第40話 未来への手掛かり

〜女湯〜

「おい、しっぽ。男湯にホンモノのユキグモ混ざってるだろ」

「!?」

関係者しか知らない秘密を指摘され、動揺して振り向く。


そこには目の覚めるような美人のお姉様。

猫耳が付いている。ああ、獣人アバターか。

言葉遣いの割に所作が洗練されていて見惚れてしまう。


「ユキグモ研究の第一人者が森のテクスチャとユキグモのアバターばら撒いたら、誰だってそう思うだろ」

お姉様は笑った。

ああ、知り合いなんだ。こんな素敵な人と。いいなぁ。


「ちょっとだけ真面目な話をする。位相シフトって言ったろ。塔の翻訳機は音域調整で音の波に干渉する。世界の在り方を波と見た時に、おそらく塔の翻訳機が干渉して誤差を引き起こし、こちらの世界と共振する点ができて、そこからシフトした可能性がある。」

え!何?いきなり難しい話が始まった。


「で、塔の出現とオマエの出現のズレから見るに、時間軸の流れの差で交点が複数ある可能性が高い。あの機械を動かし続ければ同様の事象が再発することもありうる。」

うん、ちょっと難しい…。何と答えたら良いんだろう。


「理解できなくても良い、つまりは帰れる可能性があるから演算してみろ、って話。まあ、お礼だな。あの技術は翻訳魔法に革命をもたらした。おかげでアタシも大分恩恵を受けた。人生何が起こるかわからないけど、悪いことばかりじゃないさ。強く生きろよ、可愛い子猫ちゃん」

お姉様は笑って去って行った。


やばい、子猫ちゃんだって!やばい、難しい話全部吹っ飛んだ。

あんな綺麗なお姉様にそんなこと言われたら、知らない扉が開いちゃいそう。

お風呂出なきゃ…。違う意味でのぼせそう…。


〜男湯〜

「すっげー!まじユキグモみたいだった!」

「俺もやる!」

ゆきちゃんが何かしたらしい。そりゃあガチユキグモだからね。

動物アバターの子供達?に人気者の輪ができている。バレる前に撤収かな?


「何してるの?人気者だね」

「よう!これをこうして、こうすると、ユキグモっぽいって話!」

ゆきちゃんはタオルで空気を包んで沈め、プププっと泡を出し、そこに脚を乗せた。

何となく衝撃波が出ているように見える。 


「すごいね、でも浴槽にタオルは入れちゃダメだよ。のぼせないうちに出よう」

「おう!じゃーまたな!練習はこっそりな!」

僕もやってみたくなったけどグッと我慢したのは内緒です。


温泉から上がってフルーツ牛乳を飲む。もちろん二人にもおごりだ。

「こういうのを様式美って言うんだよ」

「おっ、意外とイケる!」

「そういえば、さっきすごく綺麗な人と会ったよ。よろしく言ってた。」


「え、ちょっと鑑定させて。…お嬢さん、魅了(弱)になってます」

「はわー。納得の美人さんだった。難しい話してたから、帰ったら相談するね。」

「まず魅了解除しよっか」

「え、ヤダ、今幸せだから解かないで」


温泉イベントは良かった。二人ともゆっくり羽を伸ばせたようだ。羽ないけど。

この時僕はまだ、みーちゃんが帰れるかどうかを他人事のように思っていた。


第4章 完

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スライムに名前を付けたらペンション買わされた件(旧題:風呂入れって言われてももう眠い!リストラされた魔導士は塔に篭って実験動物達とハーレムする 白火取 @shirohitori

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