14.中の人

 あなたは、知っていますか?世界の悪意を、どうやっても上手くいかない。理不尽という三文字では、とても言い表すことのできないこの憎悪を。


 この痛みの百分の一でも、世界の人々に与えられますように。


 鋏を手の平に抉るように突き刺す、この時だけ全てを忘れられる気がした。


「歩き巫女様、お時間です」


「わかっている」


 私は、幼い頃に龍造寺の部下に攫われ。それからというもの、身の毛もよだつ汚いことをされた。私の心は、死んだのだ。


「天が遠い」


 手を伸ばしても何も掴めない、沼の深くへ落ちる。


 高橋の言う通り、水の粒が降ってくる。その勢いは、視界を遮るほどだ。


「これより、襲撃班進め」


 号令をかけ、アスモデウスとマモンの二つの隊は突撃を敢行した。


「よし、行くぞ」


 龍造寺の本隊は、村脇ビルに待機していることは調べがついていた。龍造寺鷹春という君主をここで討つことができれば、戦況は変わる。


「入り口は、ビルの正面と裏口の二ヶ所。隊を二つに分ける。裏口は、ルシファーが指揮を執れ」 


「了解です」


「正面は、私が担当する。レヴィアタンと小田、立花は、私に付いてこい」


「わかった」


「やっと出番ね」


「レヴィアタン暴れちゃうドン☆」


 花夜は、このビルにいるのか?高橋は、前線に送られているといった。ならここにはいないのではないか?


 考えてもしょうがないことだが。まずは、鷹春をぶっ飛ばす。


 正面入口には、数十人の見張りがいた。囲まれたらキツいな、そんな心配をよそに一瞬で片がついた。


 何だあの女、単に頭が悪いだけの奴かと思っていたら、殆どの見張りをレヴィアタンが片付けてしまった。


 強えー、異次元の強さだ。


 ゾロゾロと追加の兵隊が集まる。


「流石に多いな」


「それでも進むしかないだろ」


 コイツもまた君主の器か、ならばこそだな。


「ここは、私とレヴィアタンに任せろ。お前たちは、龍造寺鷹春を倒してこい」


「言われずとも」


「その言葉を待ってたわよ」


「行かせるか」


 兵隊たちは、道を塞ぐ。その人壁をレヴィアタンが破壊する。


 人波を一気に駆け、エレベーターに辿り着く。エレベーターに乗り込むと、最上階の五階へ。


「小田さん、私たちだけで大丈夫なのでしょうか?相手は、君主ですよ」


 大内は、不安な様子を露にする。


「大丈夫ですよ。小田様は強いんですから、絶対に負けません」


「私がいるんだから、負けるわけないでしょ」


「姉御は最強ですもんね」


 エレベーターから五階で降り、辺りを確認する。見張りの兵士が一人もいない。


 おかしい、これは罠だ。


 それにこの階は、部屋が一つしかない。


「小田行くわよ」


「ああ」


 罠だとしても、もう引き返す道はない。

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