12.白

 お菓子をむしゃむしゃ食べる女生徒、おまけにパタパタと化粧をする奴までいる。何て緊張感のない奴らだ、これでは気が抜けてしまう。


「小田様、ポッキー食べます?」


「私、お弁当作ってきましたわ」


「お前ら、遠足へ行くんじゃないんだぞ」


 緊張感の無い連中に嫌気が差して、つい出た言葉だ。


 佐伯は、ニヤリと笑った。


「小田君、君って意外と真面目だよね。でもさ、気を抜ける間は、少しでも抜いとかないと疲れちゃうよ」


「限度によるだろ」


「うーん、良いんじゃない?その分、戦場では働くし」


 佐伯の反論に言い淀む。これほど余裕があるのは、コイツらの自信の表れか?


「あんたは、堅すぎるのよ。ほら、唐揚げあげる」


 立花から差し出されたのは、歯形の付いた唐揚げ。


「食いかけじゃねーか、いらんわ」


「私がせっかく気を遣ってあげたというに、態度悪いわね」


「恩着せがましいわ、ボケ」


「何よ、そこまでいうのなら、表でなさい」


「ここ、高速道路だぞ。出るわけないだろ」


「イイゾー、夫婦漫才か?」


 バス内で野次が飛んでくる。


 怒り狂った立花は、小田の胸ぐらを掴み。その口に唐揚げをねじ込んだ。


「全く、少しは落ち着きなさい」


「むぐっ」


「小田、逸る気持ちはわかるが、ここは戦場ではないぞ」


 高橋の言葉に気づかされた。ここは戦場ではないと、コイツらは今、英気を養っているのだ。


「悪い、空気悪くした」


「構わないさ、真面目なのは悪いことじゃない。それに気づかされることだってある」


「気づかされること?」


「ここで気を抜きすぎると、そいつは真っ先に死ぬ」


 それならばと、高橋は言う。


「では、お前ら今より目を閉じろ。バスが到着するまで開けるなよ。目を閉じている間は、今していた行動を卒がなく再現しろ」


 目を閉じて、会話。お菓子を食べる、トランプ。それって普通に難しいな、今まで聞こえなかった呼吸音、小さな衣擦れの音などが聞こえる。


 しかしこれは、集中力を高める効果がある。周りの小さな機微に気付き、自分との対話で次の行動を考える。


 だが、さっきからお菓子食ってるだけの奴いるな。


「レヴィアタンこのお菓子好きー」


 またコイツか、あれ!コイツ今、目を閉じているよな?目を開けてみると、レヴィアタンは、目を閉じてお菓子バリバリ食べていた。


 目を開けているときと、目を閉じているとき。変わらないのは、高橋とレヴィアタンだけだった。


 これが始まる前から、終始無言だった奴もいたが。


 那須は、動揺してあわあわしていたり。大内と小笠は、緊張した会話を繰り返している。


 立花は、虚勢を張って何かと戦っていた。

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