第2話 ゲイのジャニケンとふわふわとしている僕
「いやー真似できないわ」
僕はぼそりと呟いた。
「ホーローもう帰り?」
アクアのリーダーでドラムのジャニケンが声を掛けてきた。
ジャニケンとはジャニーズが好きだからつけた名前、本物のファンに怒られそうだ。むしろ怒られろ。
ファンでジャニーズが好きな女の子がいて、その子とLINEを交換している。ジャニケンの最近の悩みはなまじ外見が二枚目なせいで、ジャニーズの話をしているうちに女の子がジャニケンにガチ恋してしまうということだ。
現にガチ恋勢が二十人まで膨れ上がった。まるでホストである。
バイトの時以外にお酒を飲まないし、王子様スタイルでもない。ただ顔面は二枚目である。LINEもこまめに返すし、ライブの告知もしっかりする。
アクアの中では一番の《生餌》》である。バンドリーダーで気遣いも出来るし、ファンを大切にする。そんなジャニケンの姿を見に来るファンも多い。
だが、彼女たちはジャニケンがゲイということを知らない。
「うんまぁ、もう少ししたら」
「もう少しってあんた終電来ちゃうよ」
ジャニケンは様々なバンドメンバーにジャニーズの特集を見せ、この厚い胸板に抱かれたい、痩せた体に指を添わせたいと妄想を披露するが、誰も相手をしない。
少しでも関心を見せてしまえば最後、ジャニケンから二時間は離れることが出来ない上に仮にその場を脱したとしてもまた会った時に写真集を見せ、「あんたこの前帰ったでしょ。だからあんたの為に選んできたの」と言い、本をどっさり渡される。推しは亀梨君らしい。
だからジャニケンにジャニーズの話をすることは界隈で禁忌とされている。
「どうせあんたライブの余韻? なんて恥ずかしいことを味わおうとして、もう思春期さん」
「うるさいな。いいだろ、僕たちなんて季節ものなんだから」
学生バンドの延長でバンドを結成することはある。
だが、歳を重ねるごとに自分たちは音楽で飯は食えないし、社会に属していくというように冷めていくのだ。
結局、彼らの様に冷めなかったのが僕たちであり、チョージローであるのだ。
季節ものだと思っていながら、僕たちはステージに上がる。
いつ終わりが来るか分からない。
僕は男の時もあれば、女の時もある。中性的ってやつだ。
それを公表していないけど、もしかしたら公表したらより少し息が苦しくなるだろう。
何なのか分からないみんなの夢のホーロー、男の子でもない女の子でもない。
僕は音楽と夢何より声を売っている。ジャニケンがゲイだということを黙っているのもそのせいだ。
新しいバンドやグループはどんどん出てくるし、それぞれが僕たちを勢いよく抜かしドームツアーや武道館でイベントを企画するのだ。
アクアだって頑張っている。
大きな公園のロックフェスに出たり、たった一枚のアルバムライブツアーに出たり、時間があれば牛丼屋でバイトしている。
ご飯に上手く牛肉を載せることが店で一番得意だ。
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