第5話 ドアサ! キモさの聖地へ!

「今晩も、バトル起きるけど、どうする?」

「うわっ、神様!?」


 朝、トイレで座っていたら突然神様から話しかけられた。


「ちょっ、なんで、今なんですか」

「喜ぶかと思って」


 神様……アガペーがエグいですて。

 俺の性癖を考慮して、脱糞中に話しかけてくれるなんて……

 まさに人間離れした辱め方ですよ。ありがたいですね~。

 トイレットペーパーを巻く間もそれは止まらない。


「今日は土曜日だろ。学校も無いし。先生に罵倒されることは難しいぞ~」

「確かに……」

「どうやってMPを貯めるのか、考えないと」

「そうですよね」


 昨日からブタキャラになった俺。

 寝る前に襲ってくる敵と戦うため、日中にMPを貯めなければならない。

 MPを貯めるには、罵倒されるなり、叩かれるなり。人間の悪意を受けなければならない宿命です。

 学校がない状況では難易度が高いのは間違いない。普通に生きてて理不尽にされるるほど、日本の治安は終わっていない。くそっ、もっとヤバい国ならよかったのに!


「どうすれば……」

「どうする~?」


 トイレを出た俺は、手を洗うついでに顔を洗い、顔を拭いてから歯を磨き始める。

 鏡に神様が映る。俺の隣。にこにこフェイス。

 おいおい、背後霊にしちゃあ、可愛すぎやしねえか~!?


「ねえ、今日、どうする、どうする~? どこいく~?」


 ちょっと、神様。

 そんな彼女みたいなノリされたら照れちゃいますよ。ただでさえ、俺の好みのどストレートなんだから。

 どこ行きましょうかね?

 口を濯いで、鏡を見ると、神様が小首を傾げ。


「フリーフォールにする? バンジージャンプにする? それともスカイダイビングにする?」

「なんで高所から落ちるところ限定なんですか!?」


 やだよ。怖い。なんでですか?


「ビビったら、めちゃくちゃ馬鹿にしてあげるけど」

「なるほどー!」


 そういうことかー。

 神様は世界一メスガキが似合いますからね。馬鹿にしてもらえるなら何だって出来るぜ!

 飛び降りちゃおっかなー。なんなら普通にビルから飛び降りようかなー。


「ま、それじゃMPにはならないけどね」

「そうですよねー」


 神様に罵られても駄目なのよ。人間の悪い感情がMPに変わるからね。

 とはいえ、これはヒントということだな。

 生きてるだけでは他人は罵倒してくれない。情けないとか、醜態を晒す必要があるんだな。

 どうしたものか。

 顔を洗い、タオルで顔を拭き終えると、鏡の中の美少女がぴ、と人差し指を立てた。かわよ。

 

「まず服を買いに行くのがいいかもな」

「服ですか?」

「ああ。ショッピングに行こう」


 え~? ほんとにデートみたいじゃん。

 デートに行く服がないから、最初のデートが服買うって。

 神様って……ほんと俺を翻弄するよね。

 つっても、俺普通に服は持ってますけどね。


「普通じゃイジられないだろバカタレ」

「ありがとうございます!」


 馬鹿でしたねー。

 ほんと俺って馬鹿。

 考えてみれば、俺がモブだからイジられなかったって、そういうことなんだよな。

 普通の服を着て、普通に生きてたからじゃん。

 なぜキモくなるための努力をしなかったんだ……。

 学力、スポーツ、おしゃれ。そういうモテる要素のステータスを上げるのは難しいかもしれないよ。

 下げるのはそれほど難しくないだろ!

 何やってたんだ俺は!

 まずは見た目からキモくしていこう!


「神様、キモい服売ってる場所はどこですかね」

「そんな店ないだろ」


 確かに……。

 そんな店潰れるよな……。

 キモくなるのも簡単じゃないんだ。モブとはなんと怠惰な生き方だったのか。


「服自体がキモいとかじゃなくて、着こなしなんだよ」

「おしゃれと同じじゃないですか!」


 なんだよー!

 センス悪いのもセンスってことかよ!

 難しいなあ!


「まあ、安い古着屋でいろいろ買ってみなよ」

「優しい……」


 神様……好き……


「心の中で好きになるな、気持ち悪い」


 そういうところも好き……嬉しい……好きな人に気持ち悪いと言われるなんて、幸せにも程がある。

 しかし、どこに買いに行けばいいんだろう。


「神様、お店はどこですかね」

「ググレカス」

「えっ」

「神様はSiriとかGeminiとかじゃないんだぞ」


 神様……

 拗ねるとかあるんだ。カワイー!

 じゃ、コパイロットで調べよっと。


「スマホなのに!?」


 頭の中でボケても神様のツッコミが入るようになってしまったぞ。

 幸せすぎるなあ?

 AIが言うには、キモい男が集まっている場所にキモい服はある。すなわりアキバですよと。なるほどな。うちからアキバは電車で1時間くらい。


「んー。じゃあ秋葉原に行きますか」

「いいんじゃないか」

 

 神様が実体化して一緒に行ってくれたらいいのにな。


「秋葉原中が恋しちゃうだろ」

「確かに!」


 全アキバ男子が好きなルックスですからね!

 神様が「おにいちゃーん」って叫んだら、1万人が振り返るだろうな。

 え? それって俺もキモいってこと?

 よしよし、素質はあるってことか。目指そう、キモさの頂点を!


「じゃ、行ってらっしゃい」

「え!? なんでそんな妻みたいな反応を!?」

「誰が妻だ、キモいな」

「ありがてー」


 結婚したら毎朝「キモイ」とか言われるのかな。いいなー。

 じゃ、でっぱーつ!

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