男子っていうのは高校生になっても、剣やら刀やらが大好きな生き物なのだ。奥義とか秘伝とか、そういう技をぶん回してみたい生き物なのだ。中二病をこじらせていた時期に、やれ天然理心流だの、やれ北辰一刀流だの、やれ神道無念流だの、ネットで浅い剣術知識を漁りまくっていた俺としては、大変うれしい類のチートである。
ただ、なんというか、嫌な予感がする。何か見落としているような、それこそ特大のお約束を忘れているような……
「な、なにぃ!? 貴様、恩恵が【薬剤師】じゃと!?」
「は、はい。そう、ですけど……」
あ。
「この【薬剤師】という恩恵は、非戦闘系の中でもパッとしない、マイナーな恩恵なのじゃ!」
「そう、なんですか……」
あ、あぁっ……!
「この王都を探せば、十人や二十人は【薬剤師】持ちが見つかる、凡庸な恩恵なのじゃ!」
「…………」
あばばばばばっ……!
そうじゃん、そうじゃねーか!
クラス転移物のお約束! 王道中の王道! 鉄板中の鉄板! 胃もたれするほど読んできたはずなのに、どーして今の今まで忘れてたんだ!
「残念じゃが、貴様を来訪者の一人として認めることはできん。追放させてもらう!」
「そ、そんな……!」
最弱追放覚醒復讐ザマァ系ハーレム物は、鉄板じゃねえか!!!!!
てことはなんだ!? 後ろにいた奴が元最弱系チート主人公で!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます