第19話 ジャニケンの日常
「マスター、話があるのだけれど」
「教えたよ。だって娘を人質に取られてら教えるよ。出番とお渡し会の日くらい」
その娘とはひと悶着あったので、ここでは詳しく触れない。黒。
自分なりに調査をしても心斎橋にいる知り合いで流すような馬鹿はそれなりにいるのだが、みんな白だった。中にはうちに写真集いっぱいあるよって誘ってきた女がいた。
「同列じゃないか」
と、突っ込んでおいた。冗談じゃんと笑っていた。
電話が入ったのは私がバイトに行こうかと夜用意している時だった。
着信履歴そのままに仕事場の一つに向かった。
「困るわよ。これは」
バーカウンターの前にはたくさんの女の子、写真をパシャパシャ撮り、和気あいあいとした雰囲気だった。
「うちはゲイバーよ。女の子もオーケーだけど、これは常連さん入りにくいわ。しばらくお休みしてね」
さて困った。これでは仕事にならない。考えろ。
ワーリオは家と最寄りは言っていないので、仕事先を言った可能性がある。いや、あれはあれで本当に言われたくないことは言わない男だ。それにここまでしたらバンド活動に支障をきたすくらい分かるだろう。
チョージローはどうだ。
恨みを買ったら怖いが基本無害な生き物だ。チャラチャラしているがあれはいっぱしの大人だ。それにガチ恋に至ったファンがどれだけ個人情報の垣根を超えるかをよく知っている。その上、ワーリオと同じ理由で白だ。
ホーローは言うまでもない。あれは常識人の区別に入る。家庭問題で傷を負い、きっとピノの援助もするだろう。弱い者の痛みに触れるやつがこんなに空気の読めないことをするはずがない。
そう言えば着信来ていたな。
着信一件とワーリオからのメッセ。
「ごめん、うちの兄貴だった。恵美須町のサイゼに兄貴と嫁そんで俺でおるから、早朝になってもいいから来て」
ここでゆっくりすることも考えたが、嫁が可哀そうだ。恵美須町のサイゼは堺筋から離れたオタクロードに店を構えている。夜に営業しているガールズバーの区画にある。嬢の休憩場所らしく、一般客とは別の休憩室があるらしい。
「こんばんは」
「あ、ジャニケンさん。その節は大変失礼しました。今回もですね」
嫁の目の前にはステーキやハンバーグを食べた形跡があった。スイーツも食べることが出来るくらいは食べたみたいだ。本当に明け方でも良かったわね。だが、睡眠不足は肌の難敵だ。
「兄貴、今だったら奥さんも」
「お前も黒だろ。黙っとけ」
これは奥さんの心配よりワーリオの心配をした方がよさそうだ。
「それで今回はこのクズが娘のお年玉とお小遣い使って探偵を雇って」
クズだ。
「仕方ないだろ」
「どこが仕方ないねん」
「こいつが余計なことをしたせいで、毎日娘の顔を見ることが無くなって、そんなもんこんなよく分からん、男か女か」
バンっと低い音の響くビンタ。
「兄貴、それはクズ過ぎるよ」
ワーリオもクズなのだが、この兄貴はそれをも凌駕するクズなので、ワーリオがかすんで見える。
「ここで正直に言わんかったら裁判になるなー。別居じゃ済まへんよな」
「分かった。話すから」
話ではこうだ。先日、ホーローがチョージローに頼んでワーリオを潰した。
兄貴が他の女とよろしくやっていて、娘のバックに入っていた「れんらくさき」の電話番号二つに電話。
もちろん兄貴はよろしくなので出ない、嫁は出た。これこれこうでと説明すると、兄貴は仕事中のはずだと話が進んだ。
あとはホーローにも話した通り、よろしく中に私と後から嫁が乱入した。その場で別居宣告をされて、嫁がホーローを助けに行ったということだ。
だが兄貴は娘と会えないのはあのよく分からんやつが悪いと読み、探偵を雇い、自宅仕事場実家ライブのタイミングなどを確認。まずは仕事場をさらしてパニックになっているところを脅迫しようとしているところに弟が嫁にもしかしたらと相談したらしい。
ワーリオもいいところがあるよなと思った。ワーリオはワーリオで後にバレて渦巻きに巻き込まれるくらいなら早々に自白する方がいいと思ったのだろう。そのあては少し外れてしまった。少しだけ。
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