第8話 姪のあかりちゃん
声も今日は出てくれた。明日も姫たちの心をつかんで、男の子にも見てほしいというジレンマを抱え、姫たちをワーリオとチョーさんが持ち帰ってしまうだろう。これが僕にとってのいつも通りだ。
これからいつだってばあちゃんが見ていてくれる。ばあちゃんはけして善人では無かった。当たるところを間違え、癇癪をすぐに起こした。その度にコロッと変わって涙ながらに謝るばあちゃんを見るのは辛かった。
ばあちゃんにしたら、振り上げたこぶしを振り下ろしたことに対する罪悪感だったのだろう。でも僕はそれがすごく怖かった。
父が善人になったのはばあちゃんの反面教師だったのかもしれない。じいちゃんが死んだとき、ばあちゃんは解放されたのだろうか。それくらい聞くチャンスはあったのに聞きそびれたな。
保険金はすぐに保険会社から支払われた。貯金に回し、生活費はご飯に牛肉を上手くのせて過ごしている。
次のライブまであと二週間。練習とバイトは疲れるけど、きっと声が使える内は頑張ることが出来る。だから、神様。三十になるまで僕を生かしてください。僕はふと対バンを思い出した。サムスやブラザーズと数組のバンドたちだ。
またびしょびしょのシャツを着た女の子に出会わないかな。あんな熱心な子やたくさんのお姫様と男の子の為にも僕は神様から借りた声を使うのだ。
幸い今日は夕方以降、雨は降らないそうだ。
「シンロックスミナミの成功を祝して乾杯」
七月も中旬に差し掛かってすぐにシンロックスミナミは終わった。
打ち上げの音頭はなんとなく僕が取ることになった。
事前にワーリオには女を連れて来ないように、絶対に連れて来ないようにと言い含めた。連れて来たのが幼女だった時はついに犯罪をしたと失望した。
「違う。お前らが思っているやつではない」
「ピノ、警察」
いち早く僕はピノに言葉を投げた。
「携帯の電池がゼロ」
ピノは消え入りそうな声で携帯の画面を見せた。
「役立たず」
ジャニケンが横目でピノを睨み、携帯で警察を呼ぼうとした。
「ま、待ってくれ。せめて説明を」
「五分やろう」
「その兄貴の娘で兄貴が二人目をこさえるから、その間預かってくれって」
「ホーローと私今同じこと思ったわよね。ホーロー言ってあげて」
「あんたら兄弟揃ってクソだな。兄貴は何やっている人?」
「スタジオDJ」
「今、私偏見だってことは分かるけど、DJに対する評価下がったわ」
「初めまして、日向あかりです。よろしくお願いします」
ワーリオの仮称姪はペコリと挨拶をした。
「よろしくお願いします」
みんな戸惑いながら頭を下げた。
「アンタ、今日飲んだらメンバー紹介の時にこのエピソードを発表してから、演奏開始だからね」
「もう飲んじった」
「兄貴の電話番号」
「へ?」
「へ、じゃない。兄貴の電話番号」
「これだよ。まさか製造現場に電話するなんて」
「おい、クソが」
ジャニケン切れているよ。何回も通話ボタン押している。
「繋がったが、逆ギレされた。本日、私とホーローは飲めないことが確定した」
「え、なんで」
「アンタは子守り、私はカチコミ。それでは行ってくる」
「お兄ちゃん行っちゃうの?」
「あかりちゃん。大人にはね、悪い大人を倒さないといけない時があるの」
「じゃ、お兄ちゃんはヒーローだね」
「よっ、イケメン」
まだこの状況になっても元気なワーリオには恐れ入る。
「俺だって子守りが得意なわけじゃない。それこそ若い子たちに人気のチョーさんみたいな」
「喫煙席でプカプカたばこ吸っている人間に任せることが出来ると思う?」
「無理だな。でもたばこくらい俺だって」
「禁煙」
「あかり、ご迷惑をおかけするようだったら帰ります」
「ほら」
「ここからおうち帰ります。パパとママはいないけど、晩御飯作れます」
「分かった。あかりちゃん、何食べる? 何でもいいよ」
「じゃ、このトウモロコシのやつ」
狙っていたのかというほど遠慮が無い。これが血の力か。
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