19.止まれない

 龍造寺はその体格を生かし、驚くべき怪力で鉄の机を持ち上げ片手で振り回す。


 これほどの膂力とは、コイツは人間か?目の前の現実が信じられない。体に重圧のようなものを感じて空気が一瞬で変わる。


 その殺気に気圧され身震いした。


「かかってこい小童」


「いくわよ、小田」


 龍造寺の圧に物怖じせず、立花のその一言。


 怖くはないのか?俺の背中を押すこの女、相手は君主だというのにスゲーな。後ろには那須たちがいる、逃げられない戦いだ。


「おう」


 俺は、龍造寺の正面を駆けるが、そこへ机の横薙ぎの一撃が迫る。これを食らえば一発退場だ、どう躱す?やっぱ正面からだな。


 気合いを入れて机を受け止めようとしたが、あまりの力の差で壁まで吹き飛ばされる。


 こんなのどうやって勝てばいいんだ?後ろを振り返ると那須たちは、必死に化物女に食らいつこうとしていた。


 やっぱ馬鹿だな俺、自分の保身考えてた。傷だらけになりながら仲間が戦っている。俺は弱い、だから今超えるんだ。


 再び迫る横薙ぎの一撃、受け止めるんじゃない。力の方向を変えるんだ。タイミングを合わせて、下から掬い上げるように机を蹴り上げた。


「やるじゃない小田」


 机は軌道を逸れて空振りする。立花はそれと同時に龍造寺の鼻を殴り付けた。


「勝つのは俺たちだ」


「舐めるなよ小童ども」


 鼻から血を出しながら、龍造寺は怒声を上げる。鼻が曲がっているのを強引に直し。その巨体からは考えられない速度で迫り、立花の顔を殴る。


 髪を押さえつけて再び殴る。殴られても声一つ上げず、ハイキックで龍造寺の顎を蹴り飛ばす。


 それでも龍造寺は、立花から手を離さない。俺は、助走して壁を蹴り高く飛んだ。


「その手を離せ」


 落下しながら全体重を右足に込めて、一気に振り落とした。龍造寺の頭に直撃したそれは脳を揺らす。ボーッと虚空を眺め、龍造寺はバタリと倒れた。


 勝ったのか?


 いつもなら小田様、やりましたね。と那須の声が響くはず。


 しかし振り返れば、那須や大内に小笠は、傷だらけで倒れていた。


 立花の仲間たちも同様だ。


「私は全員殺してここで死ぬ。何もなかったように」


「お前ーっ」


 立花は、怒りに任せて歩き巫女を殴り付けた。何度も何度も。しかし何度殴っても、意に介さない様子の歩き巫女。


「綺麗な肌だね」


 スパッと立花の腹部を刃物が切り裂き、腕に突き刺ささる。


 立花の痛みに耐える苦悶の表情がある。


「羨ましい、死ね」


「お前さ、そのくらいにしてくんね?」


「許さない」


「わかるよ。お前、怒ってるんだよな。どうしようもなくて辛いんだろ」


「死ね」


「悪いがまだ死ねないんだ」


 歩き巫女は、俺にターゲットを変え歩みを進める。


「小田、逃げなさい」


「断る」


 俺は歩き巫女の残像から当たりを見つけて、鋭い突きを腹部へ与えた。


「ごめんな、ちょっと眠っててくれ」


 気絶した歩き巫女を見て、立花はちょっと油断しただけよと、大したことじゃないと豪言を吐いた。


 ぶれない奴だ、ホント見習わなきゃだな。

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