episode #6

「でもさ、今回のヴィランのやり方は私全然好きになれなかったんだよね。自分の事を好きな人の恋心を利用するってさ、ちょっと酷すぎない?」

「分かるよ、ちょっとサイコパスみたいな」

「ホント! アイツはヤバいよね! ちゃんと捕まえられて良かったぁ」

 まるで実在の犯罪者が捕まったかのように、比奈子は安堵の声を上げた。その様子に美鈴はフフッと声を洩らして笑った。

「お前達すっかり白熱してるな」

 マスターが楽しそうに笑うと二人のコップにアイスティーを注いだ。

 ホイップクリーム乗せアイスコーヒーを序盤に飲み干した二人は、アイスティーとミントティーをそれぞれ追加注文していた。この店のウリはコーヒーなのだが、紅茶やハーブティーが絶品なのだ。

「ありがと、おじさん」

「ありがとうございます」

 この二人が紅茶ばかり飲むものだから、マスターは二人専用のお代わりアイスティーを作り置きしているのだ。淹れたてより味も香りも劣るが、タダで飲ませて貰っているから、文句などある筈も無い。

「だってさぁ、おじさんも思わなかった? ヴィランのやり方が納得出来ないって」

「まぁ、そうだな。でもな、奴は原作ではもっと筋が通ってたんだけどな」

「そうなの? じゃ、改悪って訳?」

「いや、そんな事は言ってない。むしろ実写ならこのくらい突飛な方が画も映えるし面白くなるんだよ」

 腕を組みマスターが答える。

「えー? 映えるかなぁ? 美鈴はおかしいって思ったでしょ?」

 比奈子が美鈴の目を見つめる。美鈴は自分の言いたい事を何とか纏めて、目を伏せた。

「私は……さっきも少し言ったけど、彼はサイコパスだと思ったの。やった事は間違ってるし良くないけれど、でも彼には彼なりの正義があって……ただその為に真っ直ぐだったんだって感じられて、なんて言うか……私は嫌いになれなかったよ」

 比奈子は口をへの字に曲げて、そっかぁ、と息を吐いた。

「まぁ、そうやって誰かが擁護してくれて嬉しいよ」

 マスターはしみじみとしたように呟いた。

 店の壁に飾られた鳩時計からカチリと言う音が鳴り、鳩が鳴き声を上げながら二回小窓から飛び出した。

「え、もう二時?」

 比奈子が時計を眺めて声を上げた。

「お? この後用事でもあんのか?」

「うん、もう一回見に行こうって話してたの」

 そう言った瞬間、マスターは声を上げて笑った。

「そりゃいいや。楽しんできな!」

 マスターの声を後に二人は店を飛び出した。

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