第13話 磔に処された何か
「お、わいせつか?」
「幼女誘拐か?」
「お前ら見ていただろ」
「悪かったよ。警察が来たから俺たち戻ったんだ。ジャニケンとすごい剣幕の女」
「悪いのは多分女の子ほったらかして潰れたワーリオとチョーさんに頼んでワーリオを潰したアンタだ」
「やっぱり誘拐だな」
そうだな。という声が漏れ聞こえた。
「本当に誘拐ならここに戻ってこないよ」
「悪かったって、潰した奴は?」
「実家の前で放置してやる」
「怖いこというね」
「だから台車を借りる。触りたくない」
「だとさ、マスター」
マスターは丸坊主で耳だけではなく、口や鼻にピアスを開けている一児のパパだ。もう一度いう。一児のパパだ。色々あって、親権はマスターに移ったらしい。
「処分したいと思っている。少しガタが来たやつなら貸してやる」
「具体的には何がガタきて悪い?」
「それを言える立場か?」
「なーちゃん。ライブハウスに遊びに来たいって」
なーちゃんは中学二年生だ。
パパがこれだからちょっと誤解されて、学校で少し浮いている。
このマスターもなかなかのアホで、ここに出すバンドが出すに値するかをデモテープで持って帰る習慣がある。
それをなーちゃんがうっかり聞いてしまった。アクアの。
「推しはホーローとジャニケンだそうですな」
「何を言いたい」
「サイン書いてあげよっか。今、交渉したらジャニケンも首を縦に振ると思うよ。グッズシャツがいい? それとも名前入りの色紙? そうだグッズ全部つけて色紙なんてどうかな」
「ホーロー、性格悪すぎだろ。こんなの相手がファンだから出来るモーションだぞ」
そうこれは絶対的強者だからこそ出来る技。牛丼屋では全く役に立たない力。
「あとはジャニケンにメッセ送るだけだけど、どうする」
「俺の車で送ってやる」
「ゲロまみれになるよ」
「誰が車内だと言った」
マネージャーに切りのいいところで解散させろと指示を出して、近くの月極駐車場に向かった。
「マスター。ジャニケンの教育の成果が出ちゃうよ」
そう、この閉所で吐く教育を施したのはジャニケンである。
「軽トラの上なら大丈夫だろ。ちゃんと固定するし」
運転席の後ろに直立不動の形で固定されたワーリオ完成。
「馬鹿かよ。こんなの見つかるに」
「こうやって藁も固定すると完全にほうきだ」
「頭出ているから」
「高さ制限のある道は通らない。こっちの方が楽で尚且つ早い。行くぞ」
「楽しそうだな」
ジャニケンに報告をするとのんきなものだ。
「あとでグッズ選ぶぞ」
「了解だってさ」
六分が長く感じた。一番近い道で少し正気になったワーリオと黒門に入った。
用意をしているおじさんや、テキパキと動くおばさんを目の前にして、果たしてこれを置いて行ってもいいのか。そう思い大黒鮮魚店を目指した。
店の前に着くと、店の横手に何か棒状の物がうねっていた。
猿ぐつわをされた成人男性。タスキがかけられてこう書かれていた。
「私は娘を放置して浮気相手とまぐわっていた最低な父親です」
下には賽銭箱が置かれ、「百円入れたら横の棒でこづき放題」と書かれており、中を見ると百円が数枚入っていた。
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