第18話 証拠集め

「お前さはっきり言って邪魔なんだよ」

 ジャニケンに相談した。


「そのパターンはロッカーでも激しいでしょ」

 それはもうひどいものだ。幾度か殴られ死ねや人格を軽視する発言も多い。


「これをロッカーに仕掛けなさい」

 そう言われたので外箱を見ると、無線で家のパソコンに送信可能とあった。仕事先はWi-Fi完備だ。


「ロッカーでのことは録音しています」


「はぁ?」


「死ねって言われたのも全部。主任が帰った後に日時を吹き込んでいます。最近のレコーダーはすごいですね」

 ぼそぼそ自信が無さそうに聞こえたはずなのに効果てきめんだった。その日からロッカーでの暴力が無くなったが、今度は作業場の中での暴言が激しくなり、しばらく行けない日が続いた。


 先輩に言って、もう行くのは辞めにしよう。そう思って、先輩の前に行っても申し訳無くて言えなくなる。次第に外にでることも辛くなり、大学院や練習も行けなくなった。転機はホーローが焼肉に連れて行ってくれた時だ。


 僕の顔を見てただ事ではないと思ったようで、何があったか僕に問いただした。



「明日、病院に行こう。それは病気だ」

 結果、適応障害と言われ、なすびのバイト先の本社に内容証明郵便で所属と診断書の送付。他のバイト先にしばらく休ませると連絡をしてくれた。


 退職金を出すから公にしないでくれと言われたが労働基準監督署には通報したし、貰えるなら貰っとけと言われ、荷物の引き取りに行った日も社長に責められた。それも通報してくれた。


「ギターはピノしか務まらないんだ。体調がよくなったらまたバンドしようぜ」

 いつだって気を遣うメンバーだ。遅くまで居座ることは無いし、来るのは昼だ。午前中に来ることは絶対に無い。夕方に酒を飲んで一杯で帰る。


「ありがたいな」


「なんか言った? ピノ」


「いやなんでもない」

 大学院は休学、仕事は休み。したいことをしなさいと言われたので、今日もたくさんのお姫様の為にギターを弾く。誰も私生活には触れないし、助けを求めたくなったら察してくれる。


 アクアに来て良かった。


 ピノに何かあった時、私も忙しかった。あまり説明もせずレコーダーだけ渡したのはそのためだ。


「お友達からでいいので」


「彼女とかじゃなくていいので」


「一回遊んでくれるだけでいいので」

 多い。ミナミロックに入る度にこれだ。誰かが情報を漏らしたに違いない。


 まずはワーリオだ。


「無い無い。俺じゃないよ」


「本当かしら、さばききれない女の子を押し付けているという線もあるわよ。管理くらい自分でしなさい」


「だって家まで来るんだぜ。家と最寄りだけは言っていないから、だいじょぶ」



 黒。



 次はチョージロー。


「え、俺? 無い無い。そんなことするくらいなら自分で食うよ」


「食えないほど集めたのは誰?」


「だって下着とか歯を差し入れるんだぜ」


「下着はあなた好きじゃない」


「顔も知らない女のはいらない」


「ちょっと預けたやつは面倒見てくれてもいいじゃん」



 黒。知っていてもダメでしょ。



 そしてホーロー。


「え? 僕?」


「アンタも容疑者よ」


「教えたよ」


「何をよ」


「ジャニケンが男だよって、無い無いって言われた」

 無いわけでもないけど、僕の返答が気になるようだ。

「ホントだよ。ジャニーズが好きで写真集たくさん持っているから、みんなの比じゃないよって言っといた」


 知っている。商店街の古本屋のジャニーズ写真集が一気に売れてしまったことを、店長が調子に乗って発注したら全然売れていないことも。



「そしたらどういわれたの」



「好きなグループ名聞かれたから、よく知らないけどSMAPとか嵐って言っておいた」


「両方とも解散しているわよ」



 黒だけどまだマシ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る