一章〈道端の隅に咲く小さい花〉1

 真夏の、太陽が照りつける炎天下に、汗ひとつ流さず、乱れのない隊列を組んだ、百人ほどの少年たちは、敬礼の姿勢を崩さない。


「今日はここまでだ。 各々、欠点を把握し改善に努め、精進せよ」


 血の通わぬ、冷たく言い放たれた教官の言葉が、少しも微動だにせずに立つ、少年たちの鼓膜を震わせた。


 今しがた、四十キロメートルの長距離を、二時間ほどで走り抜いた彼らは、教官の姿が見えなくなるまで敬礼の姿勢を崩さなかったが、その姿が校舎の中に消えるやいなや、隊列は乱れ、各々に話したりと、校庭から校舎に向かい歩き始めた。


 彼らは、遺伝子操作された、 改革の為の新人類と銘打たれた、改新軍人第三世代かいしんぐんじんだいさんせだいの訓練兵であり、指令が下れば特攻特殊暗殺部隊とっこうとくしゅあんさつぶたい、通称、特S部隊とくエスぶたいに軍人として部隊配属される。


「おい。 サイ、待てよ。 無視するなよ、サイカさーん 」


 隊列の後方に位置していた少年シンエイが、前方を歩いている、少年サイカの背中に勢いよく飛びかかったが、サイカは不機嫌そうに言い放った。


「重いし、暑いから離してよ」


「いいだろ。 お前最近、冷めたいよな」


 シンエイは軽い気持ちで言ったつもりだったが、サイカは今にも殺しそうな、底知れぬ闇に沈んだ冷たい目で一瞥する。


「はいはい、すみませんでした。 サイは訓練が増えてお疲れだよな」


 シンエイは、手を置いていたサイカの肩を片手で掴むと、全体重を掛けてサイカの上で倒立をし、そのまま空中で一回転して着地した。


 そんなシンエイには、目もくれなかったが、腕を引っ張り、耳元に口を寄せた。


「シンエイ。 近々、第五世代の入校が決まったらしいんだ」


 耳元で囁かれた事に悪寒がしたが、それよりも、サイカが告げた話の内容に、シンエイは背筋が凍りそうだった。


 シンエイの目はサイカと同様に、闇を孕んで暗く底知れぬ闇に沈み、二人の周囲から漏れる殺気に、近くにいたの少年たちは離れていった。


 シンエイは大きくため息を吐き、サイに聞き返した。


「本当なのか? 情報源、諜報科の奴だろ」


「うん。 前の奴は消えたから、新しく最近組んだばかりだけど、かなり有能」


 サイカが言い切る前に、少年二人は殺気を感じとり、反射的に身構えようと動く。だが既に遅く、殺気を放つ人物は二人の間に立ち、刃物のように鋭く尖った爪を二人の首にあてがっていた。


「はい、死んだよ」

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