第2話 夢小説でありがちなご都合展開でした
漫画の世界に飛び込んで、そこで自然に馴染んで生活をする。
不思議と衣食住は神様のイタズラによってどうにかなっていて、自分は悠々自適に漫画の世界の学校に通いだし、そして自分の好きなキャラクターと恋愛したり、学校生活を送る。
それが夢小説。
「夢小説ってのはね、ファンが勝手に妄想して作るんだよ。二次創作ってやつ。名前を自由に変えられたりするから自分の名前にできたりするわけ。」
姉はリハビリ病棟にうつり、私は空いた時間に姉に会いに行った。
「トリップ夢ってのは、その夢小説の主人公が漫画の世界に行くっていう設定なんだよ。」
「じゃあ、お姉ちゃんはマジでその世界に行ったってこと?」
「そうそう。トリップ一日目からちゃんと日記が書いてある。」
姉はそう言って1ページ目を指さした。
***
『何ここ?なんなの?』
『よく来たな、桜。お前さんは『サッカーの王子様』の世界に迷い込んでしまったようだ。』
『え!?ほんと!?じゃあ、シュート君がこの世界にいるわけ!?』
顎髭に、白い着物に長い杖。
仙人と言わんばかりの風貌の老人の言葉に桜は興奮していた。
まさかそんな、こんな冴えない私が大好きな『サッカーの王子様』の世界でしかも大好きなシュート君の世界に行けるなんて。
『お前さんが強く望んだからだよ。』
信じられない。嬉しい。
桜は浮かれていた。
『明日から桜は『十一高校の1年生じゃ』』
そう言ってポンッと音を立てて老人は消えた。
気がつけばマンションの一室。
部屋には何となくの家具家電。
テーブルには学校の生徒手帳と銀行の通帳、ハンコ、キャッシュカード。
そして置き手紙。
『桜ちゃん、一人で心細いかもしれないけど、ママと六花ちゃんは北海道にいるからね。
転校先では上手く頑張るのよ』
なるほど、ママと妹の六花は転勤して、私は十一高校に行くって話ね。
数々の夢小説を網羅してきた桜は、この展開には驚かなかった。
(明日からシュート君と同じ学校なのね・・・!)
桜はウキウキしながら眠り、学校に行く支度をして転校の手続きをし(両親が既にしてくれてる手はずになっているご都合展開だった)
クラスの教室に行くと、隣の席には『サッカーの王子様』の火野シュートがいた。
『よろしくね』
と桜が声をかけると、シュートはチラッと桜を見て言った。
『話しかけんな。デブス。』
***
「えー!?お姉ちゃんなんでそんな男好きなの!?」
「だって、漫画ではクールでかっこいいんだよ。私の部屋にも沢山アクスタ飾ってるし。」
姉はふわりと笑った。
そんなふうに笑う姉を、私は初めて見たかもしれない。
「てゆうか、あたしはあっちの世界では北海道に行っちゃってるんだ。」
「六花ちゃんは可愛いから、私の中ではちょっと邪魔だったのかも。ごめんね。」
「でもおかげで十一高校に行けたんでしょ?良かったじゃない。
夢小説って言うから、もっとラブラブ展開かと思ってたけど意外とシビア。」
「あはは、夢小説はファンの妄想だもん。仕方ない。」
私は本当に信じられない。
姉が楽しそうに懐かしそうに笑っている。
搬送された時はどうしようかと思ったけど、明るくて安心した。
「じゃあお姉ちゃん、あたしそろそろ帰るね」
「うん、ありがとう六花ちゃん。気をつけてね」
私は次の姉の話がなんだか楽しみだった。
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