第11話 保護

「あのお兄ちゃんが全部話してくれたよ。ま、ちょっとお酒飲んでいるから、完璧に信じろいうにはちょっと横暴やけどな。悪いけど、一晩過ごしてもうで、今からパトカー清掃か。年やいうのに当直はろくなことないで保護室空いてないねん。よおさん増設してんけど、酔っ払いは多くてな。休憩室にあのお兄ちゃんとおってくれ。案内させるからな。じゃ」


 警察のおじさんお疲れ様です。そしてその教育をしたのはうちのバンドメンバーです。


 そういえば、あかりちゃんのお母さんとジャニケンはどうやってここまで来たのだろうか。



「全くうちの署は宿泊所やないっちゅうねん」


「まぁ、初野さん。文句言わんと、ここやし」

 警察官か本当にと言えるくらい身長は低い日焼けをした男と警察官か本当にと言えるくらい細身で肌の白い男だった。


「あの、初めまして」

 一回目はあまりの弁舌っぷりに初めましてのあいさつどころでは無かった。


「あぁ、初めまして」

 向こうも覇気が削がれたようで静かに礼をした。


「あの今日は」

 細身の男の言葉が少しおかしい。今日はって決まっているのに、でもここで笑うといけない。


「ええっと、お世話になると」


「あぁ、その今日はお客さんが多くて、悪いけど宿直室でいてもらうことになったから。とりあえずコイツに案内させるわ」


「俺かよ。シャワーがあったらええねんけどな。転がってゲロ吐いた人間やろ?」


「それはこの人やないよ。ゲロはもう少し童顔やし」

 ワーリオはバンド一の童顔フェイスでジャニケンは長身イケメン、ピノは幸薄で庇護欲をそそり、ホーローは謎。


 この謎に僕は甘えていたし、よく考えてみると少し辛くもあった。何も考えていないからそう見えるのではないか。分かっている。自らの表し方だ。ホーローは昔も今も未来も夢と不思議を与えるメンバーだ。


 いつまでもそれでいいのかと問う。今はいいじゃないかの今はどこまでの今だ?



「おーい、兄ちゃん。兄ちゃん」

 こんなことを考える場面では無かった。


「行くで」

 大丈夫か? 気持ち悪無いか?


 背の小さい男は気遣ってくれるが、それはワーリオのパターンがあるからだろ。

 宿直室の隅にワーリオは転がっていた。くさい。


「一応、換気はしている。泊るときにこれやと休養出来んからな」


「ご迷惑をお掛けしてすみません」


「乗せた同僚がそんな雰囲気無かったのに座った瞬間やって言うてたわ。どっかから遠隔操作されたんちゃうかって」



 思わず笑った。警察官の視線を感じ、一瞬で止めた。



 室内は整頓されていたが、念の為こういう満席なことも想定して、別の場所に荷物は移動させたかもしれない。


「じゃ、そこに転がって寝て、んで明日には出て行ってくれ」


「取り調べは?」


「あの背の高い、おに」


「男です」


「そうお兄ちゃんとお母さんと女の子で十分」


「待ってください。こんなとこであかりちゃんを」


「ドアホ。ちゃんと家に帰したわ。君の仕事はこのお兄さんを始発で連れて帰ることや。んで、こんなとこというのはどういうことや?」


「もう初野さん、遅い思うたら、入電」


「じゃ、そういうことで。始発まであと三時間、がんばれよ。兄ちゃん」

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