第15話 じゃあ、撮るよ

 シャワーの間に洗濯してもらえたようで、乾燥を待つだけだった。その間に借りたシャツはぶかぶかだった。

「あの何か」


「いいわよ。お客さんは何もしなくて」

 クソからお客さんに昇格した。せっかくだから、市場の中を散歩することにした。祭りの上りが立っていた。高津宮、七月十八日とある。



 そうか明日か。



 生真面目に市場近くの駐車場にマスターはいた。


「帰れば良かったのに」


「娘の為だ」


「相談なんだけど、その娘さんを明日召喚出来ない? お祭りあるんだって、この辺ならよほどの物好き以外は来ないでしょ。心配ならジャニケンつけるけど」


「アイツ仕事」


「夜までに終わるってさ」

 マスターはむぅとうなり、電話をした。

「なーちゃん。明日の夜空いている? え、学校? そんな時間か、メッセ送っとくから、見ておいといていな。うん、ホーローとジャニケンも来るよ」


 なーちゃんは完全武装で来た。滅茶苦茶、ゴスロリだった。


「ホーちゃん、ジャニちゃん。お父さんなんかどうでもいいから、あそこで金魚すくいしよ」

 なーちゃんが出した条件。両手つなぎで回る。この条件というのは今絶賛反抗期パパ嫌いのなーちゃんがパパの誘いに乗る条件である。



「なーちゃん。私は露店の女王と呼ばれた女よ」


「白銀の王子様ね」


「露店の女王」

 なーちゃんにはジャニケンの本質が分かるらしい。白銀は言い過ぎだ。


「ホーちゃんは白馬の王子様かな」


「かなり無理があるわね。白馬? ぷぷぷ」

 金魚すくい、スーパーボールすくい、綿あめ、一円玉落とし、りんご飴、生パイン、お参り、くじ引き。


「聞いてないわよ。大凶って何よ」


「私、大吉。ジャニちゃん交換しよ」


「なーちゃん、あんたって本当に可愛い子ね」


「特別?」


「特別よ、特別」

 なーちゃんは若干愛が重い。嬉しそうにしているが、そのうち刺されそうだ。


「ホーちゃんはファンの子と私、どっちが特別?」


「今は、なーちゃんかな」


「やったぁ」


「もうそろそろいい時間ね。帰るわよ」

 水あめはともかくちゃんと汚れない露店を選び続けた。


 焼きそばやたこ焼き、フランクフルトなど食品は選ばなかった。


「あのねあのね。私、二人のサインと将来が欲しいの? ダメ」

 愛が重い。慣れたものだ。ここで「私たち女の子に興味が無い」と、いうと。「私を好きになってもらうように頑張るから」と、言い。さらに「今日は大サービスよ」って言うと「そうしたらずっと大サービスでもいいよね。その方が楽しいよ」と、言われる。ということで今日は。


「両抱きで写真撮ろうね。すいません写真撮ってもらっていいですか?」

 想像したのか少し赤面するところは可愛い。


「じゃぁ、撮るよ」

 狙ってか偶然かジャニケンはなーちゃんの耳元でささやいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る