13th sg 名探偵の心臓

 その日の放課後、僕は職員室で軽く説教を受けて帰宅した。

 せっかくの華金だけどしょうがない。沖縄行ったんだし、結局午後から学校行ったものの殆ど寝たし……。


「ふわぁ……まだ半日分くらい寝られそうだな」


 僕の家は学校から徒歩で15分くらいの住宅街にある。

 だが今日はちょっとした用事で電車にのって中心部へ行かなければならない。

 駅のホームに行くと、スマホを見ながら電車を待つ沙那がいた。


 話しかけようにも、週刊誌のせいで外ではあまり関わらないようにと沙那と決めたので話しかけられない。

 会いたい気持ちを抑えていると、視界に怪しげなおじさんを見つけた。

 スマホを見ているだけにも見えるが、その角度があまりにも盗撮しているように見える。


 そーっと近づいてみるとやはり、カメラを起動していた。

 カメラの先には沙那がいる。

 ――間違いない。


 沙那には話しかけられずとも、沙那を救うことくらいは許されるだろう。


「……あの、それ盗撮ですよね? やめた方が良いと思いますよ」

 後ろから僕が言うとおじさんは驚いてスマホを地面に落とした。


「な、なんだ君は。盗撮なんてしてるわけないだろ! 第一そんな証拠がどこにあるんだ、全く最近の若いのは失礼な奴ばっかりだな!」

 そう言っておじさんはホームを去ろうとする。


「ちょっと、どこへ行くんですか? 証拠ならありますよ、ここに。それに、電車に乗らなきゃいけないからホームにいたんじゃないんですか? ああそれとも、自首するつもりでした?」


 証拠、と言っておじさんが盗撮しているのを隠し撮りしたスマホの動画をピラピラと見せびらかす。それも、精いっぱいの煽りを込めて。


 威勢よくかじりついたのは良いものの、周囲の視線が多すぎて緊張と羞恥から顔が紅潮するのを感じた。

 もちろん、その視線の中には沙那もいて、それはそれは驚いた顔をしている。

 僕がここまで目立つような行為をするようなタイプじゃないのを知っているからできる反応、とでも言えるだろうか。


「君が撮ったそれだって、盗撮だろ!」

「はい、そうですね。ただし、これは犯罪行為を証拠として記録するための『隠し撮り』ですけどね」

「君と私でやっていることは同じじゃないか! ふざけるのも大概にしないと警察呼ぶぞ!」

「まあ、そんな怒らないで。それに、今と仰いましたね? それは自白なのではないですか? そこにいる温泉川沙那さんを盗撮をしていたという」


 おじさんは墓穴を掘った、というような顔をしながらその顔を真っ赤にしてホームを駆けて逃げようとしたが、階段の手前で駅員に捕まって連れていかれた。


 ふと気が付けば、ホームでは拍手が起こっていた。

 その全てが僕に向けられたものだと分かると、恥ずかしさが頂点に達して僕も逃げ出したくなる。

 慣れないことをした分、その後の代償が物凄く大きい。

 俯いていると、コツコツと僕に近づいてくる足音が聞こえた。


「……ありがとう、助けてくれて。颯太、どこかの名探偵みたいだったわ。私も盗撮されてるのは気付いてたんだけど、中々話しかけられないじゃない? ああいうのって。だから、助かったわ」


 足音の正体は沙那だったらしい。

 名探偵だなんて大げさなことまで言われた。


「全然、大したことはしてないですよ。気付いたら体が動いていたっていうか……」

「それが凄いことなのよ。ちょうど良かったわ、後で連絡しようと思ってたから。明日土曜日だし私今復帰まで暇だから遊びに行かないかしら? もちろん、二人でもいいし友人を呼んでもいいわよ」


 突然沙那の口から出たのはそんな言葉だった。


「え⁉ それってつまり……沙那さんとデートができると…………」

「ま、二人で行くならそういうことになるわね」

「ち、ちなみにどこへ行くつもりで…………」


 念のため行き先は聞いておくことにする。

 沖縄の時みたいに行き先を知らされずに急に飛行機に……とかは流石にもう勘弁してほしい。


「私ディ〇ニーとか行ったことないのよね。元々バラエティー番組のお仕事も殆ど無かったからお仕事でも行ったことないし。だから、ディ〇ニー行きたいなって」

「……なるほど」


 いや、流石に初めて……ではないけど二人だけで出かけて最初がディ〇ニーはハードル高くないか?

 沖縄はめっちゃ楽しい!わーい!みたいな雰囲気じゃなかったから大丈夫だったけど、ディ〇ニーはもうもろデートだ。

 ましてや週刊誌の件だってほとぼりが冷めきってるわけじゃないんだし、もしもそこで二人でいるのがバレたら熱愛が再加熱するのは間違いないし、何よりも鈴鹿さんの雷が怖い…………。

 せっかく、マネージャー見習いになれそうなのに今ここでトラブルを起こしたら沙那の復帰も僕の将来も危うい。

 ここは慎重にいかねば………そしたら優希と荘真も呼ぶか。そうしたら高校生4人が仲良く遊んでるだけに見えるんじゃないか⁉ しかもディ〇ニーに丸一日二人きりは僕の心臓がもたない。

 ――うん、我ながら名案だ。


「あの、沙那さん。色々考えたんですけど、ディ〇ニーで丸一日沙那さんと二人きりは僕の心臓が持たないです。それと、何かあったときのリスクが高すぎると思うんです。沙那さんはこれから芸能界復帰が待ってるんです。せっかく週刊誌のほとぼりも少しずつ冷めてきているんですから、二人はやめておきましょう」


「………そう」


 沙那はなんだか寂しそうにシュンとしていた

 そんな顔をするのはやめてくれ、心が物凄く痛むから。


「僕に案があります。僕の友人に優希と荘真がいます。優希はこの前話した僕と同じ沙那さんのファンで荘真は優希のことが好きな僕の親友です。その二人を連れて行けば上手くカモフラージュできるんじゃないですかね……沙那さんは初対面ですけど、あの二人ならすぐ打ち解けられると思いますよ」

「…………颯太がそこまで言うなら大丈夫そうね。じゃあ明日の午前10時に舞浜集合ね。その二人にも伝えておいてくれると助かるわ」

「はい、分かりました。じゃあ気を付けて!」


 ちょうどそこに来た電車に沙那は乗って行った。

 僕にも用事はあったものの今すぐじゃなくていいので今度にすることにした。

 気付けばおよそ4本分の電車が通り過ぎていたことを知った。

 沙那にも沙那の用事があっただろうに話を長引かせてしまって申し訳ない。

 それはそうと、明日はディ〇ニーか。

 僕も初めてなんだよな、楽しみだ。

 後で優希と荘真にも連絡しないと。


 ◇◆ Case 優希 ◆◇

「…………ということだ。だから明日朝10時に舞浜集合な」

「……………え? ご、ごめんちょっと理解ができなかったんだけどもう一度言ってもらえる?」


 家に帰ったらまだ優希がいたので直接さっきの話を伝えるとずっとこの調子。

 今ので説明するのは4回目だ。


「だーかーら! 明日僕と沙那さんと優希と荘真でディ〇ニー行こうって話だ!」

「え……てことは沙那ちゃんを生で見れちゃうってこと⁉⁉ まさか、そんなことがあっていいの⁉」

「そのまさかだ。しかもオフだから私服見れるぞ」


 まあ、僕は初めて公園で会ったときも沖縄に行ったときも見てるんだけどね。


「………ごくり」


 ――優希、それ口に発して言う人いないぞ


「荘真に関しては男女2:2の方が良いっていうのもあるし、単純に優希がいるから呼ぶ。優希も大丈夫だよな?」

「後者の理由に関してはあんまり腑に落ちないけど、全然大丈夫だよ! 人は多い方が楽しいしね!」

「じゃ、そういうことで」


 ◇◆ Case 荘真 ◆◇

「もしもし…………………ということだ。だから明日朝10時に舞浜集合な」

「……それ、俺行っていいのか? 温泉川さんに関してはよく分からないけど、優希さんお前のこと好きだろ?」

「え? 優希が? ははっ無い無い、優希に限ってそんなことあるわけないだろ。荘真振られ続けてついに変な疑念抱きだしたんじゃないのか?」


 まさか、そんなことあるわけない。そんなそぶりを見たことないし、僕たちは昔から男友達同士に見たいに接してきたからな。


「……そうか、それならいいんだけど」

「それに荘真、優希は来るって言ってるんだ。明日来れば荘真は優希の私服を見れるんだぞ? 興味深いとは思わないか?」


 もちろん、僕は何度も見たことがある。それも飽きるほど。


「………ごくり」


 お前もかい

 ――ごめん優希、身近にいたわ。


 やっぱり二人はお似合いだと思うんだよな。僕としてはこの二人にくっついてほしいのだが……


「ま、まあ? 優希さんの私服を切り札として出してくるくらい颯太がそこまで来て欲しいって言うなら仕方がない。俺も行ってあげよう」


 絶対優希の私服で釣られたな、この男


「じゃあまあ、そういうことだ。遅刻したら何か一個奢りな」

「はっ、分かったよ。お前もな」


 それだけ言うと通話の終わった音がして部屋に静寂が流れ始める。

 沙那とテーマパークに行くのは楽しみだし、荘真とも初めてだ。

 優希とも久しぶりに遊べそうだし、何事もなければ良いんだけど――




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