第20話 ジャニケンの落としどころ
「頼む。娘と会いたい」
「脅迫未遂、ストーカー、傷害未遂。これだけでも弁護士雇ったら何百万とれるやろな。大体、小遣いはともかく娘のお年玉に手をつけて、それでも尚アンタは娘に会えると?」
「悪かった、もうしない。しませんから」
「ジャニケンさん、この男訴えて、はい離婚届」
「訴えるとかそんな」
「訴えられるか、ここで離婚するか」
「あのハンコは」
「指紋でいいって弁護士さんが」
「朱肉用用意してんねん。はよ」
「はい、受領した。それでもう動いてもらっているからもうすぐ弁護士の先生来るわ。朝まで一緒やな」
それから嫁は二人が黒門大黒鮮魚店という店の跡取りだと教えてくれた。
二人がオイタをする度に店の横の柱に沿うようにはりつけにされ、体に「私は昨日娘のお小遣いでキャバクラに行きました」って、貼られて二時間放置されるらしい。
その間、通勤途中のサラリーマンや学生に見られて、下に置いている棒で百円を払えばいくらでも通行人がつつくそうだ。ホーローの言っていたはりつけはこれだったのか。
大黒鮮魚店に嫁の紹介で裁判の合間に行ったのは一か月ほど後だった。家に伺いますと言われたが、何があるか分からないと断った。
「この度はうちの息子が大変申し訳ございませんでした」
謝罪をされても仕方がない。もう引っ越しはしたし、和解金も貰った。費用も向こう持ちだ。
「とにかく罰を受けさせようと次男をくくっているので、棒でつついてください」
目隠しをされ、鼻はあいていたが、上手く発声が出来ないように口に猿ぐつわがかまされている。手足は後ろ手にしばられ、足元には複数の棒が用意されている。
『私はバンドメンバーの個人情報を自分の女に流したクズです』
わいわいと子どもたちが通り抜けていく。
「最近は子どもも突かんってなって、サラリーマンが焼けくそでつつくだけで、今日は朝の九時から昼休憩挟んで十六時まで二日に一回さらしています」
「お母ちゃん、二日にいっぺんじゃ」
嫁は抗弁する。
「長男に継がせるわけには行かんので仕事してもらわな困るんです。どうかどうかこれで」
「分かりました。ワーリオを降ろしてください」
「ジャニケンさん、ええの?」
「バンド活動に支障をきたすし、ここまででいいよ」
ありがとうございます、ありがとうございます。と、頭を下げられた。
「でもその代わり、仕事場に行けなかった分のお金くらいは。あのお店もう無理やろし、バイト先変えなあかん。明日の練習は来いよ。夕方の十七時やからな」
十六時半には来ていた。頭は丸めて椅子の上で正座していた。
ロビーに入るとチョージローが視線をそらした。
「チョージロー?」
「分かっている。はりつけはどうか」
「次のライブ終わりにスタッフと出演者、いやそれは悪魔ね。出演者だけでいいわ。高級焼肉食べ放題ね」
「ちなみに高級具合は」
「塩タン五切れ一皿五千円」
そんな殺生な。チョージローが崩れ落ちた。
「ごめんな、ジャニケン」
「確かにホーローにも罪があるわ。バイト先に写真集を持って来た子もいたしね。そうね分かった。ライブ始まった時に口上でこう言いなさい」
そして迎えたライブ当日。
「みんなに会いたかったよ。でもここで言わなくちゃいけないことがあります。この前ジャニケンに過度につきまとった子たちいるよね」
そう、説明をした後に言うの。
「それでその原因を作った罪の軽い順番からさらします」
まず一人目はアンタ。アンタがジャニケンの嫌がるところで露骨に迫りる原因を作った。
「そしてサムスのチョージロー」
チョージローは自分が扱いきれない女の子を抱きれないので、わざとジャニケンに横流しをした。
「最後にワーリオ。家と最寄りは言わなかったけど、勤務先を流した。オホン、それで行った女の子が誰かをこちらは把握しておりまし。僕は人の顔を覚えるのは得意です。今後そういうことをした子は出禁にします」
「ということで湿っぽい話はここで終わり。まさかオイタする子はいないよね。声小さいよ! もう一回オー! オー? いやいやもっとオー! よっし、ジャニケン一発目行くよ」
無理やりね。分かったから。
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