第9話 後悔先に立たず
「お肉でもいいんだよ」
「でもお肉高いでしょ?」
「気にせずに食べていいよ。大人が全部払ってくれるから、チョーさんワーリオさん潰してください」
奥のおじさんコーナーに声を投げた。
「おい、俺は子守りだぞ」
「一杯飲んでいるアンタに配慮もねぇ」
「本当にいいんだな」
チョーさんはにやにやしながら尋ねて来た。
「逃げられるよりはマシです」
「何を言ってんだ」
「この店はな、俺の逸品が置いてあるんだ」
ワーリオは酒がかなり弱い。チョーさんには余裕があり、分かっているもので多分こちらの禁煙スペースからは見えないところに連れ込むだろう。
「ここなんでもあるね。このバクダンってなに? 爆発するの?」
うん確かに爆発はする。
「とりさんっておつくりあるの?」
「美味しいよ。食べる?」
そこから和やかな時間が流れた。ちょっと距離が近かったが、これくらいどうってことはない。
状況が変わったのは違う店で二次会をしようと流れが出来た時だ。
「ホーロー。ちゃんと潰したぜ」
潰されてしまって分かった。この子どうしよ。
「にしても本当にワーリオってクズだな」
「あのおじさんは?」
「成敗した」
チョーさんはあかりちゃんの頭をガシガシ触った。たばこ臭さが移るではないか。お前、止めろ。
「あかりのおじさんどこ?」
「これ本当に潰して良かったのか?」
「懲罰的措置だったんですが」
「これでホーローは二次会に行けなくなった。そして大阪府の条例で十六歳未満の保護者同伴でも二十時以降の外出は出来ない。その二十時はとっくに過ぎている。経緯を全て警官の前で話すのか? お? お?」
それくらいの配慮はしてくれそうだが、二次会に行けないのは確定した。その上、明らかに酔い潰れて地面とこんにちはしているおじさんと条例アウトの少女。そして無職の成人男性が出来上がった。
とにかくジャニケンに電話をしよう。
「なに?」
「酔い潰れたワーリオと明らかな女子小学生と無職のおじさんが出来上がった」
「災難ね。こっちも相当めんどいわよ」
「どういうこと?」
「今、めんどいことになってんの。ワーリオの兄貴、よく使っているホテルが私伝手があって、乱入したら他の女と浮気していたの。今、縛り上げて本妻召喚中。本妻に事情を説明して、そっちに向かわせるわ」
「早くしてくれ」
「子どもだし、保護されても暑いところに置くことは無いでしょう」
「警察署まで迎えに来てくれる?」
「アンタは助けてあげる。ワーリオは絶対に許さない」
「ちょっといいですか?」
警察官がこちらに近づいてきた。クソ、警察署が近いせいか少し早い。
「来た、切るぞ」
「どのへん?」
「駅前の吉野家の前」
「分かった。幸運を祈る。オーバー」
「お兄さんたちとその女の子の関係は?」
「この泥酔している人の姪です」
「お兄さん、大丈夫?」
若そうな警察官がこちらによってきた。ワーリオは年配の警察官、あかりちゃんは女性警察官。誰かが通報しただろ。三人一気の登場は普通、ないぞ。
「お兄さん、身分証明書見せて。仕事は? 普段何をしている人?」
「牛丼屋で肉盛っています。それとバンドやっています」
「打ち上げか何か?」
「そうです」
「で、そこの女の子とどういう関係?」
チョーさんは言っていた。条例で連れまわした時点でアウト、ワーリオが潰れているので、弁解のしようもない。
しかもジャニケンの話だと事態は相当ややこしい。おそらくワーリオの兄があかりちゃんを何らかの事情で預かっていた。
ところがイケない遊びが出来るチャンスが出来た。
どうせそこであかりちゃんに兄が今日は大事な用があるのでワーリオと一緒にいろと言った。
だが、現状。もしこの潰れている男が保護者であるとすると俺が保護者であるワーリオを泥酔させ、ホテルに連れ込み、何やらしようとしているという予想が最有力候補だろう。なんで潰させた俺。
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