幕間5 兄王子は異国で妹姫を思う。

「王子殿下、お国からの文にございます」

「……そして、こちらは、商業街の魔法店の魔法法律家様からの文にございます」


 獣人王国の王子は、留学先で魔紙の手紙を受け取っていた。


 友好国からの、しかも優秀さと学ぶ姿勢と人柄と魔力。すべてを満たした謙虚で穏やかな性質の鹿の獣人である獣人王国の王子。王子としても、学生としても、多くの指導者や学生から好まれ、敬われている若き獣人である。

 たった今、手紙を渡した文書担当の職員とも交友が広がっているほどなのだ。

 そんな職員が口ごもるのには、理由があった。

 この国は、魔法法律家養成機関を持つ国である。

 魔法法律家という職業は、養成機関での学問履修を経て魔法法律家からの法律家としての許しをもらうことによって職を得るため、正しくは、魔法法律家を学ぶための機関であるが、この国の機関で学問を修めることは魔法を志すものには憧れである。

 修了者の魔力痕が修了証明書となる証明書の偽造などは不可能であるため、魔法にかかわる職業に就く際にはたいへんに心強いものなのである。

 ありていに言えば、箔が付くのだ。 


「次回からは、どうか魔法法律家様を第一になさってください。私はただの留学生にございます。我が国は第二で構いません。ああ、どうか、ご安心を。我が国に不敬の罪はございませぬ。そのようなことを申すことこそが、我が国の民への不敬でありますゆえ」

 穏やかな声で、王子は言う。

 獣人王国の第一王子をただの留学生として見做すよう、留学の申し出の際にそう依頼をされたこと。

 それは、留学を打診されたときから変わらない。

 国王自らの直筆の書には、魔法による誓いの印さえ押されていたのだ。

 そして、筆記試験と魔力測定を十分な好成績で突破した王子自身も面談の際にはその旨を願っていた。


「畏まりました」

 王族への口調については矯正することがかえって難しいという職員たちの希望にも、王子は寛容である。

 たいへんに深い礼をして職員が下がるのを確認し、王太子は、国からの手紙を読む。


「……姫の呪いのために、偉大なる魔女様の御使い様方が。なんともありがたいことだ。そして」

 三魔女様方と御使い様方のありがたきお心遣い。王子は深い感謝の心で手紙を読んだ。

「あのお方が、御使い様方にご協力を……」

 高名な魔法法律家であられる方ながらも身分を控えめになされ、商業街で魔法店の店主をなされている方からの手紙だ。

 この方とは、王子も面識があり、この国への留学を勧めて頂いた恩人である。

 店主が魔法法律家であることを知るのは獣人王国では王族と、かぎられたもののみであった。

 また、偉大なる魔女様方も皆様魔法法律家としての資格は有しておられるという噂もあるが、その資格を行使されたという話はついぞ聞かない。


 魔法法律家からの文は、初代女王陛下と当時の王子に関する花の国の資料、当時から今までの人族と獣人族とのかかわりの歴史書などを閲覧し、可能なものは複写をしてほしいという内容だった。しかも、獣人王国の王子としてではなく、魔法法律家養成機関で学ぶものとして、とある。

 父たる国王からの手紙には、魔法法律家殿のご提案に従うためにと、紹介状が添えられていた。『己が意思で使用をしてほしい』という言葉とともに。

 必要なときには王族として振る舞うもよし、ということだろう。父上の心遣いが嬉しい、王子はそう思った。


 王太子の留学先のこの国は、獣人王国よりは遥かに花の国に近く、魔紙での手紙のやり取りは、早朝に行えば夕方には返しをもらえるほどである。


「ご指導を頂いている師に、ご相談を」

 そう呟く王子の表情は、輝いていた。


 獣人王国内に、長子たる王子自分よりも、竜の獣人たる姫を次代の王にと考えるものたちがいることは、王、王妃はもちろん、王子も熟知している。

 だが、それはあくまでも獣人王国の王族の、家族としての絆を知らぬものたちの考えだ。もちろん、王族としての矜持は皆で、守る。当然である。


 その上で、であった。

 そう。兄王子は、妹姫を心から愛していることを、知らぬものたちか、知らぬこと。


 姫が女王になるのならば、自分はそれを助けよう。そして、兄王子が王になるならば、姫は自分を敬い、助けてくれるだろう。

 これは、確信であった。

 兄王子は、家族を、妹姫をひたすらに思うのだ。

 だからこそ。

 妹姫の呪いを解くよすがになれるならば、と。


 兄王子は、即座に動き出すのであった。



第三章 モフモフ三人組、竜の姫君を助ける。

《了》

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