15.仕掛け

 重い金属の扉を押す、開いた先へ進むが、部屋には人影すらなかった。


「誰もいねー?」


 まずい、罠かもしれない。


「皆さん、罠です」


 城井の一声に、一瞬でそれらを理解した一同は、一つしかない出口へ走った。


 しかし無情にもドアは閉まり、催涙ガスが投げ込まれ、白い煙が辺りに充満する。


 やられた、このままじゃ全滅だ。何とか小田様だけでも、この場から逃がしたい。


 しかし呼吸ができず、思考が鈍る。


 もしかしたら、私の空気銃でこのガスを払えるかもしれない。


 一発、二発と撃つが、効果は薄い。どうする、考えろ。


 那須だけでも逃がしたいが、換気口の一つも見つからない。こりゃあ駄目だな、逃げ道がない。


 意識がもう、無理だ。瞼が、重い。


「小田起きなさい」


「ん!もう朝か?」


「なに寝ぼけてんのよ」


「ここはどこだ?」 


 俺たちは、頑丈そうな鉄の檻の中、力ずくでどうにかできるレベルじゃない。


「見ての通り檻の中よ、武器は全部持ってかれたわ」


「そっか」


「これからどうするのよ」


「そうだなー、どうすっか」


 立花は、呆れた表情になる。


 しかし見張りはいないとは、舐められたものだ。


 靴底をずらし、中からキーピックを取り出す。キーピックを鍵穴に突っ込み、カチャカチャと探る。


「アンタ何やって?」


 したり顔でガチャリと鍵が開けると、立花にバンバンと背中を叩かれた。コイツは、何がしたいんだ? 


「那須、行くぞ」


 私は、何の役にも立てなかった。それに武器を奪われた今の私は、三流以下だ。


「…はい」


 檻から出られたのはいいが、この扉は、内側から開かない。早速、手詰まりだ。


 その時、誰かがギィーと扉を押す。慌てて臨戦態勢に入り、扉の主に視線が集まる。


 ニーソックスの丈の短いスカートで着崩した、くノ一姿をした少女が現れた。


 なんでコイツが、こんなところに。


「やっぱり来ちゃったんだね。久しぶり小田君」


「おま」


「花夜様!」


「この人が小田の好い人?」


 立花の疑問に反応を示した花夜、少しばかりやるせない表情をした那須。


「そうなの?なら嬉しいんだけど。小田君たちが捕まったって聞いて、急いで助けに来たんだけど」


「お前なんで?」


「そりゃあ、私の君主は君だけだからだよ。私は君を日本一にしたい、それだけのこと」


 那須は一歩踏み出し、覚悟を決める。


「花夜様、茨城へ帰りましょう」


「まだ無理」


「帰りましょう」


 怒気のこもった目で、那須は花夜を見ていた。


「怖いなー、相変わらず。私は助けに来たんだよ、ほら取られた武器も取り戻したからさ」


「お前なんで龍造寺の手下に」


「それ嘘だよ」


「ハッ?」


「私が流したウ・ソ。私は隠れ潜み、盗聴して龍造寺の情報を集めてただけ」


 何を今さら、小田様をこれ以上困らせるな。


「それを信じろと?なにも言わずいなくなった貴女を」


「嫌われちゃったなー。私は、那須ちゃんのこと嫌いじゃないよ」


「私は嫌いです」


「そっか。でも、私も小田君以外の男には触れられたくないし」


「どうしよ、昼ドラみたいな展開。ワクワクします」


「きいちゃんにそんな趣味があったとは!」


「まあ、その話は置いといて。龍造寺鷹春は、四階にいる」


「本当ですか?」


 大内は、訝しんだ様子で問いかける。


「私の調べた情報が、ウソなわけないじゃん。それじゃあ用事も済んだし、私はここでドロンとするよ」


 マーキングだと笑い、小田の唇を噛み。またねと、花夜は姿を消した。口の中には血の味が残る。

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