8.バッティングセンター

 書類作業に追われながら、エリゴールは高橋を見らずに話す。


「あの男を信用して大丈夫なんですか?」


「あの男とは?あー、小田のことか」


「そうですよ、あんな乱暴そうな男」


「お前は、私を信用してないのか?」


 頬を膨らませるエリゴール、それを見た高橋は、クスと笑う。


「ズルいですよ、そういう言い方は」


「高橋会長、あの男。どこかで見たことがある気がするんですが?」


「ベルゼブル書記、運命だとでも言うつもりか?そういった恋愛感情は、妄想だけにしといてくれよ」


 高橋は、高らかに笑った。


「ベルゼブルにも、春が来たんですね」


「違いますよ。高橋会長、エリゴールも茶化さないでください」


「すまん、すまん」


「ごめんね、ベルゼブル」


「小田応和は、生まれながらの強者ではない。奴は幼少期から、最弱の人物とされていた。それが中学に入り、学校の頂点へ」


「その話が本当なら、疑問がいくつかあります」


 エリゴールの考えに同調した様子のベルゼブルは、こういう。


「小田は、何かあるんですよね?」


「大した話ではないさ」


「会長がそういわれるのであれば、そうなのでしょうね」


「ところでこの書類、わからないところがあるのですが」


「どこだ?あー、これならこうするんだ」


「なるほど、会長ありがとうございます」


「それにしてもだな、私も熱気に当てられてしまったようだ。少しばかり体を動かしたい、付き合ってくれるか?」


「喜んで」


 生徒会の面々で近くのバッティングセンターへ遊びにきた。


「遅れました。あれ!?誰もいない。びぇーん」


 そして生徒会室に明かりが灯る。


「いいもん、買ってきたお菓子一人で食べちゃうから。レヴィアタンを忘れたみんなが悪い」


 バッティングマシーンから、百五十キロの球が向かってくるが、それを打ち返してガッツポーズのベルゼブル。


 ふとエリゴールは、言葉を吐いた。


「会長は、妹さんを慰められないんですか?」


「そんなに弱くはないよ」


「ですが、私なら落ち込みます」


「ホラ、見てみろ」


 高橋会長が指を差した先にいたのは、陽葵と陰菜だった。奥のバッティングセンターで懸命にバットを振る二人。


 だからバッティングセンターにきたんですね。


「そうですね。失言でした」


 一時間ほどバットを振って、二人に気づかれないように帰ることにした。


「ちょっとー、みんな帰ってこないんですけど。レヴィアタン泣いちゃいますよ」


 お菓子を全部食べて暇になったレヴィアタンは、生徒会室の明かりを消して帰って行った。

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