野郎はホントに女に人気だ 俺は一体、何を間違えたんだろうか
「あーあ、本当はあの村に泊まる筈だったんだけどなぁ」
「過去の事を悩んでも意味ないよ」
「当事者に言われると説得力増すけどよ、せめて部外者の立場であり続けんのは辞めてくんない?」
「うん、わかった」
「ほんとにわかってんのかよ」
「じゃあ、今回の責任を取り、提案を」
「ほー、どうぞ、ヒスロアくん」
「路銀はあと、幾らありますか?」
「もうあんまりねぇよ」
「この時代の勇者ってあんまりお給金、良くないんだね」
「お前の時はどうなんだよ」
「多分、そう変わらない」
「フッ、どうせ罰金重ね過ぎてんだろ?」
「……さぁね」
何含みありげにあしらってんだ?
「それで、何を提示して下さるんです?」
「今日はダンジョンに泊まって越せばいい。軽い任務もこなせて路銀の足しに出来るし」
「夜は魔物が凶暴になるでしょうが」
「誤差、誤差。そんなに気にしなくて良い」
「その軽はずみな行動のお陰で、毎年毎年、死傷者が目に見えて増えてってんのよ」
「救出隊なんか、さっさと廃止すればいい」
「はぁ、もっとまともな提案してくれよ」
「例えば?」
「この分かれ道とか?」
又しても、岐路に立たされた。
「どうすっかなぁ」
あれから歩きっぱなしだし、流石の俺でも疲労は隠しきれなくなってきたんだが――。
「どうすっかなぁ」
「だったら現地の人間も知り得ない情報を」
「前フリからもう既に期待出来ねぇ」
「文句は見てから言ってよ」
そう頼もしく尊大な生徒が仰ると、二又のど真ん中を悠然且つ臆面もなく突っ切って、
「は?」
ヒスロアは宙に浮いていた。
「魔法。か?」
首を横にふるように振り返り、まだ幼くとも周囲を射止める様になる顔つきで告げる。
「未来では、天国の上り坂と呼ばれている」
ただの空気を、何人にも見えぬ場を渡り、俺は一驚を満喫する余り、思わず頬が綻んでしまった。
「すげぇ、なぁ!」
「行こう」
「あぁ!」
何だか久々に純粋な子供時代に戻れた気がする。まぁ、進む先は果てしなく未来の道のりなんだが。
「おぉ、まるで人がごみのようだなぁ」
「オルスは一回落ちた方がいいんじゃない」
「ははは、単なる洒落だよ」
「それは目的地に着いてからやってよ」
「だってよ、こんな高い所、初めてだし」
「煙となんとかはたかぃ」
「なんか言ったか?」
「いいえ、なんでも」
この弾んだ足取りが日々の募った疲れを跳ね返しているのか、見る見るうちに前進していき、遂にダンジョンの全貌の影を捉えた。
「もうか! 早ぇなぁ」
「そうだね」
「ん? でも、待てよ」
なんで此奴は魔法を使わないんだ?
「なぁ、もしかして」
「ねぇ」
タイミング良く疑いの目を躱しつつさりげなく母なる大地に視線を向け、何故か冷徹な眼差しをぶつけてくる。
「此処は天国の上り坂、この意味わかる?」
「あぁ、選ばれた人間だけが歩ける場所――なんだろ?」
「まぁ、それもあるけど、通ってる時は頭の中が綺麗じゃないと駄目なんだ」
「もし邪な考えを持つとどうなる?」
「……」
沈黙。
そして、「え?」先に破られたのは……。
「落ちる」
俺の、床だった。
「えぇぇぇぇ!」
凍てつく突風から織りなす鼓膜に覆われた風切り音が現実を限りなく眼前に突きつけ、今にも竜巻さながら回転しそうな体躯の暴走を抑制しつつ、野郎に直様、標準を捉えた。
「てっ、めぇ、これがやりたかっただけだろ!」
「そんな御託で舌を噛んでいいの? このままじゃ激突は免れないよ」
「チッィィ! わかってるよ! 来い!ウルフ!」
案の定、数十秒後には名誉の戦死を遂げるであろう司令塔の無茶振りに聞く耳を持たず、
「おいで」
信頼に足る友の心からの願いを聞き届けた。
「ぁぁぁぁ‼︎」
刹那。
突き立てた剣に衝撃の大半を流し、鎧の金属密集、腹からのダイレクトダイブに成功。
身体が響動めくと同時、視界の暗闇を確認し、完全に埋まっているのを理解しました。
「何やってんの?」
見事な落下演出に興奮のこの字も見せぬ態度に逆に腹ただしさが沸々と沸き始め、一寸の隙も生じぬ型から嵌った顔を取り外せば、
「っ‼︎」
異常な怪力で人形の如く白騎士の腹を持ち上げながらのふわりと花びらのような着地に、矛先は自然と、華麗に進行方向を変えた。
「お前、主人が死んだらどうなるのか分かってんのか?」
「……フッ」
鼻で笑ってんのかって感じのそっぽを向く仕草に拳が顔の一まで急上昇し、噴火までもう間も無くと緊迫した状況が差し掛かる頃。
「早く受付しなよ」
その言葉に見下ろす姿さえ視界から切られ、残ったのは尾を引く激痛と剣だけだった。
……とうさん、かあさん。
。
「やっぱ俺には剣しかねぇ」
そう心の拠り所を、胸に強く抱きしめた。
「なーんも見えねぇ」
「ちょっと前まで前人未踏の地だからね。でも整備されてないとはいえ、此処までとは」
正に一寸先は闇。
下手な明かりは死を呼び寄せ、果てには我々の灯火を絶やすに違いないのだろうが、こうも正常な精神の失われる空間にいては、
「どうする」
絶望の淵に立たされているようなものだ。
「ちょっと待って、ホーリーナイト」
神々しい黄金色の延べ棒ながらの光を片手に持つ様はまんま癒しの女神に他ならない。
「あら便利」
「でも、触れたら最悪死ぬよ」
「おっとっと」
いつの間にか虫さながら導かれていた。危うく虫と同系列の死因を飾りそうだったぜ。
……。
涙ぐましく格好の的となる彼を躊躇なく先頭に置き、此方は責任を持って背後全域にセンサーを張り巡らせる中、ある想いが走る。
「なぁ、俺にも魔法って使えるかな?」
「どうだろ」
「俺さ、生まれつき魔法が使えないんだけど、未来じゃもう解決法も確立されてんだろ?」
「うん、荒療治だけど」
「どんなの?」
「魔素を内蔵する器官に刺激を与え続ける」
「聞いてるだけで痛そうだな」
「神経系の激痛で、最悪後遺症も残るから、例年、自殺者は後を絶えないって話だよ」
「それほど、困ってんだな」
「この世界じゃ魔法が使えないのは死活問題だし」
「今、出来る?」
「やらないよ、めんどくさい」
「じゃあ、魔法のコツだけでも教えてくれね?」
......。
ちょっと間を置かれちまった。
「そうだなぁ」
どうやら馬鹿な俺にも理解出来る解決策を必死探っていてくれたようだ。――優しい。
「例えば此処に、一つの蛇口があるとして」
「ぁぁ」
「魔法陣を捻る際に自分が欲しい分だけの、ある程度の調節が必要だよね?」
「まぁな」
「微量調節をしないと基礎の魔素が身体中に流れ続けちゃって死んじゃうから要注意ね」
「でも、前提となる魔素を循環させる機能が何らかの理由、主に遺伝が原因で内臓そのもの完全に壊れちゃってるのがオルスの病気」
「うん」
「数年を掛けた治療の末、完治後は常人と使用法は大して変わらないから安心して続けるね」
ちょっと怖いのが聞こえた気がするが、やや脱線気味から本筋に舞い戻った話に耳を澄ませつつ、ちゃんと片手間の仕事もこなすヒロの背周辺を見張る。
「誰でも最初は回路を暴走させないように、1最大の10の内、2から始めるんだ」
「幾つから等級が変わるんだ?」
「2が初級、5から中級、10まで行けば上級。そして100まで辿り着けば、神級になれる。神級は魔素の暴走無しで扱える人間に限るよ」
「いつかだな、いつか。本気になったら」
「……」
心なしかヒロとの距離が離れた気がする。
「初級魔法にも数種類があって、主に一属性を一発のみと合成した魔法の複数発の二つ」
「難易度は同じなのか?」
「うーん、経験というより頭の良さ、相性によるかな」
「世知辛いな」
「前者は単純に、でもコツがあるとすれば、体外に排出するじゃなくて放つように撃つ。明確な標的への意志と精神状態の安定が必要とされるからオルスにピッタリだと思うよ」
「一応、次も聞くよ」
話はまだまだ続くようだ。
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